第123話 スタート
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美鳥に頭を抱えられて耳元に囁かれた。
「一孝さん。かっこよかったよ。キュンときちゃた。大好きよ」
甘い、物凄く甘い声が鼓膜を震わせる。その震えが頭の中に染み込んでいく。奥深く染み入って、奥の奥をを蕩けさせてくれた。
頭の奥が震え出す、心も魂まで震えてきた。我慢という鍵も枷も連環も外れ、ちぎれ飛んでいく。俺はスックと起き上がり、
「たまらん。美鳥ー帰ろう」
美鳥の腕を鷲掴みにしてしまう。
「ん」
この持ち方じゃダメだね。すぐにを組み替えて、手を繋いで、会場の外へ行こうとした。
「一孝さん、一孝さぁん」
もっと頭をよわせてくれる声が聞こえる。
「一孝さん、どうしたの。まだ次がありますよ」
そう、これから先は俺と美鳥だけの世界。
「もう、正気に戻ってよ」
聞いてるのは、確かに日本語だけど魂に届く頃には、好き、に変わってくるんだ。
でも、
「お兄ぃ」
俺にとっては、唯一の言葉が頭に入ってくる。
「あれ、俺どうした」
「どうしたですか? 震え出したと思ったら、いきなり手を握ってきて、会場の外へ行こうとするのですよ」
美鳥がなんか、怖いものでも見てるような表情で俺を覗き見てきた。
「…」
「ほんとに、どうかしたかと思ったじゃないですかぁ」
心配してくれてる表情に変わってくれた。
俺の意識も戻ってくる。美鳥にこんな表情させちゃいけない。
「ごめん、ごめんな。美鳥の囁きで、俺、溶けたみたいだ」
美鳥の頬が赤くなっていく。
「もう、そんな恥ずかしいこと言ってましたあ」
「おう、魂を鷲掴みするような言葉だったよ。意識が吹き飛んだよ」
美鳥は赤くなった頬を手で覆い隠して、クネクネ。
「はぅ、そんなでしたぁ」
そこへ美鳥のお連れさんたちが近づいてきた。
「風見さん、どうしちゃったの? 大丈夫」
ミッチさんが心配してくれてる。
「美鳥、風見さんに何かしたかしら、変なことしてない」
もう一人の友人のカンナさんは、よく見えていたようで、核心をついている。
「エールを送っただけだよぅ。何にもしてないぃ」
「美鳥のは、強烈なんだよ。用法容量は取扱注意なんだからぁね」
「いったい、なんの話かなあ?」
「この無自覚が」
3人がワイワイやっていると、
「第4組がスタートします。コースの外への移動お願いします」
とスタッフが案内を始めている。
「じゃあ、美鳥行ってくる」
「はい、いってらっしゃい。頑張ってくださいね」
美鳥は脇を占めて拳をぎゅっとして言ってくる。応援してくれるんだ。かっ、可愛いじゃないか。クラッときた。頬が熱くなっていく。
「一孝さんの格好いいところ見せてください。ねっ!」
「おうっ」
美鳥の笑顔が俺の頬に右ストレートを決めた。俺は蹈鞴を踏んで膝を崩してしまう。
「ダメでしょ。美鳥。風見さん魅了しちゃあ」
カンナさんが近づいて手を差し伸べてくれて、なんとか倒れずに済んだ。
「一孝さん。大丈夫ですか? カンナ! 私。一孝さんになんかしたの」
美鳥も慌てて聞いてくる。
「無自覚のコークスクリューマグナムね。大丈夫ですか?一孝さん」
「ありがとう。カンナさん、言い得て妙だよ」
なんとか、起き上がり、スタート地点に向かう。
心配そうな顔、呆れて物言えなさそうな顔。羨ましそうな顔。三者三様な顔に送られていく。でも、不思議と胸にやる気が満ちている。美鳥だけじゃない。3人に後押しされたんだ。頑張らないとね。
「第5組がスタートします。コースの外への移動お願いします」
のアナウンスがある。
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