第133話 ゲートイン
一孝さんが言うんです。
「池の向こう側を見てごらん」
だから、彼の身体に回していた手を解いて、体をそっちに向けてみた。池の淵が盛り上がっていて人が落ちないようにバリケードになっているの。
そこの上から下を覗き見るようになる。下からここを見上げると、それ程高くは見えないのだけれど、上から覗き込むと意外と高く見えるの。
「一孝さん、すごいです。景色が一望できます。人が小ちゃあーい」
そう、アクアリゾートのビーチを俯瞰で見下ろすことができるの。
その上を動く人たちが小さく見える。自分が巨人にでもなったような感覚になってしまう。小さいミニチュアがジオラマの中で動いているの、それがコミカルに見えてしまう。
もう感嘆しか出ません。池を出るまで神の視点を堪能しました。支配感というか優越感をすごくかんじます。もう、感嘆しかありません。
そのまま、池を渡りきり登るとウォータースライダーのエントランスになっています。
広くなったロビーがあり、壁には三つの穴が空いています。そこから滑り台を降りていくのよね。
私は一孝さんにお姫様抱っこをされて登ってきたの。彼に抱きついているとはいえ、怖いものでもあるので手を彼の首にまわし、体全部で抱きついているのよ。
「おー!」
エントランスには、歓声と声と拍手が私たちを迎えた。ここのスタッフと先に登り終えている美華姉さんと彼氏の和也さんがいる。
しかも、
「なんで,貴方たちが、既にここにいるの?」
そう、後ろにいた筈のミッチとカンナが先に到着していて私たち見てるのよ。お姫様抱っこされてる私を見てるのよ。
そして歓声を上げて手を叩き,拍手で私たちを迎えてくれている。
「いやね、あのまま岩場を登っていたら凄く疲てくるんじゃないかと思い始めてね」
手で後頭部を描きながら、
「ショートカップして楽ちんロードで登ってきたんだよ。これが」
まあ、あのアトラクションは男女2人できゃっきゃっしながら登っていくためのものだし、女同士だと、飽きも早いかな。
「そうしたら、2人が颯爽とくるじゃないの,思わず声を上げちゃったよ」
「美鳥さん、変わってちょうだい。次は私が感動を満喫するの。お願い」
アッ、カンナが壊れた。ミッチが後ろから羽交い示して抑えている。なんか、賑やかになってきたな。そのうち視線を巡らせると、美華姉さんと目が合った。隣にいる和也さん
は、どうやらウォータースライダーのスタッフと話をしているらしい。
「一孝さん、美華姉さんいるよ」
「追いついたんだ」
私は抱きあげられたまま、2人のところへ行かされてしまう。
「一孝君、すごいね。美鳥のことありがとう」
美華姉さんが笑顔で私たちを迎えてくれた。
「和也もすごいけど、一孝も大概ね。立派よ」
「えへへ、でしょう。お姉さんの彼氏もすごいよ。お姉さんを楽々ぶら下げてるし」
「ふふ、でしょう」
まっ、まさか美華姉とこんな惚気話できるとは思わなかった。だって、いっつもお姉ちゃん気質で上から目線で話してきてる記憶しかなかったから。意外すぎてしょうがない。
「美華、いくぞ」
和也さんがウォータースライダーの入り口からお姉さんを呼んでいる。早速、ウォータースライダーを楽しむんだ。
「うん、いくぅ」
美華姉さん、甘えた声で彼氏に返事をして、踵を返して彼の方に向かう。
「じゃあ、先に行くね。また、ゆっくりとお話ししよう」
途中に振り返って話してきた。そして意味深なウインクと内緒とばかりに唇を指で塞いで。
すると一孝さんが腰を下ろして、膝に回していた腕を下ろして、私を床にたたせてくれた。
あんっ、もう少しこのままでもよかったよぅ。
「美鳥,俺は幻でも見てるのかなあ、あの美華姉が、『うん、いくぅ』って言ってるんだよ。
あんなの初めて見たよ」
「それは言いっこなし。ビーチフラッグの時に会ってからウインクで盛んにサインをくれていたから、察してあげて、お姉ちゃんも女の子だよ」
「そうか、そういうことか。なんか悪いものでも食べたかって思った」
「私も」
お互い空笑いです。
「じゃあ,俺たちも行くか」
「うん、行くぅ」
美華姉さんの真似をしてしまいました。またまた空ら笑いです。
抱っこがあまりにも惜しかったので一孝さんの腕を抱いて、入り口まで行きます。
「おふたりですね。バーコードを見せてください」
「あっ無料チケットあります」
「ああ、イベントの景品ですね、おめでとうございます」
ここでもスタッフの人たちに祝福してもらった。えへへ
このウォータースライダーは、浮き輪を使って滑り落ちていくの。1人用、2人用とあって、もちろん2人用。一孝さんと一緒に楽しむんだ。一孝さんがすでに借りてきてくれている。
コースは二つあって青と緑のゲートが口を開けている。趣向が違うんだって。もちろん緑色のコースにしたよ。そして入り口にメガネの形をした2人用の浮き輪を置いて、前の方の穴へお尻を入れる。後ろに一孝さんも座った。
スタッフの人が浮き輪を押してくれた。
「押しますね、いっせぇーの」
ぃ浮き輪がコースにインしました。
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