第9話 目覚まし時計が鳴る前に
コトリこと小さい美鳥と会った翌日。目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。カーペットに横になっていたからか背中が強張って痛い。
起き上がろうと上体を起こし手をつこうとしたら右手が動かない。
「…まずいなぁ。やっちまったかなぁ」
2年前にアクシデントで首の骨を折った後遺症かなあ。
顎を引いて見てみると亜麻色の髪のつむじが見えた。
「この髪色は、美鳥だけど、じゃない!コトリ!」
夢から覚めたけど、昨日からの悪夢が続いている。コトリが俺の右手にしがみついて寝ていた。動かないはずだ。ほっとした。そっとコトリの手を外して体を起こし離れた。
今のうちに朝ごはん食べに行くかな。住んでいる学生マンションは賄い付き。朝食もあります。
玄関ドアの鍵を外したのだが、ロックレバーがガチャと大きな音を出してしまった。スーと居室のドアから滲み出てコトリが顔を出す。目を擦りながら此方を見て二ヘラっと笑ってる。手は透けて見える。昨日からのコトリだ。
「おはよぅお兄ぃ、どこ行くの?」
「ちょっと下まで、待っててね」
「いやっ、ついてく」
血相を変えて此方に走ってくる。俺は急いでドアを開けて外に出た。美鳥は追いつき外に出ようとした。が、サッシのところで進まなくなった。足や手は動いているのだが前には進まない。どうやら外には出られないようだ。
「お兄ぃ、どっか行っちゃうの? またいなくなるの?」
泣きべそをかいている。
「どこにも行かない。ここが俺の家なんだから帰るよ」
「ぜったいだよ。または、いやー」
閉める時に聞こえた言葉、まだ耳に残ってる。
◇
朝食を食べ終えて一度部屋に帰り、登校するときに同じやり取り。
「お兄ぃ、どっか行っちゃうの? またいなくなるの?」
泣きべそをかいている。
「どこにも行かない。ここが俺の家なんだから帰るよ」
「ぜったいだよ。そうだお兄ぃ、おみやげお願いっていい?」
「なっなに?」
「ポリポリチョコお願いね」
朝から疲れたのを覚えている。
そして今日、学校に初登校して帰ってきた。
空中停止しているコトリを上体を屈めて、下から掬うように左肩にのせろ。
足と手をバタバタさせて、口元からウフフ ウフフときこえてくる。なんか楽しそうだったりした。
「お菓子かってきたぁ、ポリポリチョコ」
コトリはアーモンドクランチチョコ好きなんだよな。ポリポリチョコと呼んでる。
「もちろん」
「やっター」
キッチンにチョコの入ったコンビニ袋を置いた。
床にコトリを下ろしてあげると早速、袋の中を 見ている。
「お兄ぃ、食べていい?」
手を組んで上目遣いでお願いしてくる。
「少しならな。ちょっとだぞ。俺は下の食堂で夕ご飯食べてくるから すこしだぞ」
コトリは好きなものだと際限なく食べるから釘を刺しておいた。
今日の献立はとんかつ!でした。豆腐 わかめ クルクルパンの耳 の赤だし味噌汁。にんじんのシリシリ。満足いくものでした。
帰って玄関を開けると小さな美鳥がのけぞり気味にヒラ座り。恍惚としてお腹を摩っていた。そばには空箱三個。やっぱりだった。
しっかし、食べたものは何処にいくのだろう?
● ● ● ● ●
◇ ◇ ◇ ◇
お兄いのヴァカと呟きながら自宅に帰った。自分の部屋のベットに横になる。寝返りをうって枕に顔を埋め、呟く。
「私のヴァカァ」
少し、微睡んでいました。
「美鳥ちゃん、ご飯できたよぉ」
ママからの声で目を覚ました。今日は韓国料理のタッカンマリ、鳥一匹をネギ、ジャガイモ、餅と一緒に煮込んだ鍋。コラーゲンたっぷりで低カロリーなんだよ。ハサミで切った肉をタレや薬味で食べます。
でもね、箸が進まないの。今日のことが気になって。
「どうしたの美鳥、このタッカンマリ好きだったよねぇ。味がおかしい?、なんか間違えた?」
ママにまで心配させてしまった。
「ごめんなさい。ママ。タッカンマリ美味しいよ。ちょっと考え事してたぁ」
「なら、いいけど。無理して食べなくて良いからね」
「ありがとママ。……ママあのね、学校でね…」
話が続けられない。
「ごめんなさい。今度話す」
「そう、待ってるね。今日は早く寝た方が良いかも。そうしなさいな」
「うん、そうする。ご馳走様」
「はい。お粗末様」
「ママ、先にシャワー借りていい?」
「どうぞ、遠慮なんかしない、しない。」
「ありがとママ」
シャワーで今日1日の汚れといやだったことを一緒に流し体や髪を洗って、一通りのケアをしてナイトキャップで髪をくるんでベッドへ横になった。
少しは気持ちも落ち着いたと思う。再び微睡んでしまう。
『 ぐすん、すん 』
(あぁ、夢! むかしのこと夢みてる)
薄暗い中でしゃがみ込んでいる。同じクラスでとなりに座る子が怖いのだ。じっとにらんでくる。朝、教室に来てから、じっと見てくる。’やめて'の言葉がでない。’なんで'なんてとても言えない。目を逸らしてしまう。挙げ句の果てに逃げ出して一階の階段にあるロッカーの影に隠れて泣いている。あの目が怖い。話そうと開ける口から何かを言われそうで怖いの。
「美鳥! みーつけた!」
男の子が私を見てる。
「いっつもそこに隠れているな」
男の子が近づいて横に座り寄り添ってくれる。隣の家に住んでる2つ上の男の子。いつもニコニコと話しかけてくれる。そのせいか、おしゃべりしやすいの。
「じゃ〜ん、見てみてチョコもらったんだ。'パチンコのケイヒン'とかいうんだって近所のおじさんくれたんだよ」
赤と白の箱に細長いチョコの絵が書いてある。それを両手で乗って私に見せでくれる。
「美鳥、おまえ、チョコ好きだろ。2人で食べようかと持ってきたんだよ」
「いいの? コトリ好きだよチョコ。でも学校に持って来ていいの? 叱られちゃうよ」
「おまえと食べたくて持って来たんだよ。他には秘密な! 秘密だよ」
そんなで2人で食べたアーモンドのクランチチョコ。美味しかったなあ。
そんな甘い味を思い出していた。
小さかったから、すぐおなかいっぱいになったっけ。
幸せな記憶ですね。
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