第10話 思い出からの扁桃パニック

●   ●   ●   ●

 ◇   ◇   ◇


 ボリボリチョコを食べて幸せに浸っているとお兄ぃから、


「美鳥。その子に『おはよう』したぁ?」

「ん?」

「その隣に座っている子のこと」

「……できないよ。コトリ怖いもん。なんて言われるかわからないし」

「いってみなきゃわからないよ。『おはよ』 ぐらいできるよ」

「でも、……やっぱりダメ。コトリ怖いの…」


 お兄ぃが私の手をを両手で包んだ。


「俺の勇気分けてあげるから、明日にいってみなよ。ほれほれ、ぎゅっ」


 優しく握ってくれた。なんか私の中に流れてくる気がする。


「やってごらん。ぎゅ、ぎゅー」


 

 翌日の朝、教室に入るとすぐ隣に座る子に、


「おっ…おはよう」


 と告げてみる。お兄ぃが勇気をくれた手を反対の手で握りながら。


「おはよう」


 満面の笑顔と一緒に返事してくれた。


「よかったぁ! 私、琴守さんとお話ししたかったの」

「えっ」

「私のことはミッチって言って、たくさんお話ししようね」

「うん」


 私も笑顔をお返しできたと思う。



 そこで目が覚めた。

 お兄ぃって凄い。もらえた勇気で、お話できたんだ。友達できた。ミッチとはクラスが別になったけど今でもお友達でいてくれる。その後、カンナもいっしょ。

ありがとお兄ぃ。

今でも何があるとお兄ぃに勇気をもらった手を握っている。


 実は昨日、手紙を受け取ったの。昼休みに校舎裏で会いたいと、待っていると。私に告白するつもりなんだろう。実は二人目の方だったりします。


    んっ?


 あれっなんか頬がが熱い。ズクゥと痛みがある。気になって1階に駆け降りてウォシュルームシンクの鏡で見てみたら、


 「ピッ ピィアー」


 アカイ、赤い、真っ赤に赤い。頬が赤くなってる。なんか頬いっぱいにできてる。


「マッ、ママァ。たいへんなのぉ」


 キッチンにいるママに助けを求めた。


 

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

   ◆   ◆   ◆   ◆


「行ってくる」

「いってらっしゃい!おみやげたのむねー」


 コトリに送り出される


「昨日食べ過ぎだから、今日はなし!あれだけ食べて、お腹のどこに入るのやら」

「えへへへ」


 はぐらかしてきたな。

 それでも


「じゃあ、きのこ山で」


「あのねぇ」でドアを閉めた。


 □   □   □   □   □


「おはよう」


 と声をかけて教室に入る。


「おはよー」「おっはー」「おはようございます」と気づいた人が返事を返してくれた。


 うー感動!学生生活だぁ。


 自分の席に座り教室の前にある美鳥の席を見てみるが、まだ登校していない模様。

 

 そういえば静かだ。昨日は騒がしかったのに。原因はやはり机の上にいる。此方に背中を向けて前屈みで座っている。たまに此方をちらっと見てくるがすぐに元に戻してしまう。あまりにはっきりしない態度なんで、気になってこいつの頭を両手で持ち此方に向けさせた。


「うっ」


 頬が赤い。紅潮しての赤じゃない。発疹の赤。ニキビだ。両頬の全域に発疹ができている。


「どうした?人形にもニキビできるのか?」

「わかんないよ。いきなりズクズクってなって痒いやら熱いやら張るやら痛いやら」


 両手で頬を触ろうとしている。


「触らない。止めときな」


 こいつの手を止めた。

 

 なんか横から視線を感じる。隣の席の長谷川さんだ。切りっぱなしボブをふたつ結びしている小柄な娘。メガネ属性ありです。此方を訝しむように見ている。確かに両手で粘土フィギュアを回したり、頬に触ろうとする手を止めたりと机の上で手を振り回しているからなあ。

 愛想笑いで誤魔化しつつ、手を下ろす仕草をする。実はこいつを膝の上に横にしてたりする。

 ホームルームのために千里先生がきた。


「桐谷、号令頼む。琴守が休みになった」


 桐谷くんは副クラス委員をやっている。俺より高い長身のバスケ部入部希望の男子。


「起立 礼 着席」

「先生、美鳥、どうかしたんですか」


 クラスみんな聞きたかったことを美鳥の後ろに座る河合歩美が聞いた。


「熱なし 咳なし 腹痛なし 怪我も無し。大事はないそうだ。午後からは来ると言っていたよ。そう心配しなくても良さそうだ」


 こんなご時世なだけに、それを聞いてクラスの緊張感が解けた。連絡事項を告げて先生は帰って行った。

 さて、ニキビ対策は清潔にすると良いらしい。俺も結構ほっぽらかしだったけど。鞄の中に昨日届いたミネラルウォーターが入っている。手持ちのハンカチをそれで湿らせ、こいつの顔を拭いてみようか。周りに注意しながら準備していると


「あっと 拭くならハンカチで拭わないで、擦り傷できちゃう。ビンカン肌なのよぉ」


 1人で身悶えてる。


「叩くように   いえ、そっとして そっと湿り気を置くようにトントンと」


 力を込めるつもりだか察知された。

 言われた通りにハンカチを漏れないぐらいに湿らせ、軽くトントンと叩いていく。侍が刀の手入れで使う打ち粉のように。

 暫く続けていると表情が固さが抜けて溶けてきている。

 こいつも静かにしていればいいもを。顔の造作は良いのだろうから。

 静かに作業を続けていく。

 そのうちに授業も終わり桐谷副委員が号令をかけた。

 こいつが膝の上にいることを意識せずに立ち上がるものだから。


   うぅグゥオェあー


 膝と机のテーブル部分で挟んでしまった。痛かったのだろうに手と足をバタバタ動かしている。


「またまた天国と地獄を見てきたゼェ」


 額が少し凹んだかな。意外に柔らかいんだなあ。

 次の授業も内職を続行したが


「あんまり濡らすと溶けちゃう」


 こいつが妙に艶めかしいことを言っている。確かに少し崩れている感じがしたのでトントンするのをやめてみた。乾いたようなので再開する。

 3限目が終わった時に美鳥が教室に入ってきた。大きなマスクをしている。そして振り返り、後ろの席の河合さんと話をしている。顔の前で手を合わせていた。そうして前を向こうと顔を動かした時に見えてしまった。マスクと耳の間の隙間の皮膚に赤い発疹跡。


 (すまん。美鳥)


 俺も手を合わせて美鳥に向かって頭を下げた。



 ●   ●   ●   ●

   ◇   ◇   ◇



 遅刻してきてしまった。

 

 病院に一緒に言ってくれたママが学校まで送ってくれました。


「赤ニキビでよかったというべきかな。昨日のタッカンマリがあたったかと思ったわよ」


 皮膚科の病院の見立ては赤ニキビ。食あたりやアレルギー性の発疹ではないとのことだったのよね。だけどニキビの多数発症は原因不明。お医者さんも首を捻っていました。


「様子見で休んでも良いけど、美鳥どうしますか?」

「うん、途中からだけど行きたい。みんなには会いたいし、約束もあるから」

「そぉう。あなたが言うなら良いけど。無理しちゃダメよ」

「うぅん、大丈夫だよママ」


 ママは笑顔で送ってくれた。時間的に3限目の途中から教室に入ることになるかな。

 実はお医者さんが念のために薬を塗ってから、お肌の調子が良く感じられる。痛みや痒みもないし、浮腫んだ感じもしない。なんかサッパリしてるの。


 でも、昇降口に入った途端、顔が痛いの、ドアにぶつかったわけでもないのに痛いの。


「ぐうぅ」


 下駄箱に寄りかかって我慢したんだよ。そのうちに痛みは引いていったけどね。頬の熱も冷めていくように感じた。

 それに合わせてなんだけど、背中が暖かくなって来てるの、背中というより腰、ううん、その奥のところが熱ってる。なにこれぇ!それが教室に近づくと強くなってくの。いやあぁ。


 先生に断りを入れて教室に入って席に座ると後ろの席の歩美が声をかけてきてくれた。


「どうしたの? 大丈夫?」

「なんかねぇニキビがたくさんできてねぇ。病院行ってきたの」


 ちらっとかけているマスクをめくって赤く腫れた頬を見せた。


「うわぁ痛そう」

「でもね薬を塗ってもらったから、もう痛くないよ」

「そう」

「あとは清潔にしてれば良くなるって」

「よかったじゃん。心配したんだよ」

「ごめんね。ありがと」


 歩美にを手を合わせて拝んでしまう。

 ダメっ歩美との話も浮ついちゃう。


 その時見えてしまった。あいつ、あの変な人形も頬が赤くなってる。あれぇ、あいつがお兄いのお腹に寄りかかってる。様子がおかしい。お兄が此方に向けて合掌して頭を下げているの。


  お兄ぃ、私に何かしたぁ?!

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