第75話 偽姉 真姉
ライムにちょっかいをかけていた輩を退けた主役は斎田胡蝶。
「俺が、ライムを守る場面とられたぁ」
彼女は、男たちを一喝し退散させてしまったんだ。
ライムである美鳥と同じ高校の2つ上の先輩で、俺とは同い年となる。高校に入るかそこらの時に、周りに滅多矢鱈に喧嘩ををふっかけ、殴る蹴る、投げるだぁ、噛みつくだぁで暴れまくった女傑だったりする。
それで、ついたあだ名が’狂犬'。他にもあるけどね。その娘が、やはり、いろいろあって、バトミントン部での活動の裏でヤンチャをしていた俺と激突した。
辛くも、俺が勝利して、学校の締め役に預けておいたと言う経緯があったりする。
それが、カジュアルな格好をし、化粧もしてふんわりとした表情で、
「美鳥さん、大丈夫ですか? 怪我とかありませんか?」
なんて、喋り方までやんわりとした雰囲気に変わっているんだ。
そんなでも、
「はい、胡蝶様。おかげさまで怪我もありませんでした」
お辞儀をしてライムは胡蝶に感謝の意を示している。
「美鳥さん、私しのことは姉と呼んでいただいて良いと申していますのに」
懇願するような表情で、胡蝶は美鳥に話をしている。
「ですが」
「おい、ライム。お前にはマゼンタがいるだろ」
思わずに聞いてしまった。
「ですか、いろいろと御恩もありますし、本日はお姉様と呼ばせてもらいます」
恥ずかしげに縮こまってしまう。
「お姉様、本日はありがとうございました」
胡蝶の表情がパァッと明るいものになる。
「美鳥さん。あぁ、今日は呼び名が違うのですね。え〜と、ラ、ラ、」
「はい」
トレイを肩口の高さに持ち上げ、空いた手を腰に当て足は揃えつつ右足は少し下げる。
「シェインズのライムです。本日はライムがお相手させていただきます」
「まぁ、まあ、可愛いウェイトレスさんだこと、ライムは源氏名ってとで宜しいのかしら」
「お前、源氏名って」
「イッコウ、なにか如何わしいものだと思われていませんの」
なんか蔑んだ目で見られていませんか。
「古来、源氏名とは宮中で女房たちの呼び名として使われていたもの。戦勝に肖り源氏物語より由縁のある名をつけられたという、格調高きものでありますの。それを如何わしい世界のものと同列にお考えとは、イッコウ、世俗に塗れすぎですのよ」
俺は、あまりの事に空いた口が塞がらなかった。テメー、センコー、ガンくれてるじゃねえよ、ヅラァかせや、なんて言ってたのが 'いませんの' 'ですのよ' だろ、変わりすぎ。
「まあまあ、その辺でよろしいでしょう。お姉様」
美鳥が間に入って執りなしてくれた。
そんなは戯言をしていると、胡蝶の後ろへ赤いものが滑り込んでくる。マゼンタだ。
「えい」
可愛い掛け声で。胡蝶の膝裏に彼女の膝を押し込む。膝カックンだね。
「あっあれぇ」
堪らず、バランスを崩して胡蝶は後ろに倒れて、尻餅をついた。マゼンタは、体を翻して回り込み、彼女の前で腕を組んで仁王立ちをする。
「ライム、いや、美鳥の姉は私だよ。本人の前で、偽物のお前を姉と呼ばさせるとは、どう言う了見なんだい」
更に、片足のローラーブレードを尻餅をついた胡蝶の足の間に押し込んでいく。
「え? あ、お」
転んで、慌てたところの啖呵なんだ。かなり混乱している。
「お姉ちゃん、それぐらいでいいでしょう。許してあげて。私を助けてくれたんだよ」
強引なナンパから助けてもらった美鳥は胡蝶に助け舟を出してあげている。
マゼンタは、肩の力を抜いて緊張を解いた。
「ふぅ、…まあ、美鳥がお世話になったようだからな、こんなもんだね。はい、手を出して」
彼女は胡蝶へ手を伸ばしてあげた。胡蝶も、その手を取り立ち上がる。
「本当にっ、びっくりしましたわ」
そして、マゼンタとライムを交互に見回して、
「それにしても、そっくりですね。いくら姉妹といえどもここまでとは驚きです」
その後、
「ネットで見て驚いて、ここまで来たのですが、実物を見たら尚更びっくりでしたわ」
「ちょっと待って、ネットだって」
マゼンタは胡蝶に詰め寄り、更に襟首まで引き寄せた。
「動画サイトに三つ子の可愛い子がダンスしてるって、画像のUPがあって、あなた達を追っかけしてるのですわ」
ライムとマゼンタは顔を見合わせて、
「それで、変な奴らがついてきたんだ」
「メイクしていたとしても、姉として誤魔化されません。この子は美鳥さん間違いないと確信して、急いで参上したまでです」
胡蝶は、何処のステージにでもいるように、右手を掲げ左手を胸に置いてポーズを決めている。
「だから、お前は偽姉なんだよ」
マゼンタにツッコまれている。
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