第30話 あすなろ抱きなんです。美鳥。幼馴染琴守宅、訪問 その3

 お兄ぃが席にいない。廊下に出てしまった。

なんで、何か失敗した? 

 ママに聞こうかと目を向けると、微かに微笑んでいた。


「追わなきゃダメ」


 顎を微かに振った。ウォッシュルームを指し示し。


「いい女になるんでしょ」


 立ち上がり、お兄ぃの後を追う。

 ウォッシュルームを覗き込むと鏡越しにお兄ぃの顔を見れた。

 何なの、眉尻が下がり深い憂いが見られるの。こんな寂しそうな顔は初めて見たよ。

 私はお兄ぃの広い背中に抱きつく。

 いい女なら、こんな時どうするの? 

 寄り添って慰めるの。

 今、私の中にあるのは、お兄ぃが恋しいじゃない。もっと恋しい。そう、愛しいの、愛しい想いで一杯なんだ。

 お兄ぃじゃない、1人の男'一孝'が愛しいんだ。この思いを伝えたくて両手を上げて、一孝さんの頭を抱え込んだ。

 胸に膨らむ愛しい思いが伝われと私のおっぱいの間に顔を押し付けてやった。


「悲しい時は悲しい。寂しい時は寂しい。恋しい時は恋しいって言って一孝さん。私はいつでも寄り添ってあげる。あげるから」


 少しは伝わったのかな、一孝さんが顔を上げて私を見ている。愛しい想いがもっともっと伝われと直接に流し込んでやれと唇を差し出した。


カタっ。無粋な音がこの世界を現実に戻す。


「ごめんなさい。お邪魔しちゃいましたね。お邪魔虫は退散しますので、どうぞお続けください。パパ、パパもテーブルに戻るよ、ほらほら」


  ママのヴァカァ!


 泣きたくなってきたけど、お兄ぃが私を抱きしめてくれた。お兄ぃの胸の中、心臓の音が聞こえる。鼓動が早い。聞いてる私の鼓動も早くなった。頬も顔も体全体が熱くなったよ。


「俺の心臓の音が聞こえるかな? 聞こえるのなら、それが今の気持ちだよ」

「私も心臓がドクンドクン言ってるから」

「同じか」

「同じね」


 私たちはお互いを意識したんだ、同じになったんだね。顔を上げてお兄ぃの目を見る。私を愛しむ目で見返してくれた。安心したのか心臓の鼓動も落ち着いてきた。お兄いの鼓動も聞こえない。

 お兄ぃの心を立ち直せたんだとおもう。


 そのうちにお兄ぃが頬をポリポリ掻きながら聞いてきた。


「美鳥、鼻血の件は美桜さんに話しただろ。なんて説明した?」

「女の子の内緒って、お母さんも経験あるってなんか納得してくれた」

「何それ?」

「女の子の秘密よ、聞かないで、察してくれると嬉しい」


 でもね、お兄ぃのヴァカ、恥ずかしくも情けない記憶を掘り起こしてくれたのよ。

 ほんとにもう、ヴァカァ。


 ◇


 パーティも終わり、お兄ぃを玄関から送るとママから一言。


「連絡先は?」

「あ」


 自分がこれほど情けないとは、

 ママは呆れた顔で、家の電話に着信履歴が残っているからと教えてくれた。ママ、後光が差してる。愛してる。


 自分のスマホでかけてみる。画面をタップするのにも緊張て指先がが震えて押せなかった。なんとかブッシュ。


「もしもし?」

「おやすみなさい」


 直ぐに切ってしまった。


 やってもぅた。夜も遅いから、画面に指が乗っていたから、訳はいくらでも脳裏を走り回る。

 いや、だからね、恥ずかしいの。

 直ぐに着信音。リズミカルすぎてての中でアワアワしました。


「もしもし?」

「美鳥か? やっぱり美鳥かあ。いきなりかけてきて、いきなり切るなよなあ」

「ごめん、なんか慌てちゃって」

「俺、番号教えてなかったよね」

「ママに聞いわ」

「そっか、美鳥の家に電話したっけ」

「ねぇお兄ぃ、これからも電話するけど良いの?」

「………いいよ。あまり遅い時間は避けようね」

 

   その間はなぁに?


「うん、わかったね……。お兄ぃ、おやすみなさい」

「おやすみ、美鳥」


 短い、淡白、ぶっきらぼう。

 スマホでの初めての会話。あまりにもなんで、頭を抱える。


 でも私の胸の中は幸せ一杯になりました。




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