第68話 微睡の周りで
レビューから戻ってきた3人にドリンクとリフレッシュシートを渡している。
帰るなり、ライムには抱きつかれてしまった。疲れている様なので、座って休んでもらっている。
そばにはマゼンタが寄り添って、様子を見ててくれた。
「お疲れ様です。マゼンタさんすごいですね。みんなの前であんなに喋られるなんて」
シートを顔にそっとつけながら、
「まあ、あれぐらいならね。いつもは、もっと猛者たちに揉まれてるから」
不思議に思い、俺は聞いてみたい。
「いつも? 猛者? って」
急にしまったっで顔になってマゼンタは、
「聞かなかったことにしてもらって良いか?」
「別に、構いませんが」
頭の中にハテナマークは飛ぶものの、頼まれたし、美華さんだしで、それ以上はやめておいた。
座っている美鳥に屈み込んで、
「どう、大丈夫そう?」
「はい、大丈夫です。そうだ、一孝さん。ダンスはどうでした? おかしいとこなかったですか?」
「ないない!朝から3回目だからね。完璧だよ」
「褒めてもらっちった。エヘヘ」
さっき渡したドリンクもシートも握ったままで使ってないみたいだった。
俺は、もう一枚リフレッシュシートを取ると、美鳥の首筋とかに当てて、シートに汗を吸わせていく。
確か、擦って取るんでなくて、当てて吸わせるだっけな。おおかた、終わったんで、額にシートを当てた。
「ありがとうございます。チョッチ、ボッーとしてましたね。後は自分でします」
ニヘラって笑ってくるんで、余計に心配になる。
「ドリンクを飲んで、水分補給な。しばらく休んでていいよ。シアンさんに話しておくよ」
「いえっ、大丈夫ですって、来て、いきなりでしたから」
どうも、話してる言葉に力が入ってない。どうしたものか。
美華さんが近づいて来て、
「いーから、休めって。後はママと私でやるから」
「でも…」
やっぱり力無いな。
シアンさんもきた。
「美鳥、辛いの?なら休も。涼しい処いこーか?」
「ママまで」
「良いって、良い子は休んでな。おい、一孝! もってきたバックはどこ?」
美華さんは、元気だ。朝からあれだけ動いて、まだまだって感じだ。美桜さんも同じく。
「バックならキッチンカーの中なんで取ってきますよ」
「たのまー」
俺は急いで取りに行った。すぐ戻ったけどね。
美鳥はうつらうつらとうたた寝してる。やはり疲れていたんだ。
その横でシアンさんとマゼンタが雑談していた。
「ねえ、美華ちゃん、フィニィッシュミストっていいわね。殆ど化粧が崩れなくって助かるわぁ」
「うん、使っていて重宝してるんですよね。晴天の下の撮影なんかの時、直す頻度少なくなるし」
「でっ、まだ続けてるんでしょ、レイヤー」
「うん、続けてる。フォロアーも増えてるし、ネットでも増えてるらしいし、ママの後は継いでるよ」
「ふふっ、美華ちゃんは、美華ちゃんよ。後継なんかじゃない。ねえ、メイホア」
ギョッとした顔で美華姉が美桜さんを見返している。
「コスネーム、教えてないのに、なんで?」
「母を舐めちゃいけません。調べるのわけなかったし」
美華さん、がっくしと肩を落としている。
「そりゃ、自分の顔がネットに出てればわかるわよ」
「さもありなん。……もしかしてパパも?」
すがるような目で美桜さんを見てる。
「もちろん、鑑賞用、保存用、布教用のメディア作ってるし、スマホにも」
「いやぁー」
とうとう頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「私たちの'推し'だもん」
がっくしと四つん這いに項垂れてしまった美華さん。
かばっと起きあがり、
「別にいいもん! ママだと言い張ってやる」
「それもひどいんじゃない。ご近所からイタイ人呼ばわりされちゃう」
「いいじゃない。キレーな娘って言われてるんだよ。これでも』
「そうね、いままで、バレてないみたいだし、良いか…」
俺は、片手をあげて2人に割り込み、会話を止めた。
「ご歓談の途中ですが、そろそろ、お店手伝わないといけないのではを?」
なんか話がすごく過ぎて入れなかったけど、なんとか止めた。美鳥にも飛び火しそうな気がしたんで。
「そうね、お仕事、お仕事。バックは?」
「持ってきましたよ。何が入ってるんです?」
肩にかけていたスリングを外し、下に置く。
すぐに美華さんが取り憑き、ファスナーを開け、中のケースを開けていく。そうして、取り出したのは、白いローラースケート。シューズの下にある直線のフレームに4つのローラーが取り付けられたもの。
「アメリカのダイナーガールズといえば、これなんだよ。スーッと滑って料理を持ってく、
映画で見たことないか?」
「なんかあるような気がします』
「だろって。こんなこともあろうかと、用意したんだよ」
「できるんですか?美華さん、謎、多いですっ」
感心してしまった。
美桜さんも近づいて、ケースを覗き込む。
「私はクワッドローラーのものでいいわよ。入ってるんでしょ」
確かに、ケースを覗き込むと、ローラーがスクエアの四隅に配置された物も入っていた。
「美桜さん、もしかして」
「そう、私の。やるわよ。本当に久しぶりだけど、多分、大丈夫」
「美桜さんも、つくづく思います。謎の人です」
美桜さんは、シューズを取り出しながら
「ミステリアスでしょ」
ちろっと小さく舌を出している。
やはり感心してしまった。
2人は先に、ニーガードをつけて履いているシューズごとローラースケートに差し込んで、バックルで固定していく。
装着が終わり、立ち上がっってすぐに滑り出した。近くにあった。椅子の周りを回ったり、椅子を幾つか並べ直して、スラロームして、体を慣らしていく。
美桜さんが、そうして俺のところに滑って来て、つま先にあるブレーキを擦らてて止まった。
「うん、体が動きを覚えている。なんとかそうだわ」
美華さんも滑って来て、踵にあるブレーキを擦らせる。
「昔、とった杵柄ってやつだね」
「昔?」
俺は、聞こうとしたけど、できなかった。
美桜さんに俺は指で唇をおさえられてしまったからだ。
「聞かないでくれると、嬉しいかな」
うなづくしかなかった。俺をじっと見つめてくる眼差しに殺気が見え隠れしてたからね。
本当に、美桜さんって何者だろう。
「美華、私たち2人でディッシュアップやる。良い?」
「オーライ」
「一孝くんはバッシングでいいかなあ?」
ディッシュアップ? バッシング? って何?
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