第44話 一孝と、美鳥と

◆ ◆ ◆ 一孝side ◆ ◆ ◆


 今日1日分のゴミを分類してトラッシュルームへ置きにいった。

教室を出る時には美鳥はいなかった。どこかへ出かけたようだ。

別に約束していたわけではないが少し待っていようかと考えていると、


それまで静かだったコットンが目を見開ぐ


「主、緊急事態だ」「ナニ、なに、なんで、動けないよぅ。お兄ぃ助けて」


 声が二重に重なり聞こえて来た。


「何が起きた。美鳥は大丈夫なのか?」

「いたぁい、痛い、痛いよう、お兄ぃ痛いよう」


 とにかく、美鳥が泣いている。


「コットン、美鳥は?」


 するとスマホの着信音。無視してもいいはずだがタイミングが良すぎ。

 

高梨からだった。


「イッコウ、美鳥ちゃんは今日はサマーセーターだった?」

「でしたよ。ブレザーがクリーニングから帰って来てないって言ってました」

「すぐに上に来て、ゴミ置き場の隣の予備室」

「なんかあったんですか?」

「とにかく急いで、美鳥ちゃんが」

「行きます」



 スマホを切り、コットンを見る。

「はよ、いけぇ、美鳥の場所は上じゃ。そう感じるのじゃ。頼む、はよいってやってくれ」


 俺は教室を飛び出し、廊下から階段を駆け上がる。焦っていたから3段飛ばしぐらいしていたの思う。途中に胡蝶のお付きの生駒とすれ違う。あいつ踊り場琴に毎に飛び降りてる。階段を上がり切り、廊下へ出るとゴミ置き場と予備室の前辺りで人だかりができていた。


「すいません、通してください。すいません、お願いします」


 野次馬をかき分けていくと。数人の男女が廊下に座り込んでいる。予備室のドアに寄りかかるように座っているのは美鳥だ。その前に長髪の女子生徒、それを睨みつけ仁王立ちしてるのは高梨か。また3人の男子生徒も座っている。



◇ ◇ ◇ 美鳥side ◇ ◇ ◇


 私がもう少しでお姉様の教室に着くと思った矢先に後ろから抱きつかれた。

 左腕は押さえられてしまったけど、右腕は動く。助けを呼ぼうかとしたんだけど手で口を塞がれてしまった。

 地団駄をふみ、肩を揺らし、右手を振り回して振り解こうとしたけどダメだった。

 ふと見ると高梨先輩が見えた。いっそうもがいたけど解けない。でも、でも高梨先輩と目があったような気がする。

 お願い、気がついてと願った。また、もがいていると、



「美鳥ちゃん、美鳥さん、私くし、私くし。胡蝶でしてよ」


 耳元で囁かれた。お姉様、なぜの思いが頭の中をグルグル回る。暴れていた足をおろしたらお姉様の足を踏んでしまった。更に踏み方が悪く足首を捻ってしまう。


「痛」 


グギャ「アギャ」


 足首から頭まで痛みが走った。痛みに屈もうとすると逆に痛みにのけぞってしまう。無事な足もお姉様の足と絡まり、お姉様も巻き込んで転んでしまった。


       ボスッ


 更に後ろいる人たちも巻き込んでしまったみたい。お陰で痛いとこは増えていない。


「美鳥ちゃん、大丈夫でして? 私くしの方は下の方々とお陰で無事ですわ」

  

 お姉様が耳元で教えてくれた。でも、


 えっ下の方? どうやら3人ほど巻き込んでしまったみたい。

 ちょっと動かすと足首が悲鳴をあげる。なんとか我慢して重なり合った人の上を降りた。膝立ちにはなったけどお姉様の手を取ってあげて無事に降りることができたよう。


 そのうちに高梨先輩が近づいて来て、


「ちょっと、ちょっと美鳥さん、大丈夫? 手を振り回して助けを呼んでるかなって」

「大丈夫ですけど、痛いんです。足を捻ったみたいで。グギャッてしました」

「あちゃー、腱までいってないと良いのだろけれど」


 高梨先輩は屈んで足首を見てくれている。ドクンドクンと心臓の鼓動に合わせて痛みが登ってくる。


「だんだん腫れてきてる、早く冷やさないと。氷は保健室かなあ、職員室、科学実習室かなあ」

「吉乃さん、1階の保健室で分けていただいてもらえるかしら」


 それまでオロオロしていた胡蝶様が指示して生駒様はすぐさまに階段を降りていってくれた。だんだん野次馬が集まりだしてジロジロと見られている。それらを割って一孝さんがきてくれた。


「美鳥、大丈夫か?」

「一孝さん!ごめんなさい。痛っ、足を思いっきり捻っちゃって」

「私くしが悪いのですわ。後ろから悪戯しなければ」

「胡蝶。悪ふざけしすぎだね」


 一孝さんは座り込んでいる3人を見て、


「で、コイツらは?」


お姉様が説明してくれる。


「私くしと美鳥さんが倒れた時に丁度下敷き(クッション) になっていただいたようで、お陰で怪我なはありませんわ」


「「「女王と王女のヒップブレスなんて御褒美ですぅ」」」


 また、馬鹿なことを言っている。黙って聞いてくれば褒めてもらえるのに。


「あのぉ、今は吉乃が氷を貰いにいってもらってます」


 あの常に冷静なお姉様がオロオロとしている。珍しい仕草なんで見ていたいのだけれど。


 一孝さんが近づいて来てしゃがむと背中を見せて来た。


「美鳥、おぶってあげるから乗ってくれ」


 私も、もう子供じゃない。


「えー恥ずかしいよう」

「抱っこと、どちらが良いかな?」


 恋する乙女は、


「抱っこ!」


      おー


 周りが響めいた。経験済みとはいえ人前では、恥ずかしい。


「おんぶでいいです」


 高梨先輩に手伝ってもらい、痛みが走るけど立ち上がり彼の背中に覆い被さった。

 うわぁ背中が大きくて広くなってるぅ。


「えへ」

「美鳥をおぶるの10歳ぐらい以来かなぁ」

「良い思い出です。そうだ一孝さん、振り返って先輩方とお話しさせて」


 未だ座っている3バカを美鳥が見えるようにしてくれた。


「お兄様方」

「『お兄様』」


 彼と高梨先輩は聞いて呆れた。


「ありがとうございます。お陰でお姉様も私も無事です。重ね重ねありがとうございました」


 お姉様も頭を下げた。


「そのぉ、ニシャニシャ笑やめてください。男が下がります。しっかりと言葉をかけてください、挨拶してください。お返事しますから」


 意外な言葉を聞いたと3人とも惚けた煽りしている。だんだんと意味がわかったのか顔つきが変わってきた。


「お願いします」

「「「はい」」」


私は顔を前に向けて、お兄ぃに


「じゃあ一孝さんお願いします」

「仰せつかりました。姫」

「もう、そんな言い草恥ずかしいよぉ〜」

「いや、男をあげるなんて、いい女だなって」

「そう、えへへ」



 二人で階段を降りていった。

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