第三章 点滅するネオンライト

第71話 どこも気まずい

 眩しすぎると感じる程に強い日差しに目を細めつつ、嫌気が差す熱気が頬を撫でる。


 いつもなら絶対に来ることのない校舎の屋上。実は人気スポット。


「んー……こういうの青春って感じするな」

「…凛華先輩の青春の基準どうなってるんですか…」

「いやあ、祢音って優等生の割にこんなところについて来たりするんだな…とか思ってさ」

「寧ろなんでここの鍵が空いてる事を知ってるのかが気になりますけど」

「教頭が鍵壊して、それ以降直すの忘れてるんだよ。もしくは見て見ぬふりしてるのか。どっちにしろバレると不味いけど」


 それはそうと、別に俺がここに来たかった訳じゃない。


「…で、俺に話しておきたい事ってなに?」


 他の誰かにはあまり聞かせたくない話がある…とかって理由で祢音に呼び出されたから、他の誰も来ないここに来たのだ。

 事情が事情だから、白雪や瑠衣にもここの話はしていない。


「…叔父と黒崎さんの話です」

「ん…?なら別に誰に聞かせても良くないかそれ?超どうでもいいし」

「えっ?いえ、結構大事な相談なんです」

「あぁ、なるほど。それで、なに?」


 正直、聞かなくても碌な事じゃないんだろうなって予想できてしまうから聞きたくない。


「…二人暮らしするそうです」

「…ん……中川さんと椿が?」

「はい」

「……へえ…」


 なんか知らないけど、あの二人の関係は順調、良好らしい。


「それに伴って、家族が少しごちゃごちゃしてるんです。その…友梨奈や穂香と私が喋っていた黒崎さんの話を、私の母が聞いていたらしく…」

「あー…?あ、えっと…つまり…?」


 椿が別の男に執着してたくせに他の男に股を開いてたとか、そういう話だろう。

 なんで自分の家でまでそんなこと話してるんだよ…。


「叔父と母が喧嘩中で、そのせいか海外に飛ぶ話まで出てるそうで…」

「……えっと、俺そういうプライベートな話はあんまり聞きたくないんだけど…」

「…それが原因で、母が家族周りの身辺調査をし始めたんですよ」

「……うん」

「父の不倫が発覚したんで、今私の家は軽く崩壊気味なんです」


 私はどうしてこんな話を聞かされなければ行けないんですか?

 俺は身の回りはなんでこう人間関係に問題抱えてる奴しか居ねえんだよ。


「…椿あいつ何処行ってもトラブルメーカーだな…」

「いえ、先輩が手元に置いておけば何も問題無かったんですけどね」

「いや、手に余るよ。事実こうなってるからな」

「…ともかく、そのせいで今家に帰りづらいんです」

「君の家って確か…とんでもなくでかいよな」

「不倫相手が家のお手伝いさんだったので、今はほぼからですよ」


 ………俺には話さなくて良くない?こういうのもう聞きたくないんだけど。


「………単純でかなり勝手なイメージだけどさ、金持ってる家ってそういう事とか、遊び回ったりする事に寛容なイメージがあるんだよ」

「母が厳格な人なので、私には何とも言えません」

「…まあ良いや、それで…もう過程の話は良いからさ。俺にどうして欲しい訳?」

「少しの間、東雲宅に泊めて下さい」

「他に選択肢あったろ…」

「総当たりして今ここです」


 …ってことは如月達は全員駄目だったのか。


 如月は…なんでだ?

 木下さんの家はシンプルに遠い。

 朝比奈さんは……あ、まだお姉さんの男関係がどうとかって問題が片付いてないから気まずいよな。

 古山さんは……義兄の宏斗君が居るから流石にその生活見られるのは遠慮したいのか。


 …たしかにあんまり選択肢無いな。


「遥香には「兄さんに聞いて、私に決定権ないし」って言われたけど、かと言って人前で凛華先輩とこんな話できないですよ」

「あぁ…うん…そうだな」


 ここ最近は特にそうだ。

 遥香は変に情報漏らしたりしないだろうし、一番安牌にはなるのか。


「…あ、雫には聞いたのか?」

「お姉さんの事でこうなってるんですから、一番気まずいですよ」

「いやあ、あいつそんなの気にしないだろ…。連絡入れてみるか?」

「いえ……。凛華先輩がYESと言ってくれるならそれで良いんですけど…」

「俺がNOと言える人間に見える?」

「……見えないから最後に声を掛けたんです」


 つまり最初から雫という選択肢は無かったのか。

 まあ、祢音はそういう所も気を使うよな。


「いいよ、母さんは気にしないだろうから。好きなだけどうぞ」

「…ですよね、凛華先輩はそう言いますよね…」

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