第111話 ウェイティングラウンジ シェインズ

とうとう、この日がきてしまった。

先日、友達のミッチから、


「新しい水着買いに行かない?」 


 と、お誘いがあったの。

更にその前に、


「みんなでプール行こう」


 ミッチから提案があったのね。

私としては、堪らないアクシデントがあったんで、今年の夏は、諦めようかと思ったけど、


「屋内アクアリゾート、グランラグーンのグループ格安チケットなのよ。美鳥も彼氏連れてきてくれれば人数も足りるし、お願い」


「うーん、行きたいのは山々なんだけどね」

「私たちにも、出会いのチャンスをー。美鳥だけずるいよお」


 そっちが本音ね。


「一孝さんにも聞いてみるよ。ダメならごめん」


 でも、聞いたら快諾されてしまった。


「決まりね。新しい水着姿で彼氏を悩殺しよ」


 うーん。チョッチ自信ないんだ。それも、これもコトリが花火の時の豪食がぁ。

ダイエット中なんです。恥ずかしくて見せられるないのよ。



 そして今、私は新交通システムの駅の入り口に立っている。

階上にある駅に登るための階段口のすぐ横には、ダイナーレストラン シェインズがあったりするの。この前の連休の時に、いろいろとお手伝いをして関わってしまいました。スタッフの方々とも、お知り合いになって挨拶を交わすくらいになっています。



 今は、夏。

夏の強い日差しからの日焼けと紫外線対策で日傘をさしている。オフホワイトでザックリコットンのノースリーブシャツにディープグリーンのジャンパースカートの組み合わせ。

ポツンとひとりで立っていると男の方が近寄ってきた。


「ねぇ、彼女、何処行くの?」

「はいっ?」


 いきなり、誘いをかけられて、ドギマギしてしまう。今は、ひとりなんです。一孝さんはいないの。


「いえ、あの…」


あれ、この人、知ってる。覚えているよ。


「ごめん、ごめん。つい出来心で。なんかポツンとしてて、やり過ごせなかったよ」


 私に拝んで謝ってきちゃった。


「風見君どうしたの? それとも待ち合わせ? お邪魔しちゃたかな」


 この方は、守道さん。パパのお知り合い。


「違うんです。今日は友達と買い物に行く約束をしてて、早く着きすぎてしまって待ってるんです」

「ハッハッー、そうだったんだぁ。驚かしてごめンね。待ち合わせなら、ウチの店舗の中にしないか? 熱いでしょ」


 確かに、立っているだけで、汗が滲んできてる。


「お詫びと言ってはなんだけどコーヒーぐらい出してあげるから、中で待ってなさい。お友達にはSNSで知らせてね」

「すみません。暑いのは確かなんで、お言葉に甘えさせていただきますね」


 待ち合わせているミッチ達には、グループ通知で待ち合わせ場所が変わったことを送っておいた。


「ああぁー、涼しい」


 お店の中に入るとエアコン効いていて涼しい。汗もひいてくれそう。このまま、ここにいたかな。


「いらっしゃい。外は暑いでしょ。まあ、座って」


 オーナーの守道さんの奥さんの鼎さん。カウンター席に案内してくれて、おしぼりまで用意してくれた。


「いえ、お構いなく、待ち合わせに使わせていただいてありがとうございます」

恐縮しきりです。


「いーのよ。美鳥ちゃんは、この前は活躍してもらったからね。身内みたいなものよ」 


 笑顔で話をしてくれる。少し前のお休みの日に、このお店のコマーシャル撮影へ家族ぐるみでお手伝い。そして、いろいろとありましてウェイトレスまでしてしまった。

 アルバイト料がでて、かなり奮発してくれたおかげで新しい水着を買う資金ができたのですよ。


「で、ねぇ。よかったらここで働かない? アルバイトで良いから」

「えっ」


 慌ててしまう。目が泳いでしまった。


「この前のダイナーガールズが話題でね。いませんかってお客さんがよく来るのよ」


「で、でも、あれは3人揃ってだから。1人じゃ違うっていうか」

「まっ、無理強いはしないから、考えていてくれれば良いよ」

「そう、させてください」


 一孝さんのことや、ダイエットことなんかで頭はいっぱい。落ち着いたら考えよう。

そうこうしていると、


「ごめんください」


 あっ、ミッチの声だ。


「ここに、琴守さんていますか?」


 ミッチが店の中に入ってきた。私は手を振って合図する。


「いらっしゃい。こっち、こっち」


 そばまで来てくれたんで、カウンターの隣の席を手で案内してあげた。


「お待たせぇ。……あっー涼しい。生き返るわぁ」


 彼女は座りながら、手うちわでエアコンの冷気を顔に当てている。


「もう、外なんか殺人的な暑さね。美鳥がレストランにしよっていって正解」


ツインテールにしたミディアムの髪をフリフリして、熱弁してくる。

ピンクの襟付きバフスリーブブラウスに白いAラインスカート。足元はリボンのついたストラップサンダル。ガーリーで仕上げてきました。


「ほんとだよねぇ。私も外で茹ってしまうところだったよ」

「でって、なんでまた、このレストラン?」

「ここのお店、手伝ったことあって、知り合いなんよ」


 すると、私たちの座っているカウンターに、水滴のついたタンブラーが置かれた。


「はい、アイスコーヒー。サービスで」

「鼎さんありがとうございます」 


 ミッチも


「私も、良いんですか? ありがとうございます」


 カウンター越しにお辞儀をすると、


「知り合いついでに、ちょっと頼まれごといいかなあ?」


 いったいなんだろうね?


「フラップジャックスの新しいのを作っててね。できたら感想聞かせて欲しいんだ」

「フラップジャックスって、ベイクドケーキ見たいのでしたっけ?」


 この前にここのウェイトレスをやった時に覚えたんだよ。

鼎さんが小皿ににいくつか、サンプルを乗せて出してきたんだ。


「これが胡桃とクランベリー入り、こっちがレーズンとアーモンド。そっちがドライフルーツのカレンズとアプリコットを入れたのなんだね。ぜひ感想聞かせて?」


 そういえば、この場にいないあの子、


「カンナって、こういうお菓子が好きだったね」


「えっ、呼んだ?」


 後ろからいきなり声をかけられた。


   うひゃー


 私が振り向くと、髪を三つ編みおさげにした子がトートバッグを持って立っていた。薄色のノースリーブデニムワンピースを着ている女の子だ。ふっくらした頬がキュートなんだよね。

「カンナ! 脅かさないでよ。変な声あげちゃったじゃない」


そう、この子がカンナ。 


「美鳥もミッチも、お話に夢中になって、私のこと気づいてくれなかっただけよ」  


ちょっと頬がブスッと膨らんでる。


「ごめんなさい。でもね、良い話でもあるのよね」

「はい、あなたにも」


鼎さんがカンナの前にもタンブラーを置いてくれた。


「サービスなんだって」

「へぇー」


私は、置かれた皿を持ち上げて、カンナに見せて、

「カンナって、こういうの好きでしょ。このフラップジャックスの試作品の感想をいえば良いのよ」


カンナの頬が緩んだ。


「新作も食べれて、コーヒーまで。お得ねえ。美鳥がお知り合い様々だね」

「えっへん」


 3人に笑いが溢れる。


「鼎さん、お試しの件、了解です」


 早速、食べての感想は、鼎さんに伝えた。

美味しいのよ。


「美鳥ちゃんのにっこり顔見れば、どれも良さそうね」


私の顔がバロメーターかい。

鼎さんも笑いながら、


「すぐにでもメニューに載せるから、食べにきてね」

「「「はーい」」」


「ところでカンナ、雑誌は持ってきた?」

「うん、持ってきたよ」

今年のトレンド水着が記事のファッション雑誌をカンナは、持ってきてくれた。これで先に情報を仕入れて、いざ水着売り場に行くことにしてたんだ。けど。


「今って、ビキニとかワンピースだけじゃないんだねぇー」

「タンキニ? ラッシュガード? えっ袖つきにフリル、シースルー?」


 時代に取り残されていました。

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