第52話 カフェ・フォレストハープ

 朝からいろいろと美華さんとあったせいか、ボタンを押すことに躊躇いを覚えた。現在、俺は琴守亭の玄関にいる。

 先日に、


「一孝くん、アルバイトをやらないか」


 そんなお話をいただいた。相手は琴守奏也さん。美鳥のパパさん。


「休みが続く時あるでしょう。その時に美桜さんたちとイベントがあるんだよ。手伝ってもらえるかなぁ。もちろん給料は払えるからね。奮発するよ。どうだい?」


「アルバイト料のことは別に。奏也さんのお願いだったら、お手伝いさせていただきますよ。あの休みの時は部活も休みなので、空いてますし」


 学園の方針で、あの休みの時は全面休校になる。立ち入りも原則禁止で連絡の受付も外部に頼む徹底さ。

 まあ、部活の上位の奴らは外のクラブと合流して練習している。エセ一年生の俺はもちろん休暇組。


 数刻の逡巡の上でインターフォンのボタンを押す。


「いらっしゃいま… 一孝さん。行きますね」


 美鳥が返事をしてくれた。

 中に入る前に自己チェックする。髪とかした、髭も剃った。今日は麻の七分袖露エリシャツにボーダーtシャツ、熱くなれば脱いで調整。それにライトブラランのコットンパンツ。


OKかな。


そのうちにドアを開けてくれた。

美鳥の笑顔が見られるかとドキドキするね。


「いらっしゃい、一孝さん」


えっ?


「ごめん!すいません。間違えました」


 空いたドアには亜麻色の髪を緑色のリボンでまとめてボニーテールにし、緑色のギンガムチェックのリボンブラウスに黒色のAラインチュチュスカート。白いタイツを履いた女の子がいた。


「美鳥かな?」


 印象に残るぐらいのマシマシまつ毛の大きな目、赤い唇。


「いらっしゃいませ!お客さ様。カフェフォレストハープへ、ようこそ!」


 つま先を揃え片手にトレイを持ったように肩口に構え、もう片方は腰に。


「本日は、私くしライムが、お相手させていただきますね」


ウインクをくれた。


「………」

「お客さま」


「………」

「一孝さん」

「お兄ぃ?」


はっ?


 言葉をなくした。絶句した。呼吸が止まった。心臓の鼓動だけ早くなっていく。

 可愛い。綺麗。美しい。ビューティフル、プリティ、アタラクティブ、色々と言葉が頭の中を駆け抜けていく。


「キュート、キュートだね」


それだけが言葉になった。


彼女の大きな目が更に見開かれていく。

両手で唇を覆い、クルクルと体を回し始める。


お互いに感動を堪能して、

「あまりに可愛くて、みんな止まったよ。フリーズするだっけ」

「私は嬉しくて体が動き出して止まらなくなりました」


「ハハハ」

「フフフ」


「で、今日は’ライム'……?」


 彼女はトレイで口とを隠して


「そう。美鳥じゃなくて」


「プリティーだよ」


 ライムはトレイで顔を隠してしまった。


 玄関を上がり、リビングまでライムが案内する後ろを歩いていく。そうしてリビングに通じるドアを開けた。


「そうそう良いよ。そこで止まってぇ」

「はいはい、目線もらえる!」

 

 煌めくストロボライトに目が眩んでしまった。

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