第143話 目が覚めたものの

暗い。真っ暗だ。


 すると、

光だ。微かな光だけど瞬いたんだ。


今のは?

ここは?

俺は?


 脳裏に浮かんだのはヘイゼルの瞳と亜麻色の髪をした女の子。

前にもこんなことあったけなぁ。

 その娘は、美鳥。

そう、俺が大事に思っている子。

 そのうちに周りが明るくなってきた。前の時は一面、真っ白だったな。そして見えたのは天井だった。知らない模様が散りばめられていたんだ。

 今度は、

色が見える。緑色のラインと赤いライン。ゆらゆらと揺らめいて見える。そして、ぼんやりとしか見えていなかったのだけど、だんだんと鮮明になってきた。

 緑のラインは上下に並んで2本だ。まぁるく金色のものが,その内にある。隣にもう一つ。

 これは瞳だ。金色に見まごうヘイゼルの瞳。すると誰かが俺を直近から見ているんだ。赤いラインが見えるということは2人が俺を見ていることになるな。


 そのうちに,何かが聞こえてくる。


「お…おき……起きないね」

「いつまで寝ているんだか」


 会話が聞こえてきた。やっぱり2人いたんだ。

それにしても、誰か、寝ているのかな?………、あぁ俺か。

 でも、俺は食べてる最中なんだよ。美鳥が作ってくれたんだ。甘っさえ手ずから作ってくれた巻き寿司を口まで運んでくれたんだよな。

 その後は…

あれ、思い出せない。おかしい。 食べたはずなんだけどなぁ。

もしかして食べてない?


  ピンポン


 ドアチャアイムだ。誰か来たんだ。行かないと、

俺は、自分の意志で瞼を開けようとする。


「誰か,来たんだ」

「そろそろ来る時間だからね」


   つっ


 いきなり目を開けたんで目から痛みが走る。痛みで意識がはっきりした。周りの光に慣れて景色がはっきりわかる。

 見えたのは2人の横顔。ドアチャアイムがなったんでそっちを見たんだろうね。亜麻色の髪が見える。

 その下から覗く耳の形は一緒。双子かなって思うけど違うんだ。。そういえば美華姉も来てたよな。


 すると1人が先に振り返って、俺と目が合ってしまった。瞼がこれでもかって開いて少し緑の混ざった明るいブラウンの瞳が見てとれる。この娘は、


「美鳥」

「えっ! お兄ぃ、一孝さん!」


 ああ、慌てると昔みたいに呼んでくるんだね。そっちの方が慣れてる。


「んっ,どした? そんなに慌てて」


 起きたとはいえ、まだ頭の中がボケってしてる。


「どしたっじゃないよ。起きたんですよね。大丈夫なんですよね。もう」


 美鳥は切羽詰まった声をあげて、座ったままの俺の胸に飛び込んだ。顔を押し付けて、


「心配したんですよ」


 くぐもった声が聞こえてくる。


「お前、寝落ちしたんだよ」


 そんなふうに声をかけられた。そっちへ俺は頭を向けた。

髪質は美鳥と同じで亜麻色。目の色は美鳥より濃いブラウンなんだ。


「本当ですか? 美華姉」


 そう、美鳥のお姉さん。


「そうだよ。食べてる最中にいきなり固まっなんだよ。口にせっかく美鳥が作った巻き寿司を入れたまま」


 その言葉に俺は目を瞬たせた。


「俺がですか?」

「そうだよ。驚かすな。このスカタン」


 素の口調に戻った美華姉に罵声を浴びせられると、いきなり服が引っ張られた。

 下を見ると、俺の胸に潜り込んだ美鳥が顔をあげて、その大きな瞳を潤ませて俺を睨んできている。


「びっくりして、どうかしたのか、わからなくて、もうもうもう」


 感極まったのか、言葉が出ずに再び俺の胸に顔を埋めでしまった。

俺は彼女を宥めるらつもりで、手を美鳥の頭の後ろへ手を回して後頭部を撫でてやった。

 でも、俺に胸に蹲ったまま、美鳥はイヤイヤと肩を揺らしている。


「で、どうなんだ? 頭が痛いとかおかしい感じがするとかはないのか? どうなんだ?」

と,美華姉が聞いてきた。


「ありがとうございます。ちょっと目がグッて疼くくらいで、なんともないですよ」

「あのなぁ。お前が動かないって美鳥が、どれだけ心配したかわかるか」


 ソファーに座っている俺に美華姉は腕を組んで睨み下ろしてくる。


「オロオロして、狼狽して見てられなかったぞ」


 頭を撫でるつもりで抱え込んでいた美鳥の旋毛に聞いてみる。


「そうだったのか。心配させたね」


 美鳥は顔をあげて、涙に濡れた目で俺を見つめてくる。


「違うんです。わたし、私の…」

「違うもんか。美鳥の奴、心配でお寿司も喉を通らなかったんだぞ」


 美鳥はフルフルと頭を振る。

「一孝さんが私なんかのために頑張り過ぎて、気を失ったかと思うと申し訳なくて」

「そこっ! 話の腰を折らない」


 美華姉は美鳥を指差して抗議してる。


「心配したのは確かなの。でも一孝さんが、そこまで私のこと思ってくれているかと思うと胸がいっぱいで」


 目を潤ませて美鳥は俺を見てくる。

すかさず美華姉は美鳥の睦言にチクリとさした。

「美鳥、その後、パクパク食べてなかったか?」


「それは、貴方が目を覚ましたら食べてもらおうって考えていたら、私も食べたくなってですね…」


 美鳥の頬がみるみる染まっていく。

    

  かわいい


「美鳥」

「ひゃい」


 返事をしようと顔を上げた美鳥の唇に俺もそっと唇をつけた。そのまま抱き寄せてあげた。一瞬ビクッとしたけど,すぐに俺に体を預けて来てくれた。


「勝手にやってろ」


 自分の話を折られて、俺たちだけで世界を作ってしまたことに対して、肩を竦めて呆れていた。


 すると、


「あなたたち! ピンポンなっているのに、出迎えしないなんて…、あら,何かあったの?」


 美桜さんが玄関からリビングへの廊下から現れる。美鳥は丁度、美桜さんに背中を見せているけど、どう見てもキスしてるように見えてしまっているんだろう。


「あらあらあら! 大胆ね…」


 美桜さんは驚きの言葉を発して絶句した。


 すると、その後ろから,


「ゴメェーン、遅くなってしまいました…、およっ!」


 この声はミッチさんだね。来てくれたんだ。


「ホーム花火大会をやっていただけるそうで呼んでいただきありがとうございます… あれ?」


 カンナちゃんも一緒なんだ。でも俺たちが抱き合っているのを二人にバッチリ見られてしまった。


「琴守家の皆様は浴衣をお召しになっているのですね。私も着てくればよかったかしら」


 良かった。なんかズレたことを言ってる。


  ん? 浴衣?


 俺は、そっと美鳥の唇を離し肩をそっと押して美鳥を見てみた。確かに浴衣をきている。

 以前、花火を見にいった時と同じ藍色の浴衣だった。だったんだけど、フリーズした。

濡れて艶々に色づいた唇を微かに開けて、少し閉じた瞼の下から潤んだ瞳で美鳥は俺を見てくる。


「一孝さん。つ づ き」


 吐息混じりに囁いてくるんだよ。辛抱たまりません。もう一度口付けをしようとしたけど、


「あぁーキスしてるぅ、エッチい」


 大声でミッチさんに指摘されて、慌てて俺たちは、飛び退いたよ。



「恥ずかしくて,顔を出せません。一孝さんどこか外へ連れ出してぇ」

 離れた後、赤くなった顔を手で隠して蹲った美鳥の口から,そんな言葉が漏れていた。

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