第99話 藍の衣 舞う 3
ベンチに座って、花火の残りの煙を目で追った。風に吹かれて私たちから離れていく。
「綺麗だったねー」
「だな。」
すると、
バシュツ、
「また、上がったよ。美鳥」
「はい」
音がした方を見てしまう。
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ヒュー、バァッ パァッ パァッ、ドゥどドーン バチバチバチバチ
上り分花、曲付き、三重菊先、小割付き
光を引いて幾つかの子牡丹が咲く、すぐに3色の菊芯が開き、銀色の帯が広がったら。更に、その先で小花が開く。
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見事すぎて、呆気に取られて、口が開いたまんまになりました。
わずかに明かりが残るうちに一孝さんの顔をみると、私と同じ顔。微笑みが溢れます。
「綺麗だ」
「はい」
いつ間にか、彼の腕を掴んでいました。どうせ、ここは私たち2人の世界。このまま楽しみます。
ドゥっ
お腹にも響く太い音が鳴り響く。
「きゃっ」
「美鳥、大きいのが開くからね」
「はぃ」
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シュー、ドッドッドッドッど、ドオッォーン、ドオ ドォ ドォ オーン、パチパチパチパチ、シュー、スッ。
ほぼ無音で火玉が上がる。最初は同時に五つの牡丹が咲いた。
そして頭も体も芯から震える大音場と共に、夜空に大輪の菊先が開いた。色もかわる。
開いた中に二重菊先が三つほど開く。
大輪の花は冠となって地上に雪崩れ落ち、先に遊星、蜂が舞う。
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「これは尺玉だね」
「尺玉? キラッキラっでたくさんの花火だけど。音が凄くって耳がどうかなっちゃう」
私の手はいつの間にか彼の襟を握り、一孝さんにしがみついてました。
「大きい花火なんだね。すごかった」
と言いつつ、一孝さんは私の肩に手を回して、抱き寄せてくれました。エヘ。
「確かに、これならコトリも気絶する」
「えぇ」
「美鳥も堕ちるなよ」
「頑張る」
あの世界は……
花火の光になれた目には、当たりは闇に包まれている。かろうじて屋台の灯りがわかるぐらい。音だって、いっ時はしなかった。やっと喧騒が少し戻り出し頃、
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シャー、と火柱が上がる。5本立ち上がる。
そして、5箇所から一斉に上がる青い牡丹玉、それが色を変えて混合色牡丹へ、収まったと思えば、群蜂 飛遊星のシュルシュルヒュルヒュルの変わり音、下には地面で半分牡丹が幾つも開き出した。
二重、三重芯の菊先、変化菊の早撃ちも始まりだす。それも複数発射。
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「あぁ」
もぅ、私は、光と音に酔ってしまったかもしれない。
一孝さんの襟を持ち、彼にもたれかかり、肩に頭を乗せてしまう。ただ、ただ受け入れるだけだったの。
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もう、終了かと一拍空いて、点滅千輪菊上り、間を開けずに彩色千輪菊も上がる、交互打ちとなった。
椰子の木も上がり出し、再び二重、三重芯の菊先、変化菊の早撃ちが始まり始めた。
それが終わり、一拍空いたところで5箇所から小割浮模様の冠菊の早打ち、それが銀冠の早打ちへと変わる。
視界は一面、銀世界。
全身を震わせ、会話のままならない大音場。
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周り全てに光が満ち、流れ落ちていく時、私は、一孝さんの顔を見上げる。彼も私を見てくれた。
自然と顔が彼に近づく。彼の唇が私の唇に近づいた。
と、思った時、ふと目を開けてしまった。
一孝さんの頭越しに見えたベンチに、藍色に黄色や赤の百合が染められた浴衣が見えたの。
淡い色の八寸帯、亜麻色の髪と髪飾り、その端から見える紗の着流し。
わかるの、パパの上にのママが覆い被さるように………キスしてました。
私は、身じろぎ、両手で一孝さんの口元を抑えて、力一杯離した。
ごめんなさい、一孝さん。
ごめん 、私。
「ダメー」
「ンっ、プッ、ペッ、ポッ、ぱっ ??」
手を彼から外すと、
「どうしたの、いい雰囲気だったのに」
もちろん一孝さんも混乱してる。私は彼の顔横に、見えたベンチを指差した。
「ババとママがキスしてる。それに、こっち丸見え!」
一孝さんも私が指差す方向を見て、固まった。
パパママ2人は、キスを満足したようで、覆い被さっていたママがパパから降りた。
襟元なんか治してる。そのタイミングで、声かけた。
「もう、仲のよろしいようで」
「!、え?美鳥? 見てた?」
真っ赤になってるママと、目を開けて私たちが見ていることに気づいたパパは、手をフリフリ慌てている。
「ばっちし。ママも情熱的なんですね。肉食系ですか」
それを聞く私だって、未遂だし、前科持ち。耳から首まで真っ赤に染まってる。
「もう、油断したぁ。こんな近くにいるなんてねぇ」
ママも襟から覗く首から耳まで真っ赤になってるよ。
「美鳥、ちが、違う、違うんだ」
パパの言い訳は別にいいの。
しばらく、みんなでアウアウしてました。
コホン、
口元に握った拳をあて、息を整えて、ママが
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
と、帰りの音頭をとったけど、私はママの前に立って言ったの。
ママとパパの顔を見て、お辞儀をした。
「お願い、今晩は一孝さんのとこに泊まりたいの。お願いします」
「「「えぇ」」」
1番慌てたのは、パパだったの。私に詰め寄り、肩に手を置き、
「どういうことだ! 美鳥! 女が男住まいのところに、いくってどういうことか、わかってるのか?」
更に一孝にまで詰め寄る。
「どういうことだ!一孝くん。美鳥に何か、吹き込んだのか?ことによってはタダでは済まさんぞ!」
そうして、ママの浴衣の裾を握り締めて、
「美鳥がぁ、美鳥がぁ」
膝から崩れ落ちる。
私は一孝さんの方を向いて
唇だけで声を出さずに、
こ と り
と、動かした。
一孝さんは目を見開いたけど、にっこりとして、うなづいてくれた。
わかってくれたんだ。
私はママの前に立ち、目を見る。
「やらないといけないことがあります。お願い、一孝さんのところへ行かせてください」
もう一度、お辞儀をした。
一孝さんも私の隣に来て、
「俺からもお願いします」
最敬礼してくれたの。
ママは私の目を覗き込む。私はその瞳を強く見る。
しばらく目を見合うしかなかった。
ママは嘆息し、一孝さんの方を見て言った。
「いいでしょ 一孝くん美鳥をよろしくね」
「「はい」」
2人して返事しちゃいました。
パパはママにしがみついて、
「ママまで、…ああっ」
「あなた、以前に言ったのよ、美鳥もつけるって。行かせてあげましよう」
「あれは酔った時…」
パパは項垂れてしまった。
ごめんなさい、パパ。
そうして、一度、着替えとナイトケア用品を取りに行くため、家に戻ることになった。
道中、車の中で、パパは、
「一孝くん、今は話しかけないでくれないか、何するかわからん」
それを聞いた一孝さんは、室内の隅により、怯えて縮こまっていました。
一孝さん、ごめんなさい。私の我儘に巻き込んでしまって。
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