第147話 踊りましょう。舞いましょう。

 パパと話をしている一孝さんを迎えに行きました。

 さっきから話し込んで、いつになっても来てくれません。

 ミッチとか、カンナと花火を楽しんでいるけど、やっばり一孝さんと一緒にいる方が良いの。


「全く,なんのお話されていたんです?」


 彼の腕を胸に抱え込んで、逃げられないように連れて来ちゃいました。

 下から煽るように見ると一孝さんの顔が赤い。多少は私を感じていてくれる証拠ね。


「いやぁ,何って。美鳥の笑顔は良いって話から始まって」

「それで」


 一孝さんが、私の顔を見下ろしてくる。


「美鳥が素直で明るく育ったのって俺のおかげだって、お礼言われたよ」

「そうですよ。一孝さんが励ましてくれたおかげで頑張れたんです」


 彼が話をかけてくれた。聞いてくれた。一緒に歩いてくれた。連れ出してくれた。いろんなものから守ってくれたの。そして勇気をくれた。おかげでミッチやカンナとも知り合えたし、高校に入ってからも歩美とか、美月や綾とかも、お友達になれたの。

 私だって、ものすごく感謝しているの。

だから、これからも…


 私は,そのまま彼を引っ張っていく、


「やっと来たよ。あんたが来ないんじゃ始まらないよ」

「お待ちしておりました、まず、駆けつけ1本ですね」


 ミッチはプンスカと彼を迎えて、カンナは彼にさっそく火のついた花火を渡した。


「用意がいいねえ。私にも一本ちょうだい」

「私も、もらえる?」


 一孝さんが持っている花火から、既に火花か勢いよく噴き出している。

 私は自分のものを、その火花へ近づいていく。横に寄り添った私の花火に火が移って,私の花火も火を噴き出し始めていく。

 赤い炎が出た。その中から火花が吹き出していく。火の色が変わる。緑色、青色。そして黄色に変わると火花の勢いが強くなった。

 パチパチと小さなか光の花も弾けだす。そして眩しいほどの白銀の光。火花の勢いがさらに増していく。

 すごく明るいの。一孝さんや、ミッチもカンナも光に照らされて、楽しんでいる顔の表情がわかるのね。

 そして終わったものは水を張ったバケツに入れる。


「最後ば、結構眩しかったなあ」

「目がチカチカしてます。音もシューて勢いが良かったですね」

「じゃあ、次はこれで」


 ミッチが持ったのは長く棒状になっているの。色もカラフルで3色あった。

 花火の先を点火用の蝋燭に近づけていくと、火が移った。チッチッチッと火花が出始め、段々と勢いも増して、たくさん火花が咲いて行く。

 そうそう、煙の出方が少ないから、飛び散る火花がよく見えるの。


「次は何にしようか?」

「うーんとねえ…」




「美鳥。そろそろだけど用意して」

「はう…。違う。ハァイ」


 えっ、もう。


 慌ててしまったんで言い淀んでしまった。だって,だってだってぇ、一孝さんと一緒に楽しめたのって,たったの2本なんですよ。


「美鳥、早く! ママもパパも待ってるよ」


 美華姉さんが近くまで待ちきれずに迎えに来たの。


「じゃあ、行ってくるね」


 渋々だけど、一孝さんたちに伝えると、


「楽しみにしてるよ」

「ライブ、生で見られるんだ」

「ふふ、美鳥さんの艶やかな姿が楽しめるのですね』


 なんか、期待されてるよう。


「さあ、さあ、始めるわよ」


 美華姉さんは私の手を取ってママのいるところへ私を引っ張って行く。ママは隣との境にあるフェンス側に立って待っていた。


 「美鳥ちゃん、そんな膨れっ面なんかしない。お粧しをしているんですから、いい顔をみんなに見せないと」


 ママから、お小言をもらってしまった。だって一孝さんとの花火が思ったよりできなかったんだもの。


 他のみんなは、リビングの大窓から続くデッキに座った。デッキには,チェアも置いてあるし、座るのにちょど良いテラスボックスなんかが置いてあるので座るには困らない。

 パパは私たちに向けてカメラを構えている。

 美華姉さんの彼氏の和也さんが横に立ってライトを持ってくれているよう。

 一孝さんは,疲れているようだからって、お役御免。ギャラリーでいいんだって。


 そして始まった。


 美華姉さんが口上を上げていく。


「お久しぶりにございます。シェインズ・ダイナーガールズ、アールジービー。今宵は浴衣にてのお目見えとなりますれは。皆様もひと時でも楽しんでいただければと、ここはお一つ舞わせていただきます。楽しんでいただければ光栄であります。では」


 先頭はママというか、この場はシアンとなります。美華姉さんはマゼンタ。私はライム。各々の藍染の浴衣の生地に青、朱、碧の花が描かれている、



 デッキに置いてあるワイヤレススピーカーから、軽快なお囃子が流れ出す。


 「はっ」


 凛とした立ち姿から軽く腰を落とし、スッと手を上げる。

 片手を前に捧げ、もう片方は頭の前へ掲げて返す。捧げは親指を横につけて指をしゃんと伸ばす。

返しを親指は曲げて手のひらに乗せる。左右交互に捧げと返しをを繰り返ず返しの手を追うように首を傾げていくの。

 右足を軽く上げて前へヤットン、

 それに合わせて両手を右腰あたりへ上方から振り落とす。今度は、は左足を前へヤッ、トン。で手を振り落とす。

 3回ほど繰り返して左袖口に右手を添えて振り上げて,右足の踵を上げてトンと下げる。

 ここで膝は閉じたまま、離してはいけないの。

 体を前に向けと、左の踵をずっと上げて右のつま先をすっと踏み出す。そして手は左右へと振り出していく。

次に右足を擦り出していく、それに合わせて体を向けていく、手を交互に捧げ,返しをしながら、その場で、するりと回るように足を擦り出して捌いていく。

 最後に正面を向いて合掌するように手を鳴らして一通り終わる。


 シアンの仕草を後ろから見てタイミングを合わせていくけど、もう精一杯でついて行くのがやっとの事なんです。多少ぎごちないけど、なんとかできたと思う。

 でも、お囃子は止まらない。パパはカメラで撮影を続けている。終わる気配は見られない。もう一通りすることになりました。

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