第69話 ディッシュアップ バッシング

 亜麻色の前髪に隠れた目は静かに閉じていた。

 微かに開いた唇からは微かな吐息。

緑色のギンガムチェックのリボンシャツ。黒いAラインのチュチュスカートからはホワイトのストッキングを履いた、スラっとした脚が伸びている。

 等身大の人形に見間違いそうだけど、肩が微かにうごいているから寝ているようだ。

 幼な顔の美鳥の寝顔。見ていて、ほっこりするなぁ。

俺は、スマホを取り出して、撮影してしまいました。


   カシャ


「何、撮影してるんだよ。盗撮は犯罪だろ」

「うわぁ」 


 後ろから、ボソッと言われて、驚き振り返ると、マゼンタさんがニシャて笑ってる。


「すいません。すいません。あまりに可愛いんです思わず、ついの出来心なんです」


 思わず、手を合わせて拝んでしまう。


「まあ、家族の同意あれば、普通の撮影だね。ほいっと私も」


   カシャ


 美華さんも寝ているライムをとっていく。


「では」


 しれっと美桜さんまで。


   カシャ


シャッター音がいくつも聞こえたせいか、ライムが顔を顰めてしまう。


「では私も」


奏也さんは美桜さんに止められた。


「美鳥が起きてしまいます。私の撮影でよろしいでしょう」

「そんなぁ 」


 ガックリと肩を落としている。

 

「まあまあ」


美桜さんは、ニコニコしながら、奏也さんを慰めていた。


 そうしていると美桜さんは、寝ている美鳥に近づいて、額の髪をいじりながら、一言二言、声をかけている。

 美華さんも寄って行った。頬に手を滑らして、やはり一言二言話しかけていた。

美鳥は、起きることはなかったけど、なんかほのぼのとして、羨ましかったな。 



3人の輪が解け、美桜さんが仕事の担当をみんなに告げていく。


「では、奏也さんは厨房へ、私と美華は、テーブルへガイドと配膳をやります。一孝くん」

「はい、俺は何を?」


「あなたには、テーブルの後片付けと消毒をお願い。よろし!」

「はい」


 美華さんがスーッと近づいてくる。そうかローラーブレード履いてるんだっけ。


「一孝みたいなのは、バッシングって言うんだよ。私らはフロアコントロールでディシュッアップって呼ばれるんだよ」

「へぇー、そんな言い方ってあるんですね」

「そっ、業界へようこそ、だね」


するとキッチンカーから鼎さんからの声がかかる。


「No.53のワッフルセットできたよー」

「No.55のクラブサンドとポテトできたよー」


 それを聞いて、美桜さんが美華さんは、相槌を打つと


「マゼンタは、アイスコーヒーも出して、私はコーラ用意するから」

「アイフェロー」


 トレイを持ち出し、2人は動き出していく。

 2人は、キッチンカーのカウンターで出来上がりを受け取ると用意した飲み物と一緒にトレイに乗せて、テーブルスペースへと滑っていく。

片手にトレイをもち、テーブルや椅子、間を歩き、立ち止まる人を避けて、疾走していくのだ。

これがダイナーレストランのウェイトレス。テーブルの間を青と赤が動き回る。


「お待たせしました。ワッフルセットお二つ。アイスコーヒーのセット

「おまちどおー。クラブサンドにポテトおひとつですねー。コーラもお持ちしましたぁ」


 テーブルにオーダーされたもの置いて挨拶していく、


「どうぞお召し上がりください。レストラン、シェインズです」


 直ぐに、こちらに戻って来た。


 澱みなく、あまりにもスムーズに滑っているように見えるのを感心してみてしまった。


「すげぇ」


 二の句がつなげない。


「一孝君、Aの14のテーブル空いたから、残り物の片付けと消毒にいく!」

「はい」


 返事したのは良いのだろけれど、テーブルの場所がわからない。


 キョロキョロしていると、正に青い疾風が吹いてきた。

シアンさんが滑り込んでくる。


「ごめんなさい。テーブルの配置表を渡してなかったね、これみて。キッチンカーの壁にも貼ってあるから見てね。お願いよ」


 ちょっとしたメモを渡してくれると、すぐに次のテーブルへ料理を運んでいく。


「覚えると楽よー」


 もう、いない。素早いこと。


 さて、俺も行かないとね。

 大きめのトレイを持って人が立ち去った後のテーブルに着く。

 セルフサービスなところもあるけど、皿やコップに、どうしても残りものがある。持って来たトレイにそれらを乗せて、後は消毒用のエタノールを染み込ませた布巾です綺麗にしていく。終われば、静かに素早く立ち去っていく。

 すると、マゼンタさんが、次のお客さんたちを案内している。メニューを渡しつつ、


「こちらに、どうぞ。お決まりになりましたら、手をあげて私たちをお呼びください」


 そして、ニッコリと笑顔を置いて、テーブルから、離れていく。


「なんか手慣れてますね。物怖じせずに落ち着いてる。流石としか言いようないです」


 俺がテーブルから回収したものを分別して、キッチンカーの陰にある容器に廃棄している 


と、奏也さんが近づいて来た。調理ででた切りクズなんかを破棄しに来ました。


「美華もそうなんだけど、昔の美桜も、あれで、いろんなアルバイトを経験してるんだよね。色々と得るものがあるって」


もう、感心するしかなかった。美桜さんはいうに及ばず、美華さんも懐の深さが見え隠れしてるのは、そのおかげなんだね。


そんな話をしていると、

このダイナーレストラン シェインズのオーナーの守道さんが、伝票をいくつかもって来た。ウエイターをやってくれていた。


「dの7でビスケットとグレービーそース、チップスにポテト。bの3でビザとフラップジャックスにコーラ」


注文を受け取り、書き取った伝票をボードに貼り付けていく。


「いやー、なんか人出が増えて来たよ。1人じゃ、回りきれないな」


そんなことを言い始めている。

俺から見ても、テーブルがほとんど、埋まっているように見えた。

すると後ろから、声がかけられた。


「私が、やります」


ライムだ。

目を覚ましたようだね。

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