第121話 一歩

「わーお…リン先輩なんですかその可愛すぎる格好は?」


「友梨奈性格悪いよ、さっき事情聞いたじゃん」


「シズが彼氏寝取られたって話?」


 なんで如月はそんなに楽しそうなのかね。


 それはともかく、昼休みにこの空き教室で、後輩達と集まるのも久し振りな気がするな。

 雫と遥香の元凶二人は別の用があるとかで来ておらず、以前と比べると祢音が居ないと言う変化もあるが…。如月、木下さん、古川さん、朝比奈さんの四人は今日も仲が良い。


「そういや、千春ちゃんは元気にしてる?」


「えっ?あ、まあ最近は風邪気味ですけど…。季節柄しょうがないですね」


「そっか、木下さんも気をつけなよ。小さい子に風邪移されるって割とあるからな。また今度、クッキーでも作って遊びに行くよ」


「今の格好の先輩に言われると、本当に女の子の先輩が来そうですね」


「流石に友達の家に女装して遊びに行く趣味はねえよ」


「良いんじゃない?いっそ『凛華の姉です』とでも言ってその格好で会いに行ってみたら?」


 古川さんがそんな提案をしてきた。

 普通に考えてやるわけねえだろ。


「うちの妹そこまでバカじゃないよ…」


 木下さんってこういう時にちゃんと俺の味方してくれるから俺の中で好感度が高いんだよな。朝比奈さんとか見た目以上に喋り好きだったりして面白いメンツだよほんと。

 古川さんと木下さんが二人でわちゃわちゃと話していると、如月がさり気なく俺のそばに座った。


「リン先輩、なんか表情がスッキリしましたよね」


「…そうか?」


「はい。初めて会った時から見て来たから、分かります、先輩かなりスッキリしましたよ。本当はずっと…黒崎先輩と仲直りしたかったんですね」


「…んー…かもな…」


「ほんと、一途ですよね〜…。拘束されたとしても、蹴飛ばすなりすれば良いのに」


「残念ながら、椿ってそれが通用する相手じゃないんだよな…。腕力で勝ってても根本的な運動神経が違い過ぎる。両手使えない素人が格闘技のプロに絶対に敵わないのと一緒だ」


「…そのレベルなんですかあの人…」


「センスが違うからな」


「まあでも…。私なんとなく、ちゃんと明るい顔してるリン先輩の事は初めて見た気がしますよ」


 そんな事ないと思うんだけどな…。

 まあ如月にはそう見えたのだろう、色々とトラブルと言うか…問題は発生したけども、ここ数ヶ月と比べると気持ち的にはとても楽になったのは事実だ。


 冬司さん…いや、父さんともちゃんと話ができたし、椿とも話せた。

 白雪は、なんか良く分かんなくなって来たけど、悪い方向には向かなかったから良いとしよう。


 なんでかは知らないけど、雫と椿の関係もほんの少しだけ良くなったらしいから。

 …こればっかりは本当になんでか分からないけど、今朝家の前で仲良さげに笑い合っていたから、泊まり込みで何かを話したんだと思う。


「……もうしばらくは、何も無いといいな…」


「それはリン先輩次第でしょう、特にシズと白雪先輩のアレ…どうするんですか?」


「そっちは二人が勝手に解決するよ。椿のことも、多分雫が何とかするだろ」


「全部任せっきりにするんですか?」


「どっちかって言うと被害者側だからな、俺は」


 それよりも俺は、自分が壊した物を少しずつ修復しながら、距離を取る準備をしないいけない。こればっかりは父さんに任せっきりにする訳にも行かないから。

 彼女達がどうこうではなくて、自分のために踏み出さなきゃいけない一歩があるんだよな。

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