第18話 ラブオール! プレイ!!
6限目の授業中はコットンを膝の上に載せていた。意気消沈して見てられないぐらいだったからなぁ。載せてあげると俺の胸に頭を預けてリラックスしている。たまに空ら空らしていた。
ホームルームも終わり、
「では終わりにする。琴守」
千里先生が言うと同時にパシんと何か叩く音。
「起立、礼、着席」
シャンと声を出している。
「琴守、自分の頬を叩いて気合いを入れるのも良いけど、そっとやれ」
「はひっ」
美鳥も空ら空らしていたのだろうな。
みんな帰り出したのを見届けて、ゴミ当番の活動開始。両手にゴミ袋を持って廊下を移動する。ふと窓下を見ると男女が向き合っているのが見えた。で、女の子が両手を重ねて頭を下げて丁寧にお辞儀をしている。亜麻色の長髪がさらっと靡く、美鳥か?
「琴守さん、モテるなぁ。すでに3人目に告られてるよ」
「うあっ…えっと二瓶さん?」
臨んで見ていたところに後ろから声をかけられた。確か同じクラスの二瓶ななみさん。明るいブラウンの髪をロングボブにしている女の子。少し垂れ気味の目で愉快そうに下を覗いている。
「で、今のところは、お断りしていると。あなたはどうなの?」
「俺は、すでに対象外。塩対応されてます」
「そう、良い線まで行くかと思ったのに。がっかり」
と、二瓶さんは背中越しに手をヒラヒラさせて歩いて行ってしまった。確か二瓶さんに新聞部。ゴシップを探しているのかも。縁がないように気をつけないと。
しかし美鳥はモテてるんだね。可愛くなったからなぁ。2年はおおきいな、ちょっとは自慢かな。
教室に戻って自分の机まで行く。机の上ではコットンが仰向けで寝ている。
「もう、いっぱい。いっぱいよぉ。風見成分いっぱい。漏れちゃう。溶けちゃう」
なんて呟いている。
さてさて昨日の続きをしよう。机からペインティングナイフを取り出したのだけれど、
「それで私の円らな目を抉るつもりかしら」
と怖がられてしまった。
「それも良いなあ。その口を塞いでも良いかも」
少し脅かしておいた。静かにしていてくれると良いのだけれど。
それではと、昨日、傷の上にゲル状のプラーナを厚盛りして瘡蓋みたいにした。それをペインティングナイフで削っていく。流石にプロ仕様、綺麗に削れました。
そして家庭科室のシンクにあるスポンジ借りてきまして、多少均された傷跡をスポンジで撫でていく。
真壁君に借りた専門誌ホビーホビー別冊 作ろうクレイフィギュア!プロはこう作る を読んだけど、流石にリューターや彫刻刀、金属ヤスリは、こいつには使えないと思う。考えたのは紙ヤスリがわりのスポンジ。目の荒いのと細かいのと分けて使って見た。コットンにプラーナを出させてスポンジに染み込ませて擦って見た。なんとか表面が滑らかになって傷が見えなくなり艶が出てきた。よかった、うまくいきそうだ。
「コットン、どうだ?」
「いいねぇ、ツルツルになったよ。彫刻刀やリューターで切り刻まれるかと戦々恐々だったね、スプラッタになるところだったよ」
「形になってよかったよ。美鳥の方も良くなるね」
美鳥とコットン、お互いに影響がて出てしまっていた。赤ニキビ然り、みみず腫れ然り。快方に向かうだろう。
「そういえば、その木炭は何に使うんだ。あれはキャンバスのデッサンに使うのだろ」
「ここに書いてもらうのさ」
とコットンは自分の指で瞼の縁をなぞった。
「鏡が見られれば自分で描いてみるけど、鏡はないし、持つこと出来るかわからない、ましては映るかどうか、だから』
確かに俺以外はコットンを見ることはできないのだから、鏡が使えるものかわからないね。
「だからお前に描いて欲しいのだよ」
「描くと、どうなるんだ」
「瞼が二重になる」
「別に今のままでも良いだろう」
「昔からの憧れなんだよぅ、二重瞼。頼むよー」
両の手を合わせて俺を拝んでくる。
「充分、可愛いのに」
「なんか言った?」
「なんか聞こえた?、空耳じゃないの?」
「ふん」
仕方なく画材木炭でば瞼から気持ち内側に線を描いていく。細すぎず、ちょうど良い太さと掠れ具合を出してくれた。
「なんか、パッチリ目が開いた気がする。ありがとな」
やっとこさ仕事を終えて帰途に着いた。
「おかえり、ねえ、ほっぺツルツル!」
帰宅すると満面の笑顔のコトリが迎えてくれた。ここでやっと、ホッとしたよ。
● ● ● ● ●
◇ ◇ ◇ ◇
下駄箱に入っていた手紙に書いてある校舎裏に来ている。少し早くに来たかもしれない。
未だに頬の具合は良くない。痛みはくすりが効いてきたのか、気にならないぐらいに落ち着いたのだけれど、今度は熱を持ち始めたの。
ただでさえ腰奥からの熱でボォーとしてしまうのに、わたしは大丈夫かなあ。
もう少しで待ち合わせの場所なのだけど、
『 です。付き合ってください』
男子生徒が壁に向かって話している。練習しているのかな?
『ずっと前から好きでした』
(いつから? どこからみていたの?)
『好きです。もしよかったら付き合ってくれませんか?』
『おれと付き合ってくれませんか?』
(なんか、優しい感じがする。私には勿体無いよ)
『今までで一番、キミが好きだよ』
『よく考えて、やっぱりお前がいいと思った』
(あれれ? 他にも好きな人がいるのかなあ。)
背中しか見えていない。背は、お兄ぃよりちょっと低いかなぁ。声の感じは好感持てるかな。
でも、
「あのぉ」
声をかけたら、肩や背中だけじゃない、全身が跳ねた。しばらく固まっている。ゆっくりと振り向いてきた、彼の顔は真っ赤に染まっている。
「聞いてた?」
「うん」
返事をするしかない。
「ごめん、最初から言わせて、お願い」
最敬礼してきてくれた。そこまでしなくても、
「いいよ」
「じゃあ、君の笑顔が素敵です。僕と付き合ってくれませんか?」
優しい感じがする。普通なら、キュンキュンして、ときめくかもしれないけど、マスクの下にはみみず腫れ、頬は腫れてる。熱で頭ははっきりしてない。それに、
「ごめんなさい」
今日、告白してくれた事には大変、失礼なことをしたと思う。真剣にお話をしてくれた。優しそうだし、私を大事にしてくれそう。でも、ダメ。頬が気になってマスクが外せない。
その一言しか言えなかった。
肩を落として彼は帰って行った。
私も1人トボトボと自宅に帰る。
途中から頬が更にポッカと温かくなった。みみず腫れの痛みも感じない。急いで家に帰って自室に入りマスクを取って鏡を見てみた。
「えっ」
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