第65話 大階段 レヴュー
無人改札口は、大きなバックを2つも持っているから出るのをやめて、有人のゲートを通った。
「一孝さん、手伝いましょうか」
美鳥が声をかけてくれる、
「大丈夫だよ。見かけより重さ無いから」
「でもぅ」
美鳥は少し頬をふくらませ、ぶつぶつと、
「一緒に歩きたいのに」
いじらしい顔を美鳥は見せてくれる。疲れなんてなくなるよ。
「ライムたちは、これから、お手伝いで動くんだから体力温存しないとね」
「そこまで気を使ってくれるの、ありがとう一孝さん」
にっこりと返事してくれる。
コンコースを歩いて、屋外に出ると、そこにはハーバープレイスの展示会場が一望できるテラスになっていた。
いくつものキッチンカーが並び、並べられた沢山の簡易テーブルは、家族やカップル、シングルのお客さんで、ほぼ埋まっている。がテーブルとテーブルの間も、トレイを持つ人たちや、ギャルソンやセルヴースが動き回っているのが見えた。
俺たちの先を歩いているシアンさんが、
「シェインズのブースはどの辺りかしら?」
眉の辺りに手で覆いをつくって会場の中を探している。
「ちょっと隅なんだよね」
一緒にいるシェインズのオーナーの守道さんが申し訳なさそうに説明している。
「あの、アルミの地肌のキッチンカーなんだよ」
守道さんが会場の1番角にある車を指先している。
それを見ていたマゼンタさん、
「そばに、ちょっとしたスペースあるじゃない。踊れそう」
「えー、人前でダンスはちょっとなぁ」
ライムが不満を示す。
「恥ずかしがらない。ちゃんと踊れてるから大丈夫だって」
マゼンタさんはライムの肩を軽く叩きながら言っている。
「でもぅ」
「私たち自慢の3人目のデビューだよ。楽しみなんだからねー」
とライムをはげましていく。
「俺も元気なライムが見たいよ」
「一孝さんまで」
マゼンタの助け舟を出して上げた。確かに元気な姿は見たいんだ。
「じゃあ、行くわよ」
シアンさんの掛け声で、駅からの大階段を降りていく。
するとなんでだろう。周りの人垣も俺たちに合わせて移動していく。
青、赤、緑、3色の色違いのダイナーガールズコスを着た3人が動き出すと、それに合わせて喧騒もついてくるんだ。
「一孝さん、ちょっと変な感じする」
「ライム、いいこと教えてあげる。こんな時はなあ」
マゼンタが背筋をまっすぐに伸ばし行き先である方向を見据えて周りに臆することなく階段を降りていく。
「目線は行き先に固定してなぁ。兎に角、自信たっぷりに歩くんだよ。見ろよ、シアンもそうしてる」
確かにシアンさんも毅然と動いている。
「そうすりゃあ、周りの方がひいてくれるんだよ」
「お姉ちゃんにはできるかもしれないけど、私には…」
ライムは、自信なせげにオドオド、キョロキョロしてしまっている。
「まあ、場数踏まないといけないけどな」
マゼンタさんが頭を描いて、
「一孝、頼む。ライムの手でも握ってくれないか』
俺は、階段を降りつつライムに近づく、そしてほぼ横に並んだ時に、
「美鳥、バックのストラップ持てるか?」
敢えて美鳥の名を読んだ。ライムはそっと片方のバックのストラップを持つ。俺は、ライムの手に俺の手を重ねてやった。
「一孝さん」
「どうだ?、降り辛くないか?」
「大丈夫。でも、なんか恥ずかしいよ」
ライムの方へ顔を向けて見る。恥ずかしそうにライムが上目つがいで見返してきた。
「そんなライムの含羞む表情も良いね」
「!」
ライムはそれを聞いて耳が真っ赤に染まっている。
俺は重ねた美鳥の手をぎゅっ、ぎゅっとう握り直しながら階段を降りて行った。
ドンっ
バックが俺の腰を押してきた。押された方を見るとライムが腰を振った形で体を止めている。ちがう。ライムがヒップをぶつけてきたんだ。顔を見るとちろっと舌を見せている。
仕返しということなんだろう。
「そんな顔も可愛いよライム」
ニコリとしながら話してあげるとライムは手で口を塞いでキョロキョロして更に恥ずかしがっている。そんな攻防を繰り返して階段を降り切ってしまった。
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