第24話 冷たい瞳
……ふざけんなよマジで……アイツが変なフラグ立てたせいで……ってのは、流石に逆ギレぎ過ぎるか。
中途半端に覚悟決まってたせいで状況を受け入れるのがとんでもなく早かったんだけど。
瑠衣、あいつには二度と俺の前で意味深な事を言わないで欲しい。
…東雲凛華、現在拉致されております。
事の発端は校舎を出てすぐのこと。
如月、雫、遥香の三人と帰宅路に入ろうとした所、突然中川から電話がかかってきたので三人を先に帰らせて電話に出た。
通話してるはずなのに何も音がしないから不思議に思ってかけ直していると…あら不思議、突然目の前車が一台。
男に囲まれて急に拉致られましたとさ。
……ガチで意味分かんねえんだけど、何が起こってんのこれ?
なんか耳栓みたいなのされて音聞こえねえし、猿轡されて声出せねえし、目隠しされて前見えねえし。
車の振動だけはよく分かるけど、それ以外は何もわからない。
…マジでどうしようこれ。
九割くらいの確率で、中川さんの関係なんだろうけど…俺何もしてないし。
電話かかって来たのが原因だろうけど、アレなんだったんだ本当に。
多分俺…関係ないよな。マジでふざけないで欲しいんだけど。
しばらく車に揺られていると…何処かに止まってから担ぎ上げられた様な感覚があった。
…あら快適…。
じゃねえよこの野郎、マジで何処のどいつか知らねけどさ、ぶん殴ってやりたい。
さっきから苛々が募って仕方ないんだけど。
…今、何処に俺の体置かれてるんだこれ?床超固いし冷たいんだけど、こちとら夏服やぞ。
多分ここに居るのって中川の母親だよな、俺以外に居るとすれば…だけど。
生憎と周囲の状況は一切つかめないので、詳しい事は分からない。
カバンを取られたのは記憶にあるから、中身を物色されてる可能性はある。
財布はちょっとしか入ってないし、スマホはまだポケットに入ってる感触があるので取られてない。
となると物色されてもそんなに気にはならないか。
下校し始めたの頃からどれだけ時間が経ったかは分からない。
ここからでは事態が動くのを待つ他にできる事も無い。
…にしてもここまで暗いってことは今、夜なのか。
暗いところで拘束するのは百歩譲って別に良いけど、猿轡だけどうにかしてくれないだろうか。
「ん…」
不意に背中に誰かが寄りかかってきた。
どうやら誰かさんが起きたらしい。
振り向くと…急に至近距離にまで顔を近付けられて、思わず身を引いた。
「んぐっ…!?」
「っ…あ…え?凛華先輩?」
「………」
…えっ、中川さん本人じゃん。お母さんじゃなかったのかよ?
中川さんは俺と違って一切、拘束の類はされてなかったので、さっさと全て外してもらった。
「……で、どう言う事だよ?色々と」
中川さんに対して手を加えずに放置していたら俺が解放されるのは分かり切ってるだろうから、この状況はわざとなのか。
そもそも何故中川さん本人がここに居るのか。
「実は全く分かりません」
「…分からない?母親の事はどうしたんだよ?」
「それが、私も家に帰った記憶がなくて…」
「…んー……」
ならばとりあえず、俺達は拉致った奴らのシナリオ通りに動く事はせず…にここで待つ、という選択肢を取るのが懸命だろう。
「…まあ、待つか」
「待つって…?」
こういう時にすぐ異常事態であることには気付くだろう優秀な妹が居るから、俺が何か焦る必要はない。
それよりも中川さんが安全に逃げられるように注意しておこう。
と、他にも一応聞かなきゃ行けない事があったな。
「…なあ中川さんはこういう、誘拐というか拉致された経験ってあるのか?」
「…何故そんな事を聞くんです?」
「明らかに冷静だから」
さっきとかもろに寝てたし。
「……私は…一応、二度目…です。凛華先輩は?どうして冷静なんですか?」
「今日は偶々、無事に家に帰れると思ってなかったから」
「……??」
変なやつだと思われるだろう、俺もそう思ってる。絶対に変だよ俺の言ってること。
「念の為聞くんだけど、今なにか持ってるか?ポケットとかに…」
「えっと………いえ、全くなにも」
「流石にそうか」
当たり前だよな。
「…因みに前に拉致されたのっていつだ?」
「八年前です、七歳の時」
「…身代金目的で?」
「いえ。父への私怨が原因で私を徹底的に怪我して痛めつけてから殺そうとしたらしいです」
「成程…。その時は結局、そうはならなかったんだろ?」
「はい、処女です」
へーそうなんだー。覚えとこ。
「それはどうでも良い。その時にはちゃんと解決したんなら…君に対しての拉致やら誘拐に対しての対策って家ではできてるのか?」
「一応、スマホにgpsが。常に両親と家のお手伝いさんに共有されてます」
「俺も、スマホは妹に常に監視されてるから大丈夫だと思うけど…」
「…遥香に監視されてるんですか?」
「同意の上でな?」
「あぁ…ビックリした…」
…思った以上に余裕あるなこの子。
パニックになって騒がれる百倍マシだけど。
ふと、足音が聞こえてきて咄嗟に人差し指を口元に立てた。
パチッ…と部屋の照明がついた。
そうして目に入って来た光景。
俺はしばらく呆然と眺めていた。
そうして
一瞬だけ熱くなった頭の中、数秒もしない内に驚くほど簡単に冷え切った。
そして、納得できてしまった。
見慣れた顔の父親。
その隣には、どこかネジのハズレた様な恍惚とした表情の椿と、俺を拉致した体格の良い男達の姿があった。
様子のおかしい椿は置いておき、父親に目を向けることもせずに俺は膝をついたまま中川さんを背に隠すように少しだけ前に出て小声で話しかける。
「
中川さんは案外冷静な様子で、尾てい骨辺りにおいていた俺の手に少しだけ爪を立てた。
一瞬なにしてるんだろうと理解に遅れた。
…これモールス信号じゃん、なんでそんなの覚えてるんだよ中川さん…。
そういうのを覚えたくなる年頃とか時期があるのは何となく分かる。俺もそうだったから、面白い事にモールス信号は分かるんだよ。
…NOってやったのね。
了解、顔見知りはいない…と。
俺は何か知らないけど込み上げてきた笑いを堪えながら、椿と父さんを交互に見た。
失望するのはお門違いだろうか?
俺の父親はこんなやつじゃないと思うのは間違いないだろうか?
話には聞いた限りの状況や事態だけで判断すると、この人は中々のクズだった。
こういう人としての部分からハズレた行動をしたとしても別におかしくは無いのかも知れない。
母さんも離婚したし…それはもう、俺の知ったことじゃないけど。
…にしても何で椿が居たり中川さんが巻き込まれたりしてるんだろうな。
この人何を思ってここに居るのか…気にはなるが、これから話を聞きたいとはどうも思えない。
冷たい瞳で俺を顔を見つめてくる父さんの、ゆっくりと開かれた口、放たれたその言葉に俺は嫌悪感だけを覚えた。
「…父親に対してなんだその目は?」
俺は馬鹿にしたようにフッ…と鼻で笑った。
「……仕方ないだろ、その親の教育が悪いんでな」
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