第51話 きっかけ

「これは例えばの話なんですけど」

「それで本当に例え話だったら、僕帰るけど」

「……じゃあ前置きなしで、どうしたらリン先輩と仲良くなれますか?」

「…今のままで良…」

「良く無いです、シズにとられる」

「雫ちゃんかぁ…」


 正直、凛華の恋の行方とかレギュラー落ちした先輩の怪我と同じ位どうでも良いんだけどなあ。


「…参考までに聞くけど、凛華のどこが良いわけ?」

「大体全部です。寧ろ聞きますけど、金村先輩はどうしてリン先輩と友達なんですか?私が言うのも変ですけど…リン先輩ってほとんど友達とか居ませんよね」


 …ド直球だね、それ本人に言わないでよ?ああ見えて友達居ないとか言われると凛華って本気で傷つくから。


「僕も、心から友達って言えるのは凛華と美咲ちゃんくらいな物だから…その質問に答えを出すのはちょっと難しいかな」


 そもそも部活帰りに急に話しかけてきたと思ったら恋愛相談させられるの意味分かんないし、取り敢えず近場のカフェに入ったけど…ちょっと面倒くさいなこの子。


「…ならそれは良いです。どうしたらリン先輩と付き合えますか?」

「隠す気は無いんだね、美咲ちゃんから聞いてたから何となくは知ってたけど…」


 凛華と付き合う…か。

 多分僕の場合だとちょっと本気で押せば落ちる気がするんだよなあ。


 それはそうと少し真面目に考えると……どんな美少女だろうが、どれだけ性格の良い人だろうが、相手が“普通の女の子”である以上は99%無理だと思う。

 如月友梨奈は特別感のある女の子ではあるが、結構普通の乙女という感じ。


 こういう子だと凛華の場合は軽くからかったりあしらう程度で、観賞用の「可愛い」という言葉を並べる。


「あくまで僕の主観でしか無いけど、凛華が本当に好きになった女の子って昔の黒崎椿だけだと思うし……」

「…やっぱりハルと同じ事言うんですね…」


 遥香ちゃんにも聞いてたのか…。

 凛華の話では遥香ちゃんと如月さんは親友らしい。だとすると余計に無理だと思う。


「黒崎椿は誰から見ても…それこそ凛華から見ても周りとは違う特別な存在って感じだったからなあ…」


 単純な話で、凛華はきっと普通の恋はできないし普通の恋人なんて作れないんだろう。

 何かしら周囲から異様、異常だと思われる形になる。


 二人が付き合っていた当時のあまりにも異様な空気感を、如月さんは知らない。

 物凄い場違い感と違和感しか無い雰囲気に包まれる教室内で、幼馴染と恋人の中間に居るような距離感で話す二人を。


 だからまあ…如月さんには無理な話だ、根本から違いすぎるから。


 僕が知ってる黒崎椿は中学の間と高校一年感の四年間だけだが。

 友達として凛華の事を知って行ったからその気持ちは薄れたどころか消え失せていたけど、少なくとも僕としては同じ女の子に恋した戦友でもある。


 だから今の、周囲にどんな女の子が集まって来てもその気になれないという凛華の気持ちは分かる。


「何の遠慮もなく言うと、凛華と付き合いたいなら好感度とか全く関係無いと思うよ。大きなきっかけが無い限り、凛華は絶対に距離感に線引きをするから。雫ちゃんは小さい頃の凛華を知ってて、久しぶりに再会したっていうある種のきっかけから今に至ってるからね」

「……普通、無理では?」


 如月さんは怪訝な顔で視線を持ち上げた。


「まあ無理。あぁ…でも、僕の知る限りでは一人だけ、凛華の中で椿ちゃん並に距離が近い女の子は知ってるかな。そっち話聞いてみたら?」


 もしも凛華が今後誰かに恋をするとしたら、僕が予想できるのは二人しか居ない。

 一人は元彼女の妹である黒崎雫、そしてもう一人…僕が見た時はその距離感に、中学の頃の椿ちゃんと凛華に近い既視感を覚えた事があった。


「…だ、誰ですか…それ」


「…中川祢音さん。今のところその気はないだろうけど…あの子なら多分、凛華も線引き無しに心を開けると思うよ」


 二人の関係には十分に大きなきっかけがあるからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る