第45話 会心の一撃
夏休みなのに定期的に学校来ることになるの本当によく分かんねえな。
来る人来ない人は日によってまちまちだし、土、日、月曜日は集まらないから緩いと言えば緩いが…演劇を本気でやる事を考えると、主演を張る俺はかなり頑張らなきゃ行けない。
まず台本を叩き込むのが大変なんだけど、それは時間をかければどうにでもなる。
問題なのは、なんでか知らないけど俺がシンデレラをやらなきゃいけなくなった事。
本当に大丈夫なのかなこれ、という不安に駆られ続ける事になってる。
「……東雲君、完璧」
奥村さんのこの言葉で余計に不安になるのは何でなんだろう?
「家でコソ練して来た?」
「…してない筈だな」
「センスだよねこれはもう」
「女性役をやるセンスなんて知らなくて良かったんだけど」
心配せずに気楽に構えようと…思った三秒後には心配になる。
やっぱり配役って大事だよ、もう少し精神的に向いてる奴居たんじゃないか?
という俺の心配は置いておき、とりあえずこれで良いらしいので今日は俺は問題無しで帰れる。
今日は採寸もやったしなんか精神的に疲れたな。
疲れることほぼやってない筈なのに。
体育館から教室に戻って荷物を取り、玄関に向かう。
「…雨降りそうだな」
曇り空を見上げながら誰に話しかけるでもなく呟いて、念の為鞄の中にある折りたたみ傘を確認しておく。
…昼飯どうしようかな。
制服を着たままで一人、飲食店に入るのもなんか嫌だから、何か買って帰ろう…と考えて帰宅道中にあるコンビニに入った。
そこで見知った顔に遭遇した。
「あっ…りん…か先輩」
「朝比奈さん、どうも。もしかして呼び捨てにしようとした?」
「ち、違います!皆と話してる時はリン先輩って呼んでるだけで…」
「ならそう呼べば良いだろ、別にそこまで気にしないって」
「そうですか…」
「まあそれはともかく、珍しいよなこっち方面に居るの。確か帰りは反対の道だよな」
木下さんと同じ方に帰っていくイメージがあったのでそう聞くと、朝比奈さんは少し目を逸らした。
「…ちょっ…と、今…家に帰り辛いんです」
「成程、なら暇つぶしでも付き合おうか?」
「……じゃあ、ちょっとだけお願いします」
そんな朝比奈さんの呟きを聞いてから、肉まんと冷たいお茶を買って、町外れにある使われてないバス停の横にあるベンチに座った。
「帰り辛い理由って人に言える事?」
「言えない事では無いですけど、積極的に言う事ではないというか…」
「…ふーん……。お姉さんが男連れ込んでるとかそんなところ?」
「わったっ!?」
適当に予想を言うと、隣に座る朝比奈さんがサンドイッチを膝の上から落としそうになった。
「おっと…危ないぞ」
空中で偶然キャッチに成功して、元の場所に置く。
「えっ………」
「…あ、もしかして正解だった?」
「私…姉が居る話なんて、しましたか…?」
「いや、されてないけど…。そんな気がしたから適当に言っただけで。お姉さん居たんだな」
「…居ます、上に姉が二人」
「へえ…三姉妹なんだ」
朝比奈さんは缶コーヒーを一口飲むと、一度息を付いてから話を続けた。
「次女の男癖が悪くて、帰ろうとしたら…」
「あぁ、それで帰り辛いって。親は?」
「今の時間だと普通に仕事です」
「それもそうか…」
「特定の人と付き合ってるとかでは無いらしいから、まだ問題にはなってないんですけど…」
「…ちょっと待ってごめん、その話もしかしたら俺の心を抉る可能性とか無い?」
今の時点でちょっとダメージ入ったんだけど。
聞こえてないのか、朝比奈さんの愚痴は続く。
「どうも避妊してない様で、流石にそろそろ不味いんじゃないかって、少し前に長女と話してたくらいなんです」
「ねえ、やっぱりダメージ入ったんだけど。会心の一撃だよそれ」
「説得とかできますかね?」
「無理だな、諦めて部屋にこっそり避妊具置いとけ。気が向いたら使うかも知れないぞ」
「…先輩ちょっと投げ槍じゃないですか?」
「投げ槍にもなるだろ、俺そろそろ泣くぞ?その話題続けられると」
こいつもしかして、隣りに座ってる俺の肉まんが未だに食べ進められてない事に気付いてないのか?
俺辛いよ、なんでこんな話されなきゃ行けないんだよ。
自分で首突っ込んだから仕方ないけど、これは今以上に首突っ込める話でもない。
愚痴を聞く程度で良いだけ、まだマシだな。
当事者には二度となりたくないね。
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