第105話 モーニングアタック 再び 2
おかしいな。一孝くん呼んだのに返事がない。
あはぁー、それとも、色々とあって服を着るのに時間かかるのかな。
インターフォンは繋がっているから、催促を、
「一孝くん、お〜い。あなたが大好きな美鳥のママの美桜ですよぉ」
さてさて、どんな顔してくるかな。
頬を染める? 首筋にキスマーク! キャー
我が娘ながら、お熱いことで。キャー
そんな想像をしてしまう。
私まで頬が熱くなってきます。
スーハー、スーハー
深呼吸をして心臓を落ち着かせないと。
そんな事していると操作パネルのミニモニターに一孝くんの顔が映って、
「すいません。今、ドアを開けますら6階へ、上がってきてください」
意外と慌ててないかな。切羽詰まった感じがしないのね。
そしてドアが開いていく。中に入るとわりかし広めのエントランスになっている。大理石風の壁に郵便受けも並んでいるのね。
結構、綺麗ね。
郵便受けには、一孝くん6階の…名前ガあったあった。
少し歩くとラウンジかな。窓際にはいくつかのテーブルとチェアがセットになって並び、反対の壁を見るとキッチンシンクや電磁コンロから冷蔵庫まで備え付けられて簡易キッチンになっている。これが共用スペースなわけね。
そこを過ぎたらエレベーターホールだね。操作パネルの△のボタンを押す。エレベーターが降りてくるまで、端ないかもしれないけど、キョロキョロと周りを見てしまう。
この奥が食堂ね。入り口横のパネルに、朝のメニューがディスプレイされていた。カロリーや塩分量まで書かれている。親切だわ。
チン
あら、降りてきたわね。開いてきたドアから入ってサイドのパネルの'6'のボタンを押す。微かな上昇感があって、6階に止まる。
チン
そして開いていくドアから出て左右を見ると一孝くんが丁度、来てくれた。
「おはようございます。美桜さん」
Tシャツに短パン姿の一孝くん。何度か会って見慣れているはずなのだけれど、いつもに増して爽やかに見える。美鳥と何かあったかと邪推してしまう。
「来てもらってありがとうございます。俺が送らなきゃいけないのに」
「別にいーのよ。ところで美鳥は大丈夫だった? なんか粗相とかしてない?」
「いえ、大丈夫ですよ。昨日は俺たち2人とも疲れがすぐ出まして、揃ってバタンキューでしたよ。あははは」
ハニカミながら、頬を微かに染めて一孝くんが話してくる。
かっ、可愛いじゃないの。
でも、バタンキューなんて、よく知ったわね。
「そうなの?、あれだけの剣幕であなたのところに泊まりたいって言うんだもの。なんかあるって思うわよ」
「あぁー、あれですね。それは無事に解決しました」
「何が解決?」
「あははは」
彼の視線が私から外れて泳ぎ出した。
「まあ、いいわ。いずれ教えてね」
口元は笑みを浮かべてあげたけど、キッと睨んであげる。彼の表情が凍りつく。
今は、その表情だけで良しということにしてあげます。
そんなふうに内廊下を歩いていく。そのうちに一孝くんの部屋に着いたようね。
「中で待ちましょう。実は起きたばっかりで帰る用意できてないんです」
「2人とも、お寝坊さんね。そんなに疲れたの?」
「みたいですね。俺も、いつのまにか寝てました」
「そうなんだね」
一孝くんドアを開けてくれたので、中に入っていく。
「奥に行ってください。美鳥が待ってますよ」
言われた通りにスニーカーを脱いで廊下、簡易キッチンを抜けてリビングまで入っていく。
「あっ、ママ」
「ママじゃないよ。まだ着替えてないの?」
そうなの。美鳥はピンク色のネグリジェ姿。ナイトキャップすら外していないのよ。カーペットに座り込み、紅茶を飲んでいる。
「優雅に紅茶かしら?」
「うん、一孝さんが入れてくれた紅茶が美味しくって。蜂蜜たくさん入れてくれて美味しい」
「もう、パパが急かしてきてるの。美鳥は、まだかって。パパからの通知がたくさん来てるの」
私はスマホを取り出して美鳥に見せる。通知の着信音がひっきりなしに鳴っている。音を消してもバイブが止まらない。
「ごめんなさい。心配かけちゃって。問題は解決したから安心して」
「みたいね、一孝くんから聞いたよ。あなたも納得できて?」
「うん」
「なら、いいのよ」
私は、美鳥の横に座り背中に手を回して抱き寄せる。
「私たちは美鳥と一孝くん、2人のことは応援してるんだから、後悔なんかしないでね」
「ママ」
美鳥を抱き寄せていたんだけど、ふと、そこにあるテーブルの上を見てしまう。そこには、ティーサーバーと紅茶が注がれたカップが2つ、並んで置いてあった。
美鳥はカップを手に持っている。ひとつは一孝くんのだし。
ということは、一孝くんが気を利かせてくれたんだね。
抱き寄せていた美鳥を解放して、テーブルにあるカップを持った。
「私も、一孝くんの入れた紅茶を飲んでみようかしら」
飲もうとしてカップを口に近づけようとしたら、
'ダメー、これはコトリのだもん'
カップが目の前で空中で浮いている。
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