第39話 一孝です。男の戦い です。

ネットが張られ、コートが出来上がった。ラケットは高梨が貸してくれた。

 審判は高瀬部長がやってくれる。俺は軽く会釈をして、


「高瀬部長よろしくお願いします」

「1ゲームマッチ、22点先取で勝ちな」


ネットの向こうにいる、八重柿にも、


「八重柿先輩よろしくお願いします」

「おう」


 高瀬部長の声が体育館に響く。


「ラブオール、プレイ(試合開始)」


八重柿がシャトルをドロップ、腰の位置より下でラケットで軽く打ち上げる。テニスのサーブと違いギフトと呼ばれる由縁である。


カン


 それをまず、ロブで相手コートのサービスラインに高い軌道で打ち返す。八重柿は強打して高めの軌道で返してきた。俺も同じハイクリアで返す。八重柿が軌道を変えてドリブンクリア、軸足側に飛んでくるからバックハンドで返して行く。少し浮いて高い軌道になってしまった。すかさず八重柿はスマッシュ、利き手側のスペースの広がったところへ打ち込まれてしまった。


1-0


 再び、八重柿のサーブ。俺はロブを八重柿の軸足側奥に向けて打ち上げる。ハイクリアで俺の利き手奥に返される。俺は軌道を下げてドリブンクリアでやはり軸足側奥に返す。フットワークよろしく、フォアハンドで強打、ドライブで俺の軸足方向へバックハンドで返すもネットに引っかかり相手ポイント。カーンカンカンカッ


2-0


 再び、八重柿のサーブ。今度は早いうちからドリブンクリア。八重柿がドライブで返してくるからこちらも同じ軌道で返すパワープレイ。少し甘く打ち返し軌道が甘く高軌道になったところをスマッシュされた。カンカンカンカシユ


 ネットと同じ高さ以上の打ち合いで俺がミス連発。得点を許していく。


「風見、2年間、何をやっていた。なまってるぞ」

「怪我でブランクが長かったんで、こんなものでしょう」


 八重柿の打ったシャトルが場外へ、俺からサーブを始めていく。ここから、カットも混ぜて左右に揺さぶってみる。八重柿の左右へのフットワークは良いので得点の伸びは少ない。

ラリーを続けながら、


「フットワークが軽いじゃないですか」

「才能、才能、そして鍛錬してるからなあ」


また、ポイントは八重柿に入る。


ここから戦い方の変更。ドライブを使ってみる。打ち方はフォアハンド。ネットを超すと急に軌道が下に落ちていく。フェイントとして使える。落ちて行くシャトルを追いかけて八重柿の姿勢が前のめりになりシャトルは緩くネットを超えたところでブッシュ。あいつの悪い癖、フェイントに引っかかるのが出だした。

1点 1点と俺のポイントが入る。だけど、


「すいません。タイム良いですか? 靴脱げそうで」


 コート外へ出てシューズを履き直すフリをした。丁度、高梨が近づいてきたので小さい声で話しかける。


「おい、あいつの悪い癖治ってないよ。2年間何をやって来たの」

「面目ない。治せなかった。こっちの言うこと聞かないのだよね」

「だからヴァカの連発か?」

「それもあるけど、そうなのよ。イッコウがきて助かるわあ。あいつの心、一度折ってくれない」

「なかなかな、お願いだねえ。本当に良いのか?」


「何をヒソヒソ話しをしてる、早く試合を再開せんか」


 八重柿が吠えて来た。


「あーしてすぐ癇癪起こされちゃって、やっちゃて」


 高梨が右手をサムアップして俺に向けて来た。仕方なく俺もサムアップし返す。


 俺からのサーブで試合再開。

 さあ、これからがバトミントンの試合。カット、ドロップ、ショートサーブのフェイントを増やして行く。左右にも散らしていった。八重柿がサービスラインならドロップやショートサーブ、チップカットを使って前後に揺さぶりをかける。ミスしてシャトルが浮いたところをスマッシュで得点して行く。離れればフェイント。近づけはパワープレイと八重柿を翻弄して行く。

八重柿のポイントが入らなくなり、俺がジリジリと詰め寄る。


11-11


とうとう同点になる。


 八重柿の顔が悔しさからか歪んできた。



 バトミントンのシャトルは時速400キロ近くスピードが出る。打ち返されてからレシーブの用意しても到底間は間に合わない。緩急、前後左右の揺さぶりを織り込んで自分のポイントにシャトルを打たせるのが試合の流れ。パワーと頭脳の闘い。チェスとか将棋の盤上競技に近いんだね。

  

 ここからは俺のターン。

八重柿が飽きないように少しだけ、俺がわざとミスしたように見せる。が、それ以上にポイントを重ねていく。



 とうとう、マッチポイントまであと1点というところで、

琴森の家で語った、バトミントンを断念するかもしれないと言う理由が出た。

 膝が震え出した。力が抜ける感覚がある。


 タイムをリクエスト。


「高瀬さん、すみません」


 俺は審判に向かって左右の指でバッテンを作ってアピールする。


「風見、棄権で勝者、八重柿」


 見物していた部員がどよめいた。それを聴きながら俺はしゃがみ込み、そのまま後ろへ倒れ込んだ。


「イッコウ」


 高梨が駆け込んでくる。


「ねえ、どうしたの?大丈夫?」

「まあ、大丈夫じゃないけど大丈夫」


「何、それ」


 立膝になった俺の足、ゆっくりと閉じたり開いたりしている。それが止まらない。なんか障害で神経が壊れると、こういう症状が出るんだそうだ。首の骨を折った影響じゃないかといられている。心臓みたいな循環器系の障害ではないから死ぬわけじゃない。けど試合のワンゲーム分の時間保たない。最後まで試合ができないんだね。


「しばらく休めば動けるから、ちょっと休ませてね」


 他の人に手伝ってもらい壁際まで動かしてもらうと、そのまま横になった。



 部活動も終わったようで三々五々帰っていった。高梨たちにも帰ってもらった。壁や手すりをつたって教室まで戻って自分の椅子に座り込む。

 この事についての涙は、もう枯れている。


 誰も居ない教室で1人ただずんているとドアが開いた。


「お迎えがなあ、天使が来た」


 亜麻色の髪

 ヘイゼルの瞳

 艶やかで蠱惑な色の唇


     綺麗だ。


 あれ、美鳥。












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