第24話 玄関にて候


__________ 美鳥side __________


キッチンでママは、洗い物している。徐にため息をついて、


「一孝くんが戻ってきてるなら、もっと早く教えてくれればいいのに」

「ごめんなさい」


私はキッチンカウンターの椅子に座り、項垂れている。

先生に頼まれてお兄ぃのマンションを尋ねた時、私は自分でもわからなくなるほど、思いが溢れて、感情が吹き荒んでいたの。

荒れすぎたのか、なんか記憶も曖昧になっている。

次の日にあの粘土人形を見かけてから、さらにおかしくなっていった。意地にもなっていたんだね。


「お隣だった風見さんとは知らない間柄ではないし。美鳥は一孝くんに、どれだけお世話してもらったか。数えたらキリがない」

「面目ないの」


キッチンの中からママのため息が聞こえる。


「美鳥、一孝くんと連絡は取れるかな? せめて夕飯くらい、お誘いしないとね」

「そっ、それがね       」


私が言い淀んだ。


「どうしたの?」

「聞いてないの。スマホの番号。でもマンションはわかるの。でも番号は聞きそびれちゃった」


「一孝くんの連絡先を知らないの? 会ってからの1週間どうしてたの?」


ママの3度目のため息が聞こえてくる。そうしているとキッチンからママが顔を出して私に近づいてきた。


「どうしたのかなぁ? 美鳥ちゃん、体の具合良くないの?」


ママは私も額に手を当てて、熱が上がってないかみてくれる。


「お兄ぃの顔を見て舞い上がったかも。のぼせちゃった」


実際には違うけど、自分でもヴァカだと思う。お兄ぃのマンションに行った時。ゴミ係だと伝えた時、捨て方を教えた時、聞くことは出来たはず。お兄ぃの連絡先聞いてなかった。マンションの場所は聞いた。階数も聞いた。

でもね、連絡先を聞いてなかった。クラス内のSNSにも参加してないし。伝えようとしたら、この体たらくなんだ。


「じゃあ美鳥ちゃん、一孝くんのところへ、このメモ紙を届けて頂戴な」

「なんで赤い紙に書いたの?」


書いた台紙が赤いんだ。


「この前見たドラマで使っていたの。戦時中の召集令状。ドラマがあったわぁ。それでね、使ってみたのよ」


 ママから言付けをも頼まれた。仕方なくお兄ぃのマンションに行くことになった。少し頑張れば徒歩でも行ける距離。

自分の部屋のタンスを開いて、バサ、バサっ てコートやらブラウスやらを出していく。お兄ぃに会いにいくんだ。服の組み合わせは、どうしよう。部屋の入り口でニコニコしながらママは私の仕草を見てる。何面白いの?。

 服のコーディネートを決めて私は、夕方といえる時間帯にマンションのエントランスについた。インターホンでお兄ぃのルームナンバーをプレートにあるテンキーへ打ち込む。呼び出し音が数回鳴っているが繋がらない。そういえば今日は出かけるとは朝お兄ぃがきた時に聞いている。まだ帰ってないのかな。もう一度打ち込んでみる。最後のエンターは押し続けた。

ブツっ。インターホンのスピーカーと私の頭の中と両方で同じ音がした。


「ヤッタァ繋がった。はいはーい!どなたです?」


 インターホンから子供の声が聞こえてきた。


「誰?」


なんとなく自分の声に近いような気がするのだけれど。そのうちに中扉が開く。私は走ってエレベーターまで行き6階のボタンを押した。何度も押した。


「誰かいるの?」


私はひとり呟いてしまう。それとも学校にいる変な粘土フィギュアがいるの? 声が似ている気がする。


 チン、降りてきたエレベーターに乗り込み、閉のボタン、6のボタンを矢継ぎ早に押す。エレベーターの階数表示の動きがもどかしい。6階で降りるとお兄ぃの部屋の玄関へ行きドアノブをつかんだ。体の一部が伸ばされ吸い出させる不思議な感じの後、

 ガチんと耳と私の頭の中で鍵が開く音がした。ドアノブを引っ張り開けると、内側のドアノブに片手でぶら下がる子供が見えた。亜麻色の髪でつむじがわかる。するとこちらを見上げてきた。


「美鳥ちゃんだぁ。こんにちはぁ」


 鏡で見た、写真でも見ている小学校に行っていた頃の私だ。よく見ると肘から先の手が透けている。スカートから出ている足も透けているのがわかる。


「いっしょにいよぅよ。あそぼ 遊ぼう!何して遊ぼう」


 私は引き込まれた。そしてドアが閉まる。


ヒイィ

 私は息を呑んだ。


意識が遠退き、後ろに倒れるっと思ったら、


__________ 風見side __________



俺は朝に琴守宅によって、その後、病院で検査、診察。午後から体育館に詰めていた。

最近、ルーチン化してきた薬局スーパーでコトリのお菓子を買って帰っている。エレベーターで6階に上がり玄関を開ける。

 

俺が見たのはドアの向こうにある亜麻色の髪のつむじが2つ。玄関に寄りかかってきたのだろう、支えを失い抱き合う2人は俺の方へに倒れてきた。


「危ない」


 2人を背中から支えてあげた。頭を打たなくてよかったよ。


「てっ誰?」 

「コトリだよ」


 それはわかる。もう1人は?亜麻色のロングヘアーで編み込みハーフアップ。見たことのある髪色髪型。

 美鳥だよ。


「……お兄ぃ」


 美鳥の声が聞こえた。声に力が感じられない。


「膝が笑ってる、腰に力が入んないよぅ」

「わかった。少し我慢して」


 俺は美鳥の脇に腕を差し込み引き上げる。そのまま体を返して玄関の中に入れた。


「コトリ、体離してね」

「はいなっ」


 コトリが離れたのを見て美鳥をゆっくりと降ろして三和土に座らせた。


「お兄ぃ…」

「どこか痛いのか?」


「この娘、この子、誰?」

「えっと…」


 どう答えて良いのか分からず言い淀んでしまう。

 するとコトリは、俺と美鳥の間に入り込んで


「コトリは美鳥だよ」


 俺の代わりに答えてくれた。


「ヒイィ」


 美鳥は小さい悲鳴を上げて動かなくなった。気を失ったのだろう。このまま玄関に居させるわけにもいかず、美鳥をだきあけ、俺が使っているベットまで移動させ横たえた。


 しゃがみこんでコトリと目の高さを合わせて、


「さあ、どう話をしようか」

「ケセラセラだよ」

「おっ難しい言葉知ってるね」

「えへへ」

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