第42話 女の闘い、多分勝ったと思う。感謝を捧げ
教室に入るとお兄ぃが椅子に座っていた。
私に気づいたのか、こちらに顔を向けてきた。
なんて、
なんて顔なんだろう。眉尻が落ち、眼窩も落ち窪み、絶望に打ちひしがれた顔って、こんななんだ。
そのうちに口角が少し上がり、
「どこの天使かと思ったよ。いや女神かなぁ。綺麗だよ。美鳥」
お兄ぃが言ってくれた。
'綺麗'
の言葉に反応する。
お姉様とお化粧したことも全て、お兄ぃが私を認めてくれたんだと思ってしまう。
嬉しいの気持ちが体を満たしていく。そして、
' 好き'の気持ちが体を動かしていく。お兄ぃに向けて走り出して、そして抱きついた。手を背中に回して抱きしめてしまう。
高梨先輩に負けられない、とられたくないの一心で施した化粧。お兄ぃに見てもらうんだ。
私は顔を上げてお兄ぃをみる。
「どう、いい女になったかなぁ」
思わず呟いてしまう。
お兄ぃは目を見張り、そして力を込めて目を瞑った。そして見開くと、
「ああっ、確かに。惚れちゃぃそうだ」
’好き' が’大好き'になった。自分の顔が笑顔になるのがわかる。
お兄ぃの胸の奥の心に届けと顔を埋めてしまう。
「お兄ぃ、大好き」
と告白してしまった。
お兄ぃが身じろぎする。抱きしめてくれるのを期待してはいけないかな。
だけど、
「いきなりクライマックスのラブシーンを見せびらかすとは、てえしたもんだよ。すっとこどっこい」
コイツがいる。コイツに聞かれてた。迂闊だった。コイツに何を言われるかわかんない。耳を塞ぎ目を瞑って嵐が去るのを待つしかないの。
神様の意地悪る!
すると外から微かに聞こえて来たのは胡蝶お姉様の声。
「あら、美鳥さん。まだ、いらっしゃったのですね。殿方とは会えまして」
目を開け、仰ぎ見れば、お姉様が艶然としていた。
思わず、答えてしまい、
「お姉様」
お兄ぃが訝しいんだ声をあげる。
「お前、美華姉いるだろう?」
と聞いてきた。確かに私には3歳年上の姉がいる。少し離れた大学に入って、その近くに下宿してるんだ。
「うん、いる」
それはお兄ぃも混乱するよね。私も説明しずらい。うん
「じゃあ、誰?」
お姉様が微笑みを崩さずに、
「お久しゅうございます。風見様。何時ぞ以来でしょうか?」、
同い年であるから、胡蝶お姉様はお兄ぃと関わりがあるのかしら、でもね、なんかささくれた会話をしてるの。
と、
「そろそろ、戯れも終わりにしてやってくれ。風見」
胡蝶お姉様の後ろから脱色したようなライトブラウンの長髪をした男が現れた。この人、私が階段下で嘆いた時の、
「織田か。悪ぃ。挨拶が遅れて」
「いいさ。元気そうで何よりダァね」
お兄ぃに並び、私は立ち上がり、
「階段下で会いましたね。その節はありがとうございました」
どうやらお連れの男性も含めお兄ぃとは旧知の間柄みたい。
あ姉様のお化粧のお手前のお陰で私はお兄ぃから聞きたかった言葉を受け取る事ができた。
「綺麗だ」
お兄ぃが言ってくれる。
お兄ぃに隠れて背中を見ることしかできなかった幼い私が、彼と向き合うことができた。
お姉様へは、彼の腕を抱いていることを見せて、思いが成就したことを見せることができた。もう、感謝しかない。
お姉様も、なんか満足したようで、お連れさんと帰って行った。
そこへ高梨先輩がきた。彼を心配して来たようだけど、
お兄ぃの腕を描き抱いたまま、彼女の目を見つめる。
私はお兄ぃといたい。
お兄ぃも、多分。
だから、とらないで、
お願い。
彼女は、嘆息してから、
「前にも、そんな顔してたね。わかってるよ、あんたのお兄ぃなんでしょ」
これからは私がその役をやりましょう。
私の決意です。
でも、ふと我に帰った。教室で彼をみた時はどうだったの。
疲れて打ちひしがれて消えてしまう気がしなかったの。
「お兄ぃ、何かあったの。あったのなら教えて」
心配する気持ちが出てしまったんだろうか、
だけど、彼は私を励ましてくれる。優しいなぁ、労わってくれるん。
「大丈夫、もう美鳥の前から消えたりしないから」
今、欲しい言葉を渡してくれる。
「俺は美鳥を家まで送るよ。見てくれよ、さっきまで胡蝶たちにいじられて別嬪さんになった美鳥を。このまま一人で返したらじ誰かにお持ち帰りされちゃうよ」
お兄ぃが私を褒めてくれた。それに、
彼が家まで送ってくれることになった。
ああっ優しいが眩しい。ならと二人横になって歩いた。
家までの道のりを彼の腕を掻き抱き続けた。
彼に寄りかかりずっと顔を見ていたと思う。
彼の腕の逞しさに惚れ、紅潮してはにかむ彼の顔をスパイスに道行を堪能しました。
会話なんて今はいらない。家までの帰り道がいつまでも続けと願った。
でも、現実は厳しい。家の玄関に到着した。ママが迎えに出てくれたけど
「またぁ、お化粧はダメって言ったでしょ」
ママが呆れて、もの言う。
「お姉様、違う。先輩のお手前です」
ママの頭の上を派手なマークが飛ぶ。
「お姉? 美華?」
どう説明する。わからないよぅ」
「違う、間違い」
仕方なさそうにママは私の顔を覗き込む。
「睫毛のクルンクルンだし、マスカラまでぇ」
「他の先輩方がてぇてぇって言ってたけど」
あれは褒めてくれてるんかしら、
ママは言う、
「もう!、クラスの子には見せてない?」
耳が熱い、
「一孝さんには、」
ママが驚いて目を剥いた。
「『一孝さん』 えぇ!」
「もう! いいでしょ」
恥ずかしんでしまいます。
ママの声が変わる。優しい声なんだ。
「約束して、学校へはしていかないと、休日は美鳥が考えれば良いことだし」
「いいの?」
ママがウインクした。
「美鳥もそう言うお年頃だもんね」
「ママ!」
思わずママに抱きついてしまった。
でも、ママが肩を落とす。
「でも悔しいなぁ。母の夢とられた」
「何それ」
「娘へメイクの手解き」
なぁーんだ。
「じゃあ、ママお願い。まだ上手く出ないの」
「承りました。えへ」
1日色んなことがありすぎたけど、
今は、'嬉しい'が体の中にいっぱい。
なんか残念だけど、クレンジングでメイクを落として、お風呂でシャワーを浴びていても、にやけてしまうのがわかるの
化粧水、乳液でナイトケアをするのに鏡を見て微笑みが張り付いてるのを見てしまった。戻らないの。
なかなか寝られなかったけど、ウトウトしだして、寝る前に一孝さんにメール送った。
≫一孝さん 呼んでよい?
≫おう
返事が来た。思わず
「大好き」
口に出していた。思いよー届け。
≫おやすみなさい 一孝さん
≫おやすみ 美鳥
瞼が閉じ、幸せな夢が見れました。中身は内緒ね。
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