第120話 誰?
「お前いつまでかかってるんだよ」
いきなり、手を掴まれた。
「痛いの」
振り返ってみると大学生くらいの人が私の手を掴んでいる。ツーブロックにした髪の下、濃い眉を怒らせて、
「お花、摘みに行きたいって言うから待ってたのに、いつまで待っても来ないじゃないか」
背は一孝さんと一緒くらい。何かスポーツをやってきるのか、着ているラッシュガード越しでもわかる、胸は彼より厚い。もみあげを残しているそいか、厳つい感じがする。
「人違いじゃないのですか? 私は貴方を知らないの」
「えっ」
私の言葉に驚きながらも、彼は私の手を握ったまま。前もこんなことあったっけ。
あの時、一孝さんは私の腕をとって、そう、捻ったんだ。手を開いて、
「えい」
思い出した通りにして、拘束を離れた。握られた手首をさすりながら、
「間違えたとしても、あんな力で女の子を握っちゃダメですよ。彼女なら、尚更です」
「すっ、すまんな」
謝りながらも、彼は視線を左右に動かして彼女とやらを探している。失礼な人。
「髪の色も同じに見えるし、背丈も同じ」
ブツブツと呟いている。
「声も一緒に聞こえるんだよなあ」
まだ、何かを呟いている。
「そうか、水着の色が違ってた。もっと濃かったな。悪い、人違いだ」
いまだに、キョロキョロして誰かを探しているの。誠意が感じられません。、、
「おっ、あの色かも。じゃ!」
どうやら相手を見つけたようで、軽く手を上げて、シュタッと去っていった。あんなのは謝ったことにはなりませんよ。
相手を探して人混みの中に消えていく彼を強い視線で見送っていると、
「美鳥!」
ミッチが私のところへすれ違いに走ってきてくれた。その後ろにはカンナもいる。
「売店に来なかったから、心配になってきたよ。何かあったの? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないよぉ」
私はミッチに泣きを入れる。
「見て、この手。赤くなってるの」
握られたところが鬱血して赤くなっている。馬鹿力が。
するとカンナが私を抱きしめて、頭を撫ででくれた。
「もう大丈夫。いーこ、いー子」
「ありがとう。こそばゆいよう」
ミッチまで、私の頭を撫ででくれる。
「待ってたらね。美鳥のそっくりさん見かけちゃって」
「?」
「声をかけたら、違うって言われちゃった。確かに髪の毛はショートにしてたのよね」
ミッチはふむふむと顎に指をつけてる。
「水着もオフスリーブのローズカラーだったし」
彼女が私を凝視する。
「雰囲気はそっくりだったのよ。世の中には、そっくりな人が3人居るって言うけど、本当だ。ねえカンナ」
「一人ぐらい、私も欲しいな。美鳥のそっくりさん」
「全くなに言ってるのだか」
そこでハタッと思い出す。
「3人のそっくりさん? まさかねえ」
考え込んでしまっていると、カンナに、
「ねぇ。ソロソロ、ビーチフラッグ始まるよ時間。風見さん待っていると思うけど」
「いけなーい。怒りに身を任せてしまったじゃない。行こ行こ」
私は二人を誘って会場へ向かう。
「美鳥、これこれ。あんたの分だよ」
ミッチにペットボトルを渡された。
「ありがとう。買ってくれていたんだね」
「ふふ〜ん。まあね。崇め奉りたまえ」
「ははぁ、プールより深い忠誠を」
私はミッチから、敬っていただいた、ペットボトルを。
「なんか、深そうで浅そうだわ」
「ははは」
ビーチエリアに入っていき、向かって左側にビーチフラッグの特設会場が作られていた。白砂が広々と敷かれ、南国のビーチが切り取られて置かれている感じさえする。
そこへ野郎どもが屯する。体自慢の輩が集まった。今時は女郎も、ちらほら。
すでに会場の準備は終わり、まずは5人の参加者が砂浜に並び、距離を置いて小さな旗が
砂浜に刺さっている。
い「じゃあみなさん、フラッグに足を向ける形でうつ伏せになってください」
スタートラインのスタッフガ
メガホン片手に説明をしている。
「「手は頭の上、後頭部のところで組んでもらいます。よろしいですかァー」」
スタッフがホイッスルを掲げ、
「では、ビーチフラッグ予選第一組、オンユアマーク! レディ」
ホイッスルが鳴る。
参加者が起き上がり、体を捻って向きを変えて砂浜を走っていく。
一本の小さい側へ向かって走り込んでいく。
フラッグに向けて、足から頭からスライディングするもの。 最後まで走り込むもの。
ゴールに向けて飛び込み、くんず解れつつ。
一人の男が奪ったフラッグを掲げた。
ギャラリーの歓声と男本人の勝鬨が会場で席巻する。
「なんとか間に合って見られたけど、結構、エキサイトするね」
「うん、ゴールのとこで押し合いへし合いだもの」
「へへー野郎どもがくんずほぐれつ」
カンナがおかしい。涎たらさんと、口を半開きにしてのたまっている。
「頼むから戻ってこいや」
見ていて呆れたミッチがカンナにチョップを振り落とす。
「はっ」
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