第70話 勝負の二学期
「あっ…瑠衣あれ」
「お、美咲ちゃんだ。珍しいね、登校中に三人揃うの」
瑠衣と二人で並んで歩いていたら、時間が合ったのか白雪美咲も合流した。
9月に入ってもなお制服はまだ夏服のまま。名前と同じ様に涼し気な様子でこちらに小さく手を上げた。
「…夏休み終わりか…。長かったね」
「美咲ちゃん、それ何か違う気がするよ」
「普通もっと長くしてほしい…みたいな事を言うんじゃないのか?」
因みにいつもなら俺は遥香や如月、椿と登校するが…今日はその遥香と如月が雫を起こすのに手間取って居たので、スルーして先に来た。
それで朝練習が無い瑠衣と鉢合わせた、という事だ。
「もう初秋だよ、それもう夏休みじゃないし」
「立秋過ぎてもまだ残暑あるけどね」
「何お前ら俳句でもやんの…?」
残暑とか初秋とか、いやまあ残暑はともかく「初秋」って日常会話で滅多なことじゃ使わない気がするんだが。
登校中に遭遇したいつものメンバー。並んで歩く姿を教室の外で人に見られているのは、学校では案外珍しかったりする。
俺達三人は校内で良くも悪くも有名だ。
図書室の白雪姫と、高校サッカー界の王子。
あとはなんか知らないけど後輩美女子に人気の奴。
「……にしても、今年の夏休みは……濃かったな…なんか」
「東雲君はそうかもね、これから文化祭っていうより濃い行事が待ってたりするけど…」
「…思い出させんなよ」
「主役なんだから、そこは頑張りなよ」
頑張るつもりではある。
それはそうと嫌なものは嫌だとはっきり言うけどな。手遅れだろうが言うだけならタダだ。
「…それに、文化祭の事もそうだけど…。凛華はいい加減に、すぐ近くにある問題に目を向けなよ」
「はあ…?なんで急にそんな事言われなきゃ…」
いつもとは違う、どこか呆れた顔で瑠衣は呟いた。
「隣と後ろ見れば何となく分かるんじゃない?」
言われた通りに隣を見ると、可愛いらしいキョトン顔で後ろを見る白雪が。
釣られるように後ろを見ると、見覚えのある一年生女子達が一様にこちらを見ていた。
如月、雫、古山さんといった俺へと好意を向けてくる三人やまだ少し不明ながら怪しい気配のある妹の遥香。
朝比奈さんや木下さんは大きな関わりこそ少ないものの慕ってくれてる感じはある。
そして祢音は、椿と元店長の中川さんの事があってからはまだ遠慮気味だが、彼女からも一人の先輩以上の感情を向けられていると感じる事はある。
それらを問題と呼ぶかはともかく、放置し続けるのは良くないだろう。
俺は曖昧ながら、数回ほど断った筈なんだけど。
視線を正面に戻して、何となく気まずい雰囲気を感じだった俺は、一人先に校門を通り過ぎた。
俺は高校生の間にもう一度彼女をつくることはあるかも知れない。
でも、そう在りたいかと聞かれると微妙な所だ。
しばらく俺は独り身で居たいと思っていた。
俺を好きだという彼女達の様子を見ると、何となく目を逸らしたくなる。
からかったり、軽く流したりするのもそろそろ止めたほうが良いのかも知れない。
教室に入ると、退屈な顔した普通寄りのイケメンがこっちを向いた。
「おはよう、東雲。てか一人かよ」
「…おはよう、中島。急で悪いんだけど女の好み教えて」
「マジで急だな!?えっ、でも……そうだな、やっぱ一個下の如月とか…」
王道過ぎてなんとも言えねえ…。
「お前らしいな、なんか知んないけど顔の割に凡夫って感じする」
「…俺今なにげにディスられたよな…?」
中島の横を通り過ぎて自席に座り、しばらく考え込む。
「彼女に振られたか何かあったのか?」
「いや、彼女はしばらく前に別れたけど…そのせいで最近女の子に告白される事が続いてて困ってる」
「…なんか凄え自慢されてる様な発言なのに、その気が全くしないんだけど」
「自慢じゃなくて相談だからな」
「………まあ……なんだ、自分の心に従うのが良いんじゃね?要はあれだろ?「別れたばっかりで傷心中だから今告白されてもちょっと…」っていう状態なんだろ?」
こいつこれだけの会話でそこまで分かるのコミュ力高過ぎだろ。
「…あんまり興味無かったけど、大島お前良いやつだな」
「その、何気なく毒吐いてくるのなんなんお前?」
「大島と話してたらちょっと勇気出たわ、もうちょい考えてみる。だからこっち来んな」
「お前俺のこと雑に扱いすぎじゃね…?」
それでもどこか満足そうにしてるあたり、こういうラフな付き合い方のほうがお前好きなんだろ?何となく分かるよそれ。
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