第82話 POWA POWA

 何かがひっかかかっていた。


あっ、


「お姉ちゃん、ポニーテールのままだ」


一孝さんも思い出したようで、私と顔を合わせて苦笑い。


「慌ただしい1日だったからね。まあ、途中で気づくでしょ」

「だね」


彼の言葉に相槌をうつ。 





ハーバープレイスの帰りに空空と微睡んでいるといきなり、


「なっそうだろ」


お姉ちゃんにウインクといっしょに話を振られたの。


「はい」


 思わずに返事を返してしまった。いったい何が起きてたの、私は何に返事したのかな、ドギマギしてしまう。

 お姉ちゃんと話をしていたママから、


「美鳥ちゃんは美華ちゃんの泊まっているホテルで静かに休みなさい。それで良いかな」


と告げられた。


え?



  ママから見えづらい角度でお姉ちゃんからパチパチとウインクでサインを送ってくる。ママたちはウチノミをするみたいなんだ。

 お姉ちゃんは約束を覚えていてくれた。一孝さんと2人きりになれるんだね。


お姉ちゃんありがとう。


「うん、いいよ。ママたちは、私に気兼ねなく飲んでお話して、久しぶりなんでしょ」


私と一孝さんは、お姉ちゃんの見送りで家を出ました。時間がないのでシャワーすら浴びてない。お着替えだけ。匂いキツくないかな。

 そして3人駅へ向かいました。




  お姉ちゃんを見送った後、駅の南北を渡る大通路を2人で歩いています。

 通路の左右はお土産とかお弁当の店舗がひしめき、通りの真ん中でも'ここだけの販売です'って言うお菓子のお土産売り場を出している。

 人の波とはよく言ったもので通路いっぱいに大勢の人たちが歩いている。流れに逆らわずに歩いている人、逆らっている人。横切っている人、家族でとか、ベビーカーを押している夫婦。バックバックを背負って足早にいく人。

 そしてカップル。私たちもそのうちのひと組。一孝さんと手を繋いで2人並んで。

  不思議なもので、これだけ混沌としているのにぶつかる人は少ない。なんとなく人の流れができているのです。通路のほぼ、中で左右に互い違いに流れていく。

それでも例外はあるもので、


「痛い!」


急いでいるのだろう、私を追い越しざまに肩にぶつかってきた。相手は気にもせずにスタコラと人並みに紛れてしまう。


「もう」


 なんて呟いているとぶつかった方の肩を持って一孝さんが抱き寄せてくれた。

一孝さんの香りが強くなり私を包む。

 ぶつけられた肩の痛みも分からなくなってしまった。

  安心して心は薙ぐけど体は熱ってくるの。心臓もバクバクいってます。

私は一孝さんの腕を抱いて体を寄り添えた。


「ウフフ」

「何、笑ってるの? 肩は痛くない?」


  心配して、私の顔をのぞいてくる彼の眉は心配そう。


「大丈夫ですよ」

「じゃあ、なんで」

「嬉しいのです。幸せいっぱいなんです。貴方と2人寄り添って歩いていけるなんて、 少し前なら思いもできなかったこと」


もう、顔から火が出るくらい暑くなっている。耳も熱い。

彼から見たら、真っ赤になっている私が見えるはず。


彼が私の耳に唇を寄せて、


「俺だって、同じだよ。美鳥を抱きしめることができるなんて」


そっと囁いてくれる。言葉が耳から入り、頭の中を震わせる。

 ただでさえ熱くなっている頬が燃えるような熱さに変わる。

  心臓は早鐘を打ち、何もかもが頭にのぼってくる。

 腰から下に力が入らない。足元が覚束なくなる。

だから、一孝さんの腕を強く抱きしめるの。

 そうすると一孝さんと香りが強くなるように感じられる。

胸が張り裂けそうになる。もう、耳まで熱いよ。幸せが体の中でループしている。


 ここは、天国、それとも…


 2人寄り添い、無言で往来に沿って歩いて行きました。

 しばらく間、幸せに浸っていたのだけど、風が頬を撫でていく。意識が浮かび上がる。

 大通路を渡りきり、いつのまにかエントランスも出てしまい。駅舎の外にいました。


「一孝さん」

「はっ、いつの間にか外に出てる」


 彼も、私と同じで幸せに浸っていたのかな。一緒なのは嬉しい。

 未だ赤く染まった彼の顔を仰ぎ見て、そのまま後ろを振り返る。

 日も傾き、薄暗いなか、赤レンガの駅舎がライトアップされている。人の往来はあるけどライトに照らされているところだけは、静かに時が流れていく。

 そんな様を一孝さんと2人眺めていました。のんびりと景色を見た後、お互い顔を見合わせて、うなづきホテルに向かって歩みを再開。


 お姉ちゃんが泊まっていたホテルは、駅からそんなに離れていない。まもなく到着したの。

 カードキーを持っているから、そのままでも部屋に行けるんだ。エントランスに入り、ロビーを抜けてエレベーターまで行ってもいいのだけど。お姉ちゃんに言われたことがある。


「一孝さん、フロントによってバスソルトもらってきますね。お姉ちゃんに言われてました」

「あぁっ、行ってきな」


 と言いつつも彼は切ない顔をしてる。


「やっぱ一緒に行くよ」


 一孝さんは、私の手を取り、フロントに向かう。

 お姉ちゃんから話が通っているらしく、係の人にカードキーを見せても怪しまれるとはなかった。

徐にカラフルな包みがたくさん入った、小さなバスケットが出されたんで、お気にの色の包みを選んだ。

 すると、係の人が、


「こちらは、明朝の食事のチケットになります。一階のレストラン・アゼイリアが会場になりますのでお越しください」


 なんかフロント係の人にカップルだと見透かされているような気がして、ちょっとだけ顔が熱くなってしまう。


 エレベータールームに行くとすでに女の人が待っていた。


   チン


  ホームドアが開いて、共に乗り込んでいく。

 恥ずかしい気持ちがあり、同乗した女性から隠れるように一孝さんの影に寄り添う。

  でも、見えないように手は握ったよ。

 彼もギュッ、ギュッと握り返してくれた。私は、彼の体に顔を埋めて微笑んでしまう。


 エレベーターを降りたのは私たちが先になった。廊下では見られるかもって気が気でなかったので自然と足が早くなる。

 その割には、ドアノブのところのスリットへカードキーを差し込もうとしても指先が震えて上手に入れられなくて、一孝さんに手を包んでもらって事なきを得たんだよ。


 ドアが開いて滑り込むように2人とも部屋に入った。


まだ、明かりのつかない、暗い中で、彼に両肩を持たれて私は一孝さんと向き合う。そして、点灯した常夜灯の薄明かりの下でお互い顔を近づけて、


   ♡




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