第101話 聖衣 漂う 2

 降りて来たエレベーターに乗り、パネルの6のボタルを押した。


「意外に大荷物な」


 一孝さんがお泊まりセットのバックを持ってくれた。荷物が多すぎじゃない、大きすぎて、琴守家で1番大きなバックを持ち出したの。


 大きすぎてエレベーターの客室は、いっぱい。


「ごめんなさい、着物や浴衣って脱いだ後もお手入れ大変です」


「いーよ。今日は、美鳥の浴衣見れたし」


「そう言ってもらえると嬉しい」


 私は一孝さんの胸にもたれかかり、身動きしずらいのを口実に頬擦りしてたりします。


「もっともっと見てもらっていいですか?」


「ああ、いいよ。見せてくれるのかい」


 彼を仰ぎ見て、



「はい、縁日、お祭りはこれから。花火だってそれに…粉もん食べてないです」


 一孝さんの膝が少し崩れた。


「お腹一杯で何も食べてなかったの。連れてってくださいね」


「ハイハイ」


   チン


 エレベーターは止まり、扉は開く。


「一孝さん。もう部屋に入りましたか?」


「いや、まだ。美鳥と一緒の方がいいかと思って」


 2人で回廊を歩いて、彼の部屋まで歩いていく。コトリがまだ私に触れている感じがするから、変な事にはなってないと思う。


 一孝さんの部屋の前まで来た。バックを廊下に下ろすと彼は鍵を出し、ドアノブシリンダへ差し込む。


   カチリ


 ドアノブを回し。ドアをを少し、開けてみる。


ドアの隙間から回廊の明かりが入り込み、三和土の一部を照らし出す。


見えた。 亜麻色の髪の旋毛が見えた。


「一孝さん」


「おう」


 彼は、ドアを全開にして、中に入る。


コトリは項垂れ、浴衣のまま、三和土にヒラ座りしている。動く気配はないの。


「美鳥とごっつん子して、そのままかな」


「かもね、コトリの中にいたときはに何も見えなかったし、聞こえない。」


「そんななのか、コトリって」


 私は、彼の顔を仰ぎ見る。


額に皺を寄せて、苦々そうな顔をしている。


「このままじゃ、いけないよね」


 私はコトリを抱き上げようとしたけど、彼に手を肩に置かれて止められた。


「俺が抱き上げてやるよ。コトリは、コトリは大事な美鳥なんだよね。俺が抱き上げるよ」


「一孝さん」


 私の目に涙が滲む。


 彼は、コトリを抱き上げ、廊下をぬけ、簡易キッチンの奥へ入っていった。程なくして奥の部屋と廊下に灯りがつく。


 すぐに彼が玄関まできて、


「コトリはベットに寝かしてある。俺はバックを取ってくるから、美鳥は、見ててやってくれないか?」


「はいです。一孝さん。」


 私は草履を脱ぎ、奥の部屋に行く。入れ替わりに彼はドアの向こうへ行ってしまった。


簡易キッチンスペースをわたり、ベットまで行く。


 ベットの上にコトリは浴衣のまま横になっている。


片手を黄色の帯の上に置いて、微かに頭を傾げて、瞼を閉じている。


微かに開いた唇。なんとなく、襟元が上下しているよう。息してるってことかな。


 亜麻色の髪が数本、額にかかる。その下には、閉じた一重の瞼。


「私の寝顔ってこんななんだね。可愛いや」


 手を伸ばして、額にかかる残り髪を外してあげる。


「まだ、起きないのかな?」


 シーツの上のある方のコトリの手に私は自分の手を重ねる。 不思議ね。重ねてるのに、乗せられてる感じもするの。コトリが私に触れている証拠。


いなくなった訳じゃない。私も口元が緩むのがわかる。  


「荷物を持ってきたよ。大きいから玄関に置いたって……コトリ起きたのか?」


 一孝さんがきてくれた。


「なんで?」


「なんでって、美鳥、笑ってる」


 すっと指が口元を触る。


「笑ってるの? 私?」


「ああ」


「そう、そうなら、ふふ。コトリは寝てるだけです。大丈夫ですよ。一孝さん」


 一孝さんを仰ぎ見て、改めて笑った。


「そうか!」


 彼も笑顔になった。


「美鳥が言うなら、そうなんだろ」


「ええ」


 彼がベットに腰掛ける。


「スターマインが終わっていきなり倒れただろ。気が気じゃなくってね」


「一孝さん」


「良かったよ。後は起きるのを待つだけだね」


 一孝さんが破顔した。


「はい」


 すると、一孝さんが身じろぎする。


「美鳥、今まで浴衣着て苦しくなかったかい」


 いきなりなんでしょう。私は目を瞬かせる。


「俺、ちょっとコンビニに買い物行くから着替えるといいよ」


 彼が、頭をカキカキ話してくれた。


「シャワーは普通のだし、すぐ使えると思う」


 なあんだ。


「ありがとう。使わせてもらいますね」


 一孝さん、ありがとう。気を遣ってくれて、


彼がベットから腰を上げて玄関まで行く。ドアが開き、そして閉まり、


   カシャン


 鍵のかかる音がする。


 もう一度、小鳥の顔を見てから私も玄関へ。


置いてあるバックから、衣紋掛けやら、これから使う小物をいっぱい取り出す。


もう一度奥に行って、テーブルに鏡を置く。


「さあって」

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