第55話 玄関劇場。開演!
リビングに、ひと抱えはあるバックが二つある。ちょとした長ものが入るケースが、やはり二つある。
「結構、荷物あるんですね」
「屋内だけじゃなくて、外でも撮影するからね』
俺だったら二つのバックをいっぺんに持つこともできるのだが、ひとつひとつ玄関まで運んでいく。大事な機材が入っているはずなんだだから。
やっぱし、ひとつづつ運んでも廊下の壁なんかバックを当てて、擦ってしまいそうになった。
玄関ではライムがシューズを履こうとしていた。折り返しのあるオフホワイトのショートブーツでヒールも高かったりする。
ライムは俺に気づいたのか、シューズの紐を締めていて屈んだ姿勢から体を起こす。
「どうでしょう? 一孝さん。似合うかな?」
「うん、似合ってるよ。よく見たいから、ちょっと立ってもらえる」
「ハイッ、で見ててください!」
ライムは立ち上がると軸足に重心を置き利き足を前に伸ばしていく。腕をひろげ右手を前へ回しながら、左手を上に上げていく。利き足から上へ伸ばしている腕のラインが綺麗な弧を描いていった。
ライムは体を捻って重心を前に持っていくと利き足が後ろに伸ばされていく。左腕を下げていき後ろには引き続き右手を前に回しつつ上へ。脚から腰、脇そして腕、その先の指先でいくつもの綺麗な弧のラインを見せてくれた。
「ありがとう。俺だけのレビューだね。嬉しいよ。本当にに綺麗だよ」
何よりも俺に向けてくれる笑顔に魅了された。胸の中のドキドキが止まらない。ひとときの時間、ライムを堪能させてもらった。かけがえのない記憶になった。
「うん、ライムの笑顔、いいねえ。こっちまで嬉しくなるよ」
小さい時から大好きな美鳥の笑顔。これからも見れる幸せを感じる。
しかしながら長続きしないもので、
「つっ」
ヒールの高さになれないのか、足首が悲鳴を上げたようだ。ライムは動きを止めて足首をシューズの上から摩っている。
「まだ治りかけなんだね。奏也さんに話してくるよ」
俺は、まだリビングにいる奏也さんに話をしにいく。
折り返し、二人で玄関に戻って、
「美鳥、大丈夫かい? そのブーツは一孝くんとのデートに使って、今日はハイカットのバスケットシューズかな。足首はしっかり固定してね」
「治りかけで、また捻ると治りが遅くなるからなぁ」
「ちえー、残念」
「履き直しておいでよ。俺は荷物を車に乗せておくよ」
ライムは壁に設置されているキャビネットを開けて、シューズを選びなおしていく。
俺は7人乗りの1BOXワゴン車のラゲッジスペースにひと抱はあるバックを載せていく。これがあともうひとつあったりする。撮影って言っても他の機材も必要でカメラだけじゃないんだ。
「はい、一孝さん、これ」
「手伝ってくれたんだ。ありがとう」
長ものが入ったバックをライムが持って来てくれた。
「ねえ、どうでした? さっきのダンス。上手に踊れてましたか?」
「よかったよー、最高!」
「一孝さんのためだけに踊りました。なんちって」
ちろっと小さく舌を出して茶化してくる表情も可愛い。
「俺に向けて撃って来ただろう。あれで俺のハートは撃ち抜かれたよ!」
自分の胸に手を当てて、撃たれたような格好をする。
「一孝さん!」
「なんか、お前の笑顔と想いが飛んできたのわかったからね! ズンってしたよ」
「えっー」
ライムは手で顔を隠して恥ずかしがっている。耳も赤く染まってたよ。
「おぅ、おぅ、お熱いことで、こっちまで恥ずかしくなりましてよ」
いきなりワゴン車の三列目のシートから顔だけ出して、美華姉が話しかけて来た。
「「美華姉!」」
指をフリフリして
「今はマゼンタだよー。お二人の萌え萌えーあざーす! そう思いませんこと? シアンー」
「もちろん、ごちそぅ様ーって感じよ」
美桜さんも顔だけ、シートから出してニッコニッコになってる。
「お二人とも、いるんならいるって言ってください!」
ライムは、耳から首元まで真っ赤に染めている。
「そんなことしたら、二人のウフフ見れないじゃない。良いものありがとー」
俺は穴があったら入りたいという心境を、初めて体感しました。こんな感じなんだね。
徐に美桜さんはスマホを取り出してフリーズしてきる俺たちを撮影し出した。美華姉も真似て撮影してくる。
「なあに、遊んでるの、ほら行くよ。一孝君は残っているバック持って来て、ほらほら」
玄関から出て来た奏也さんに急かされてしまった。
「じゃあ、出発するよ」
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