第146話 釘を刺されました
玄関から外に出て、庭に廻る。
早速,奏也さんは、にっこりと笑いながら、
「良く眠れたかい。君を待ってたよ。気持ちよさそうに寝ていたね」
優しく、迎えてくれた。
夕食を食べている最中に俺が寝落ちした。さっき目を覚まして、ひとり夕食を食べたんだ。もちろん美鳥も付き添っくれた。そんな俺たち二人を女性陣に観覧された。
しまった。このままだとみんなの餌食になるって覚悟した時に、奏也パパが止めてくれた。あのタイミングで止めてくれないといつまでもいじられていたかもしれない。助かりました。
「みんな君たちふたりが眩しいいんだよ。微笑ましくもあるだね。大目に見てやってくれ。それこそ、美桜は通ってきた道であるし、美華だって、ほんのちょっと先に経験して、今も続いているのさ」
奏也パパは肩を竦めて、
「みんな,君たちを祝福してくれてるんだ。ちょっとの我慢だよ。我慢,我慢。ははは」
そういうふうに言われてしまえば我慢するしか無いのか。ひとり懊悩してしまう。
いつまでも悩んでも仕方がない、
「で、今日の琴守家花火大会ですか、急でしたね」
「美華がね、大量の花火をお土産って持ってきたんだ。和也くんも来てるし君もいる。盛大に花火をやろうって話になったんだよ、夏を楽しもうって言って」
「それで、美桜さんとか美華姉、美鳥まで浴衣着てるんですね」
「折角、三人揃ったんだから、夏の夜の気分を出そうってことになってね」
「揃いの浴衣は、元々あったんですか?」
奏也さんと会話をしていると、美桜さんたちも庭に現れる。ミッチさんにカンナちゃんも一緒だ。
「この前の縁日の打ち上げ花火大会があっただろう」
俺の下宿している学生マンションの近くの神社でのことだね。コトリと美鳥が入れ替わって、大変でしたよ。
「その時に、美桜が浴衣を新調してね。どうせならって三人分、用意したらしい。寸法は合わせはどうするんだって言ったら同じだって言い張るんだけどね」
「シェイズやハーバープレイスと衣装も、同じサイズって、後で聞きました」
美桜さんたち三人でウェイトレスのコスを着た時だ。コスは3色、色違いだけど見た目がそっくりで驚いたなあ。
俺たちの会話を他所に、美華姉たちが各々手持ち花火を選んで早速,火をつけだした。
棒の先から直接に火薬が塗られていて、細かい雪の結晶のような火花を出していく。スパークと呼ばれる花火だ。
少し離れた場所で美鳥がミッチさんやカンナちゃんさんたちと固まって花火に火をつけている。柄の先に紙で巻いてある火薬に火がついて、いろんな色の火花が前方に噴き出す、ススキと言われるものだね。
燃えていくにしたがって火花の色が変わっていく。そんな変化を楽しむんだ。火薬が勢いよく燃えていく音が聞くものの心を掻き立て、噴き出す火花の花火を見ている美鳥たちの顔を照らす。「綺麗」と言って笑顔になっていく。
奏也パパは、そんな美鳥を目を細めて眺めていた。
「美鳥の笑顔、いいよね」
「はい、こっちまで嬉しくなります」
「一孝くん、美鳥が あんな笑顔をできるようにしてくれたのは君だよ」
「俺がですか?」
奏也パパの口ぶりが変わる。
「まだ小さい時から、消極的で人見知りだっただろ。美桜からも聞いた時ないかい。そんな美鳥を変えてくれたのは一孝くんだ。つまらなそうで不機嫌な美鳥に君は声をかけてくれた。いろいろと関わってくれたじゃないか。それから美鳥は変わってくれた。屈託のない笑顔を見せてくれるようになったんだ。私たちじゃできないことだったよ」
美鳥のいるあたりを見る。何を話しているんだろう。彼女らの笑い声が奏也パパと話している俺のところまで聞こえてくる。
「一孝くん」
徐に俺は呼ばれた。
「はい」
「美鳥のことは頼むよ」
「えっ」
「あの子には君しかない」
「俺なんかでいいんですか?」
「任せられるのも、君しかいないんだよ」
彼は、しばらく逡巡して、
「一孝くん,美鳥とのことは,君たちの思う通りにしてもらっても構わないよ」
「いいんですか?」
「ああ、美鳥を幸せにしてやってくれ」
「はい」
「でもな、不埒な真似はするなよ。バージンロードは私が美鳥をエスコートしよう。そして式を挙げて籍を入れるまでは私の娘だ」
奏也パパは俺の方を向いた。目が座っている。
「そんなことをしてみろ。私は自分の持つ全てを使ってでも,お前を排除するよ」
「はい」
その目から殺気が感じられたよ。すいません、酔っていませんか? アルコール入ってませんか? 今の話も虚なものでしょうか。
手元を見ればチューハイのアルミ缶を握ってる。そんなこんなで折角いい話をしてもらったのに内心ブルブルと震えていると、
「パパ?」
いつの間にか、美鳥が近くにいた。
「いつまでも一孝さんを独り占めしないでください」
「ちょっと話をしていただけだよ。まあ、イィじゃないか」
美鳥の剣幕に、彼はしどろもどろに答える。
「もう、終わったんでしょ、後は私が引き受けます。ねえ一孝さん」
そうして、美鳥は俺の腕を取り自分の胸にかかえこんで,引っ張っていく。柔らかいものが腕に感じられる。
「ああ,私の美鳥がそんなことを,ああ」
そんな嘆きが聞こえた。
「さあ、一孝さん。これからは私と楽しみましょ」
そして、美鳥はニッコリとする。
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