第109話 デート②

「…マジで人生で一回も無いのか…?気付いてないとかじゃなくて…?」


「無いよ、多分」


 …そんな「マジかよこいつ」見たいな顔されてもな…。無いものはないよ。


 昔から発育が良かった事もあって、視線を感じるのは今に始まったことではないが、そうは言ってもマトモに友人と呼べる存在ができたのは金村君が初めてだった。


 それ以前はと言うと、以前に話を聞いた凛華と大して変わらない。色々と苦労していた凛華よりはマシだけど。

 私は単純に誰にも話しかけられないし、話しかけることも無かった。

 本当にただそれだけ。

 中学に入っても同じだと思っていたけど、金村君だけは当たり前のように話しかけてきた。

 彼が話しかけてきた理由だって「隣の席なのに僕に興味なさそうだったから」という、今はよく分かるが、当時は本当に意味の分からない理由だった。


 その金村君と話をする機会があったから、凛華とも一緒に居る時間が出来た。

 凛華と居たから、後輩の女の子に懐かれる様になった。


 それでも一番良い思い出は、金村君と凛華と三人でノープランに街を歩いたり適当にお店に入ったりする学校の帰り道。

 暗くなってから現地解散をして、誰も居ない自宅のリビングで思い出に浸っているあの時間が好きだった。


 冷静になって考えると、皆に怖がられていたのかも知れない。

 凛華と金村君とつるむ様になった後も、それはそれでその二人と同じくらいの甲斐性がある人じゃないと気を許せないと思われているから、結局関わりを持つ人は少なかった。


「…ま、女の子に告白された事は何回かあるけど…」


「……女子高でもないのにな」


「好きな人がいるからって断ってたけどね」


「………ほぼ皆が、瑠衣だと思って諦めたんだろうな」


「だと思う。実際、金村君の事も好きだって何の躊躇いもなく言えるよ」


「アイツに対しては嫉妬さえしなきゃ欠点なしの良いやつだからな」


「その『欠点なし』が思いっ切り足引っ張ってるけどね」


 彼はそれが原因で嫉妬を一身に受けて、周囲から足を引っ張られまくって性格が歪んだ。

 凛華と殴り合ったおかげで色々とスッキリしたらしいけれど、それもなんだかよく分からない。


「…まあ、私は金村君にはそういう意味では惹かれなかったな。そうじゃなかったら、友達になってないし、良いんだけど」


「……正直、分かんないんだよな。なんで瑠衣じゃなくて俺なんだろうな?」


 凛華のそんな疑問に私は思ったことをそのまま答えた。


「欠点が見えないから関係が浅いと魅力的に見えるし、付き合い方さえ合えばずっと仲良く居られるのが金村君で…。第一印象は好みが分かれるけど、一回ハマると抜け出せなくなるのが凛華かな。私みたいに一目惚れする人がいる程度には、凛華も綺麗な顔してるし」


 ふーむと、少し考えてから、納得したように苦笑いを浮かべた。


「顔と名前のせいで女っぽいってよく言われるけどな」


「それも凛華の魅力でしょ?あ、この駅で降りるよ」


「ん、分かった…。けど、これどこ向かってんの?」


「んー…?着いてからのお楽しみ」


 凛華の手を取って電車を降りる。


 今日は元々、凛華がエスコートしてくれると言ってくれたのだが…せっかくなら、と私が行きたい場所を回りたいと言った。

 詳しいことは聞かないでも二つ返事で了承してくれた。凛華は仲良くなるとすぐにこれだからな…。


「…そうだ、一つ聞こうと思ってたんだけど…」


「えっ、なに?」


「凛華って、なんで今日空いてたの?」


「なんでって…あぁ、バレンタイン?今日って朝比奈さんの誕生日だから、皆揃ってチョコケーキ作るんだってさ。同級生の女の子たちで集まってる中に入るのも悪いなって…。まあ、雫にはさっき、『そんな遠慮はしなくていい』ってちょっと怒られたけど…」


 成程、いくら後輩と仲が良いとはいえ流石に入りやすい時と入りにくい時くらいはあるか。


「…遥香くらいは何か言ってくると思ったけど、最近は如月に付き纏われて疲れてるみたいだからな…」


「……大丈夫なのそれ?前に見たときは…なんか、友達の距離感じゃ無かったけど」


「あれは……。まあ、大丈夫だろ。遥香も、祢音とがっつりキスしてたし」


「え゙っ…そうなの…?」


 あの子にそっちの気があるとは知らなかった。

 どちらかと言うと凛華と金村君がいつかギリギリそっちの方面に足を踏み入れかねないんじゃないかと思う距離感にある時があったのは覚えているが。

 ……ていうか、兄妹そろって中川祢音に心を侵食されているな…。


「…私は目移りしないけど…」


「いや…そもそも目移りするほど、他の人と関わりあるの?」


「ないよ。初めて出来た友達が凛華と金村君なせいでハードルがとんでもなく高いから」


「俺はともかく瑠衣はなぁ…」


「どちらかと言うと凛華のせいだけど」


「えぇ…なんで?」


 なんで、こういうのは気付かないのかな。

 鈍感と言うほど鈍感ではないが、気付かない時はとことん気付かない。

 基本的に察しの良い金村君とは色々と釣り合いが取れてる様にも思える。


 駅を出て、あまり見慣れてない少しだけ田舎っぽい街並み。いつもより澄んでいる様に感じる空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「…あれ、ここって……」


 話を聞いていた限りでは凛華が来るのは、かなり久しぶりの筈だ。

 景色を見るまでは気付かなかったらしい。

 …まあ、小さい頃なんて駅名とか気にしないよね、凛華の性格なら余計に。


「……小夜さんに、良いお店いくつか紹介してもらったんだよ。一人で行くのも味気ないし、ここならいつもみたいに、知り合いと顔合わせる事もないから、丁度いいでしょ?


「…一番顔合わせたくない知り合いが居る可能性あるんじゃ…」


「大丈夫、今日はこの街には居ないから」


「なんで知って……って、そうか。もしかして前にこっち来てた時に?」


「そう、小夜さんに色々教えてもらった。デートスポットとか…。色々ね」


 成程と呟いて、観念したように肩を竦めた。

 道なりに山の方へと足を進めたら、大きな和風の屋敷があり、そこには雫さんと椿の実家があるが…今日行くのは真反対の方向だ。


「いこ?あんまり、この街歩いた事ないんでしょ?」


「…まあ、今日は大人しくエスコートされようかな」

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