第3話 春咲く蘭菊 その1
「ねぇ、気になる人でもいるのかな」
後ろの席にいる歩美に聞かれた。
「えっ?」
「なん度も振り返ってるでしょ、バレバレ」
「そんなんじゃないもん」
確かにそんなんじゃない。今日からお兄ぃが学校に来る。一緒にお話しできる。勉強も、と期待に胸を膨らませてたのに、
いない。お兄ぃがいない。鞄が机にかかっているから今日こそ来ているはず、いるはずなんだけど、いないのよぉ。
あと、あれは何?机の上に何か載ってる。
茶色の〜? あれは髪の毛だ。すると人?人にしては小さいな、お人形?、人形! なんで載ってるの。お兄いにあんな趣味あったっけ?
それもそうだし、なんで気づかないの?あんな物載ってるのにみんな無視してる。それとも見えてないっていうの? 私の妄想なの?
「河合さん、1番後ろの机の上に何かあるかな?」
「えっ、えっ、なぁに? 1番後ろ〜」
歩美は振り返り見ている。お願いと胸の中で祈った。
「なに、何? 何があるって? 何にもないよ。あの席って昨日から空いてたよね」
「そっかー。……なんか熱出したとかで、いきなり休んでたんだって」
「気になるの?」
「見たこともない、会ったこともないのに、んなわけないよぉ〜」
私の見間違い? 幻覚なの? 私、おかしいのぅ?
お兄ぃ、教えてよー。もうじきホームルームが始まるのに、先生来ちゃうよ。どうするのよ、もう。
頭を抱えて机に伏せろっていると後ろのドアが開く音が聞こえた。お兄ぃが来たかと起き上がったら、前のドアも開いて先生が入ってくる。私のお仕事だぁ。
「起立、礼…」
ゾワァ
腰から背中に寒気が走った。
「ヒャぁあー」
止める間もなく叫んでいた。
「おい、琴森、なんて声出すんだ」
担任の先生も驚いている。
もう恥ずかしくって、顔から首まで熱くなってしまう。ガクンと力なく椅子に座る。そのまま、頭を抱えて前に伏せて赤くなっているだろう顔を隠した。
(ママ、お兄ぃ、美鳥は、美鳥はお嫁さんに行けないかもしれません。乙女にあらぬ声を上げてしまいました。指さされ笑われる子になってしまいました。、、そうだから?お兄ぃにもらってもらおう。うへへ)
そんな邪念を囚われていると、
サワァ
お尻から甘い痛みが、
「あァン」
背筋がピンと伸びた。思わず手を後ろに回してスカート越しにお尻を庇った。
(もう、いやぁ)
「琴守、なんかあったのか?」
「いえ、何も。落とした消しゴムの上に座ってしまいました。すみません」
千里先生も怪訝な顔をしているが、
「時間もない。ホームルーム始める」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◆ ◆ ◆ ◆
「今日から出席するのがいる。自己紹介をする様に」
いきなり降るのはやめて欲しかった。心の準備もあることだし、席は1番後ろなんで、みんな振り返る形になっている。立ち上がり、
「急に熱が出て、休んでました。今日から学校生活始まります。風見一孝です。スポーツはバトミントンをやっていました。2年ダブって皆さんより年上ですが中身は同じ高校1年です。ぜひ友達になってください」
頭を下げて座った。
目の前でどこから出てくるのかボンボンを持った粘土フィギュアがいる。応援しているのか手を左右に交互に振り上げたり、胸の前でボンボンをぐるぐる回したりしていた。
「もっと赤裸々に話した方がいんじゃないの 口にできないような嗜好があるとかよぉ」
腰を下ろしつつ、頭を叩いておく。
「キャン」
遠くて声がしてる。教室の前方 廊下側にいる美鳥を見てみる。両手で頭を押さえてキョロキョロしていた。すると目があって睨まれてしまった。頭を引っ込め視線を外しておく。
千里先生は手短に連絡事項を告げるとすぐに教室を出ていった。
すれ違いに1限目現国の先生が入ってきた。授業が始まる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
◇ ◇ ◇ ◇
(なんて声、あげてるの。あれじゃ喘ぎ声に聞こえちゃう)
恥ずかしさが2乗。頭をかかえてふせるしかないよぉ。
千里先生がみんなに話をしていく。
「今日から出席するのがいる。自己紹介をする様に」
お兄ぃのことだよ。
顔が熱いの。真っ赤になっているのをみられたくない。これじゃお兄ぃの顔も見れないよぉ。 伏せているしかなかった。
でも、えっ!いきなり。
「急に熱が出て、休んでました。今日から学校生活始まります。風見一孝です。スポーツはバトミントンをやっていました。2年ダブって皆さんより年上ですが中身は同じ高校1年です。ぜひ友達になってください」
お兄いの声が間近に聞こえる。目を瞑っているのにお兄ぃの顔がわかるの、下から仰ぎ見てる。お兄ぃが頭を下げている。
「もっと赤裸々に話した方がいんじゃないの 口にできないような嗜好があるとかよぉ」
この声は誰? 私の声はもっと高い。それにこんな喋りかたはしない。
あれっおにぃが手を上げた。
カチンッ
歯がなった。上の歯と下の歯が当たったんだと思う。頭を叩かれたんだ。
「キャン」
これは私の声。私の頭を叩いたのは誰? 目を開けて探したけれど、お兄ぃは目の前にはいないのに。でも叩いたのはお兄ぃ。何が何だかわからないよう。お兄ぃ説明してえっ。私は振り返りお兄いを睨む。
あっ、逃げた。やっぱり関係ありそう。むっむう!
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