第36話 週の始まり 放課後 prepare
__________美鳥side__________
「おめぇ、何、突っ立ってんだ。そんなとこに隠れて」
話してきた人の後ろから光が入って、どんな人かはっきりしない。
「どなたですか?」
自然と私の声がキツくなる。
「怖い、怖い。泣いてる女の子がいるのに素通りはいけないだろ」
多分、上級生だと思う。長い髪は脱色したようなライトブラウン。後ろで一纏めにしている。一応、規定に沿ったブレザーを軽く着崩し、スラックスのポケットに手を入れた立ち姿。気だるそうに見えてしまう。日本人には珍しい青みのかかった瞳で見つめてきている。
「その瞳で亜麻色の髪。俺も大概だがお前もだな。どこぞの天使かねえ」
「褒めたって何も出ませんよ」
でも、褒められて少しだけど肩から力が抜けたと思う。
「少しは落ち着いたか。威殺してやるみたいに睨みつけてきたからなぁ」
細めた目で見つめられて、諌めるんじゃない落ち着いたか語り口に拍子抜けしてしまう。
「いじめられて逃げてきた訳じゃなさそうだし、悔し涙かな」
「ちがっ…」
かっとして相手睨みつけてしまった。強がっていないと、泣き崩れてしまうそうなんだ。
「男がらみか?」
「だとしたらどうだっていうのですか。お兄ぃに認めてもらおうと頑張ってきたのに」
なんで分かるの。壺支を突かれてしまって心内を吐露してしまう。話が止まらない。
「同い年、パートナー? 私だって一緒にいた時間なら負けない!」
まあ、お兄ぃの後ろに隠れていた時間なんだけど、私の思いはずっと続いている。
私の強い言葉尻にも臆せずに、
「今、流行りのNTRかい?」
「なら、なんですか?」
彼は顎をすいっと動かすと、
「着いてきな。もっと綺麗になって相手を見返してやればいい」
いい悪戯を思いついたとばかりに、彼は誘ってくる。
「なっ」
あまりな物言いに呆れてしまうけど、
「俺っちの周りには、色々と飾る奴らが多くてな。見てるだけでも勉強になるぜ」
焦っていたのかもしれない。そうするしか無いと思ってしまう。
「教えてくれますか。私はお兄ぃにもっと見てもらいたい。私を認めてもらえれば良いの。あの人との勝負じゃない」
彼は目を細めて見つめてきた。
「いいねえ。『勝負じゃないか』気に入ったよ。…お兄いって兄弟かい?」
ちょっと力が抜けてポカンとしてしまった。
「ちっ、ちがうぅ。慕ってる人だよ」
「いやね、禁断の営みの手伝いかと」
彼は口角を上げた。笑ってるの?
「だから違うって言ってます。早く連れてってください」
彼と話をしていて滲んでいた涙も乾いてしまった。
彼が歩き出したんで仕方なく4階まで上がった。やっぱり最上級生だったんだ。彼について教室に入ると3人の女の先輩が談笑している。
彼は彼女たちに話しかけた。
「あんたたちに頼みがあるんだが良いかね」
彼女たちは、彼と後ろにいる私を見つめている。
「下級生、連れてきて、なんですか?」
長い髪をふんわりと内側ロールにしている人が問うてきた。ゆるふわ美人とでも言うのでしょうか。
彼は片手を肩越しに私に向けて、
「こいつを磨いて欲しいんだ。素材としては良いだろ」
彼女たちは、突然の提案に眉を顰めている。
「いきなりなんだから、説明……」
話してる時に、ゆるふわの方は何か気づいたんだろうか。
「あれ!、この子、もしかして昇降口の天使じゃないの?」
ボーイッシュ娘が茶化す。
「なに、それ、うけるぅ」
「今朝、笑顔がいい娘が下駄箱に降臨したって男どもが騒いでたんだよ。聞いてたのと一致するね」
私のことなんだろうか、そんな大層なことはしていないはずなんだけど。思わず、
「なんか騒ぎになってしまって、すみませんでした」
「いいってヴァカどもが勝手に騒いでるだけなんだろ」
「気にしない。気にしない」
3人目の縁無し眼鏡をした知的雰囲気の方が、指で眼鏡を治しつつ、
「確かに素材としては極上に見えますわね」
ゆるふわの方が私に聞いてきた。
「その顔は素かい?」
言われて直ぐには、意味がわからなかったけど、
「すっぴんです。寝る前に化粧水と乳液はつけてますけど」
と、答えた。ウチのママからのアドバイスね。
ゆるふわの方が私に近づいてきて、じっと顔を観察されてしまう。
「お肌の手入れだけで、ここまでなんて、歳をかるじるなぁ」
ボーイッシュな方は、慰めなのかな。
「二つしか年が違わんとだろ」
眼鏡の方も近づいて、私の顔を覗き込んできた。でも、この方の肌、すごく綺麗だ。お手入ればっちしと言う感じがする。
「少し、手を入れるだけでも、いい感じになりますわね」
ゆるふわの方が
「磨けば光る原石って訳だ。ふふっ楽しめそうだねぇ」
お姉様方はお化粧を私に教えてくれるんですよね。少し心配になってきました。
ゆるふわの方が私の顔に更に近づいて、
「この肌色だと、吉乃、貴方の道具を貸して頂戴」
「わかったわ」
由乃と呼ばれた、眼鏡の方は足元からバックを持ち上げ、ポーチを幾つか出してきた。
「胡蝶、やりすぎはダメよ」
ゆるふわの方は胡蝶と言われるんだ。
「あんましコスメ持ってないから、手持ちでパパッといこう、良いね」
私も覚悟決めないといけない。
「お願いします」
早速、美容液で肌に水を染み込ませる。パフでポンポンと早めに乾かして、始まる。
BBクリームで下地を作り、CCクリームて肌色を調整。リキッドファンデーションを塗っていく。
終わると薄くアイシャドウをしてアイライン、アイプロウを書いていく。
最後にリップを塗り、唇の真ん中に濃い色をを載せて終了。
「インスタントにしては良い出来だわ、素材と手入れが良いのね。はい鏡、どう?」
鏡に映った自分の顔を見てビックリ。ピントがあったというか、いつもよりキレがある。
「気に入ったなら、明日もやろう。小物やコスメも増やすから。あーなんか目覚めちゃいそう」
「いいんでしょうか?」
あまりにもな変わりように驚き、俄然、私もやる気出ました。
「是非お願いします」
頭を下げてお願いした。
胡蝶さんは目を瞑って思案してくれる。
「あとは、ビューラで眉毛を、マスカラもして、頬はチークかな。楽しみは尽きないね」
「お手柔らかにお願いします」
私は、この方達へ会わせてくれた彼を探したけど見当たらない。
「先輩、あれ?いないのですね」
「見ていて飽きたのね。いつもそうなのよ。もっと関心持てって言ってるのに」
一通りおわり、私はお姉様方に挨拶をして、教室を出て階段を降りる。自分の教室には誰もいない。あの人形は無視する。帰ることにした。
家に帰ると、ママに、
「なんで化粧なんてしてるの?」
「先輩がしてくれた」
「なんでまた」
「いきなりの成り行きでメイクしてくれました」
「美鳥には、まだ早いのよ。しなくても綺麗なんだから』
それだけじゃ足りない事態になっているのと言ってもダメかもしれない。
今回はママに相談しなくてよかったのかも。お化粧はこれからたくさん覚えることいっぱいだね。
就寝前ケアでクレンジングでしっかりおとした。お風呂に入りヘアケアの後、化粧水をたっぶりして乳液で保水をする。
お肌のために早めに寝ようとベットに横になりうつらうつらしてるとスマホにショートメールの着信があった。こんな夜中に誰からかな?
'おやすみ'
の4文字と表示。相手を見たら、お兄いだ。嬉しい!幸福に包まれて瞼を閉じるとそのまま…
…返信するの忘れたことに気づいても夢の中でした。
__________風見side__________
クラブ説明会が終わり、同い年の奴らが乱入してきて俺は揉みくちゃにされてしまった。
這々の体で体育館を出てから教室に戻りつつ美鳥をさがしたけど見つからない。
美鳥と仲の良い川合さんを廊下で偶然見かけて聞いたけど、知らないとのことだった。保健室にもいない。諦めて家に帰った。
「おかえり」
いつものコトリの声を聞いて安心している自分がいる。美鳥の声が聞けていない。
そのあと、スクラッチからバランスボールを使っても体幹、ウエイトトレーニングを実施してから夕食。後は勉強。机の上にノートを置いて書き込んでいくと、亜麻色の髪がノートから浮かび上がってくる。目がでたところで動きが止まった。じーっと俺を見てくる。
「寂しいよー。お兄ぃが見てくれない」
「ちゃんと見てるよ。話もしてるよ。なんでさみしいの?」
「お兄ぃ、見てるようで見てない。気持ちはあさって向いてる」
ドキッとした。よく見てるなぁ。
「今日、美鳥お姉ちゃんと話しをしたかな」
鋭いなあ。
確かに、一度は冷たく呼ばれた。後は号令だけだった。確かに会話していない。高梨と会って浮かれてたかもな。
「確かに」
コトリに睨まれてしまう。
「でしょ。切ないの、すごく寂しいの。どうするの」
抗議して凄まれてもなぁ、
「どうすると言っても、電話するには遅い時間だしな。メールアドレスは聞いてないし。そうだ、ショートメール!」
スマホを操作して4プッシュ、矢印をタップして送信と。
ショートメールには既読マークはない。たけど、
しばらくして、
コトリの顔が笑顔になった。向こうでメッセージを読んでくれたのだろう。
既読にっこりだね。
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