第84話 哮り立つ
「あああああ」
可愛すぎる。何って美鳥がだよ。
シャワーでさっぱりして、バスルームを出たんだ。まあ、美鳥も化粧を落とし終わってるだろうし、待たせたかなっては思ってた。ラッキー助平も期待はしていたんだ。
それがドアを開けたら美鳥がいる。微かに唇を開き、目をバッチリと開けて俺を見てくるんだ。
さっぱりとしてあどけないと言うか、無防備で安心し切ってるとか、とにかく可愛いんだよ。前髪を上げているせいか目が大きく、くっきりしている。
そして淡く碧色が入るヘイゼルの瞳が俺を見つめてくるんだよ。
意識が飛んだ気がする。なんか記憶が曖昧、話をしたっけな、もう神経の反射だけで動いている。
バスルームはすれ違いに美鳥が入って行く。俺は、パウダールームのドアを開けて外に出たんだ。
そこで意識が戻ったんだね。でも美鳥のあの顔が頭から離れない。膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込み、体から何か噴き出すように叫んでしまった。
暫くその姿勢のままだった。そのうち早鐘を打っていた心臓も落ち着いて、俺も落ち着いたと思う。
よかった事に腰にはバスタオルを巻いていた。まだ、全部を美鳥に晒すわけにはいかないからなあ。立ち上がって手に持っていたバスローブを羽織り、ベッドまで歩いて腰掛けた。
「さっきは何を話したっけ」
バタンと後ろに倒れて、天井を見ながら呟いてしまう。
「確か………
「俺、もう上がるな」
「はい」
「呼ばれなくても来たのは?」
「えぇ、一孝さんの背中を流そうかと」
「少し遅かったよ」
「みたいですね、残念です」
………」
美鳥は健気だね。癒されるよ。
ん?
美鳥はこの時、どんな格好してタァ。
たしか、
おぅっ
美鳥は片手を伸ばして、
反対側の手は、美鳥が自分の胸元のタオルの端を持っていた。そして見えたのは、肌色の、
肌色の………
た、に、ま
肌色の胸の谷間ができていたんだ。
えっあの美鳥だよ。ぺったんこで小さい男の子と変わらなかっだ美鳥がだよ。
そうか、あれから5年近く経ってるし、なあ。
少し前には抱きつかれたり、おんぶしたりして大きく育ったねーと思っていたけど、あの谷間。
もっとじっくりと見ておけば良かった。言えば美鳥のことだから、顔を赤く染めて恥ずかしくしながらも、見せてくれたと思う。
しまった。反応してしまっている。なんか爆発しそうな気がする。沈めないとって、仰向けのまま、上を見て天井の柄を数え出した。でも、堪えきれずに悶えてました。
ピッピン
「うわぁ」
いきなり、耳元でメールの着信があって慌てた。ローブを着てベッドに座るときにヘッドボードに置き場所を変えていたんだっけ。スマホをとり、画面を見ると見知った人からだったよ。
「美華姉かぁ、朝からドッキリな人だったけど、一日の最後まで俺を驚かしてくれる」
1人ごちてしまう。朝は美鳥の真似をして俺の住むマンションの部屋を襲ってくるし、ひるまは、マゼンタとしてこき使われた。彼女もハーバープレイスをローラーブレードを履いて滑りまくっていた。嵐みたいな人だったよ。
「まあ、最後にお膳立てをしてくれたのは感謝だね」
普段、家族やら何かに邪魔されて、なかなか2人きりになれなかったんだ。美鳥と一歩先に進もうとしたいけど進めない。
焦ったく思っていたところへ、ホテルに一晩二人だけって言うシチュエーションを作ってくれたんだ。今、彼女は彼氏のいる海外に行くために空港行きのエクスプレスに乗っているはず。
「えっとメールの中身は」
スマホの画面をポチポチっとしてメールを確認する。
「なになに?」
画面には、
…………………<携帯>
いま、エクスプレスの中からメールしてる。
一孝、
1日お疲れ様。
美鳥とは、どうだ?
しっぽりとしてるか?
それともお楽しみの最中か?
ウッシッシ
ならごめんね。
美鳥のことは任せるよ。
優しくしてやってくれ。
くれぐれも、
擦るとか掴むとか鷲掴みにするとかはするなよ。
女の子はデリケートなんだからな。
……俺は、思わず部屋の中をキョロキョロと見回してしまった。もしかして美華姉が隠れていて、見ていたんじゃないかと疑ったんだ。
『痛い』
美鳥から立ち上がる香りに絆されて、後ろから抱きついたときの叫びが耳に残っていた。
『優しくしてねって言ったのに』
涙をいっぱい溜めて俺を見つめてきた顔も残像が薄れない。
昂るものも治ってしまう。
「すいません」
美鳥に酷いことをしてしまいました。
俺は正座をして姿勢を正し、ベッドに乗せたスマホに土下座をした。
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