第81話 see お姉ちゃん off

テーブルの上に葉の形の飯台に'松'の握り盛り合わせが乗っている。


「遠慮せずに食べな」

「ありがとう、お姉ちゃん。でも、本当に良いの?」

「良いのって何が?」

「こんな良いお寿司、食べちゃって」


 そうなの、ここは、駅構内のコンコースにある寿司屋さん。周りはスーツをきた会社員、明るく笑っている老夫婦、子供姉妹を連れた家族、いろんな人たちがお寿司を食べている。

 そんな中でお姉ちゃんと私、そして一孝さんが握りが綺麗に並べられた飯台があるテーブルを囲んで座ってる。


「良いって、良いって、ママとパパに、たんまり餞別を貰ってきたし、ご褒美だよ。美鳥が1日頑張った御褒美」

「そう、なら、いだだきますね」


 碧色の飯台に乗る、白身のヒラマサからいただいていく。次は貝、そしてマグロ。


「美味しい」


 思わず手で口を塞いで、味を楽しんでしまう。


「だろ! ここで以前に食べて美味しかったんだよ。美鳥にもって思ってな」

「うん、うん美味しい。ありがとうお姉ちゃん」


 箸は、軍艦のイクラを掴み、口に運んでいく。そしてウニも。ちょっとお口の中が濃くなったんで玉子焼きにしました。あまーくて美味なの。

 隣に座る一孝さんは、静かに黙々と食べている。多分、量が足りないだろうから、お稲荷さんも追加してあります。相好が崩れていますから気に入ってもらえたようです。

 

 赤だしの味噌汁を啜っているお姉ちゃんに聞いてみる。私は茶碗蒸し。


「ここで見送りで良いのかな? 一孝さんいるから荷物持ってくれるよ。サムソナイトが重そうだし、本当に良いのかな?」


 味噌汁のお椀をテーブルに置いてお姉ちゃんは、


「ホームは地下五階なんだよ。連絡通路も長いし。そこからエレベーターとかあるから、荷物も苦にはならないよ」


 そうなのよ。空港までいく特急のホームまで、かなりの距離があって、地下深く降りていく。なんで、こんなになってるのって思ってしまう。


「お姉ちゃんが良ければいいけどね」

仕方ないね。


 続けて、私は寿司を楽しむ。飯台からイカを取り、ネタに醤油を少しつけていただく。シコシコとした食感に旨み。う〜ん美味しい。次にエビを食べてお茶で一呼吸。そして後に控えしはトロ。舌の上で蕩けます。余韻を楽しむ。ガリでお口の中をサッパリして穴子。かけてあるタレがいいの。最後にかっぱ巻きで締めました。


「ご馳走様。もうお腹いっぱい。幸せぇ」


 私は思わずお腹をさすってしまう。オフホワイトのふんわりプルオーバーにキャミワンピのゆったりスタイルだから、膨らんだお腹も目立ちません。


「喜んでくれて、こっちも嬉しいよ」


 お姉さんは、ニッコリしながらお腹をさすっている。

 やっぱり姉妹だね。仕草も似てしまいます。お姉ちゃんは黒いオフショルダープルオーバーにベェージュのフレアサロペットロングパンツ。ハイウェストだけど、後がゴムウエストになっているから、スッキリしているけど苦しく無いんだって。飛行機で長時間乗るから、こういうのが良いそうです。

 最後に二人揃ってお茶を飲み干しました。


「じゃあさ、会計済ませておくから、二人は外で待ってて」

「はぁい。一孝さん行こう」

「おう。…美華姉、ありがとうございました。満足しました」


 お姉ちゃんは訝しげにジト目で、


「ほんとかあ、黙々と食べてるから、好みじゃないかと思ったじゃないか」

「そんなこと無いですって、美味しすぎて言葉が出なかったんですよ」


 ニッコリと笑顔にお姉ちゃんの表情が変わっていく。


「満足してもらえて良かったよ。先に出てな」

「はい」


 二人してお寿司屋を出ようとすると、


「美鳥! ちょっと待って」


 一孝さんを先に行かせて、振り返ると、


「これ」


 お姉ちゃんは、封筒をくれた。


「中を見てみな」


 催促されたんで口を開けて見てみた。

カードが1枚とカラフルな袋が数枚入っていた。


   ポン


 中身に見当がついて赤面してしまう。


「お姉ちゃん、こ、こ、こっこれって」

「女のエチケットだよ。まあ、サイズがわからないんで各種揃えたけどね」


 誰に見られている訳ではないのだけれど、真っ赤の顔でキョロキョロと周りを見てしまう。


「恥ずかしがらない。なんでもないような顔をしとけ。どうせこれからお世話になるんだろ」

「お、ねぇーちゃぁーん」

「は、は、は、」


 カラカラと笑いながら、お姉ちゃんは店を出てしまう。私は、いまだにキョロキョロしつつ、ついて行った。


「カードはホテルのルームキーになる。無くさないでよ。帰りに戻してくれれば良いよ。もう支払いはしてあるから。冷蔵庫とかで使ったのは、ちゃんと払ってね」

「あい」


 恥ずかしさが抜けないの。誰かに聞かれているような感じが消えない。堂々と歩いている姉の後ろに隠れるようについて行った。


 しばらく構内を歩いていくと連絡通路になったのか店舗がなくなった。その先にエレベーターの入り口が現れる。


「じゃあ、ここで良いよ」

「いってらっしゃいお姉ちゃん。楽しんできてね」

「ああ、メールで向こうの様子送るよ」

「たのしみにするよ」


エレベーターが上がってきて、ホームドアが開いていく。


「一孝!」

「はい」


 お姉ちゃんはエレベーターに乗り込んで、こちらを向き、一孝さんにサムアップを見せて、


「決めろよ。美鳥を頼む」


二人して赤面しました。



 そのうちにエレベーターのホームドアが閉じていく。ドアにある窓から、お姉ちゃんは手を振ってる。私もに手を振り返したの。そして窓は下がって行く。


 しばらくホームドアを見ていたけど、一孝さんが手を繋いでくれた。私は彼を振り返り見て、無言でうなづく。一孝さんもうなづき返してくれた。二人並んで歩いて行きました。


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