第120話 華やかな朝に

 窓枠に腰掛けて、珍しく教室内でスマホに目を落としている瑠衣が、小さく鼻を鳴らして笑った。


「…それ、先生に説明したの?」


「日直だからな…。職員室行ったときに適当に説明しようとしたら『また妹にイタズラされてんのか』って笑われたよ…」


「割と見慣れてる人ばっかりで良かったね」


「あんま良くねえよ…。ってか、お前さっきから何見てんの?」


「今朝送られてきた君の写真」


 今朝、というと俺が雫と遥香に無理矢理着替えさせられていた時の事だろう。

 その後も二人にやいのやいの言われた結果、三枚ほど写真撮影的な事をさせられた。

 ……絶対に拡散されるんだろうなとは思ったけどさ…。


「…なんの奴?」


「スカートたくし上げてるやつ」


 思わず机に突っ伏した。


 ふざけんなクソがよ!

 あいつら「うっわ…エッチすぎるよ」「これは広められませんね、R17ギリギリですよ」とか言ってた奴じゃねえかよ!結局拡散されんのかよ。


「これってアレだよね、文化祭の時使った…」


 一瞬、チラッとだが瑠衣は俺に画面に映った写真を見せてきた。

 着替え終わってすぐくらいに、雫が勝手に写真を撮っていたのを見て、遥香が「兄さんポーズ取って」と悪ノリしてきたのだ。


 その時に俺は「なんでもやるから女装登校は今日だけにしてくれと」頼んだ。

 妥協に妥協を重ねられた結果、一週間…つまりは五日間ではなくて三日間にしてくれた。


 その結果撮られたポーズの一つが、自分でスカートをめくってパンツを見せろという物だった。因みにしっかりと文化祭の時に使った女性物の下着まで履かされた。

 …おっさんかよお前らは…!!と思ったのは言うまでもないが………すっげえ恥ずかしかったよ。


「…これは、あれだね。僕以外の男子には広めないようにって言われるの納得だよ。皆女の子じゃ勃たなくなるね」


「お前まで下ネタ言うのは止めてくんねえかな」


「嫌な顔しながらじゃなくて、恥じらいながらってのはちょっとね…」


「感想言ってんじゃねえよぉ…」


「あ、そう?じゃあ、寧ろ感想聞かせて欲しいんだけど…」


「…は?なんのだよ?」


 瑠衣は素早く俺の傍に顔を寄せると、周囲に気を使いながらとても小さな声で耳打ちしてきた。


「…ヤり慣れてる椿ちゃんと、初めてだけど最高に良い体してる美咲ちゃんと同時にシたんでしょ?その感想聞かせてよ」


 …こいつマジで殴ってやろうか。


 特に白雪に謝れよ、お前白雪に対してそんな事思ってたのか。

 いや、思ってるのは別に良いけど口には出すなよ、寄りに寄って俺に言うんじゃねえよ。

 俺までそう思ってたと勘違いされるだろうが。


「いいだろ?どうせ僕くらいしかこんな馬鹿な話する相手居ないんだし」


「居なくて良いよそんな相手は…」


 ふと、瑠衣が急に顔を上げた。

 それに釣られるように俺も振り向くと、丁度話題の渦中にいた白雪が教室に入ってきた。


 そして俺の姿を見るなり、ふっ…と小さく笑った。


「おはよう、二人共。凛華、それスカート短くない?寒くないの?」


「…羞恥心で体温上がってたから寒くない…」


「文化祭の時と変わんないでしょ」


「何もかも違うっての…」


 一番恥ずかしいのは「祢音が着てた制服」って所だ。何がヤバいってあいつ等それを本人にまで連絡しやがった。

 もう着ないだろうから、思い出代わりにって事でコッチに置いていった物を、まさか本人もファーストキスの相手に着られてるなんて思ってないだろう。

 その理由に関してもそこそこに詳しく説明したらしいから、もう本当に死にたい。


「そう言えば、私の所にも写真来たんだけど…」


「おっ、なんの写真?」


「体操座りしてるやつ…だけど、金村君違うの?」


 あぁ…うん、撮ったわ。

 言われた時マジで意味分かんなかったんだけど…。

 ……言われた通りにやってから…冷静に考えて「椅子の上にミニスカートで体操座り」ってめっちゃヤベえなって思った。

 だからお前等はおっさんかって…。


 ってか見せ合ってんじゃねえよ!つーか遥香達はわざわざ人によって送る写真変えてるのかよ、何がしたいんだあいつ等は!


「…ねえ、美咲ちゃん」


「ん、なに?」


「……これから、どうするの?」


「どう…って…?」


「凛華のこと。雫ちゃんに何か言われたんでしょ?」


 ……ん?

 なにそれ、俺知らないんだけど…。


「…なんで金村君が知ってるの?」


「昨日のド深夜に相談されたからだね。と言っても、僕は『雫ちゃんがしたいようにすれば良い』としか言ってないけどね。だから、どうなったのかなって」


 如月と言い雫と言い、なんで何か有った時に相談する相手が瑠衣なんだか…。


 勿論、俺の身の回りに居る中では一番頼りになる相手だと言って良いのは理解している。

 俺のことも、俺の身の回りのこともよく理解しているし、なにより本人の性格が良いから頼りやすい。


 ……それは分かるんだけどさ、大抵の事が瑠衣に筒抜けになってると、からかわれるのは俺なんだよ!

 そしてそこから今度は天海さんにも、話が筒抜けになるのが怖い所だ。

 …瑠衣は案外、俺が本気で嫌がる事も面白がってやるからな。

 俺以外の相手には本当に性格の良いイケメンなのに…。


 どうなったのか…という質問を受けて、白雪は少しの間考えたあと、瑠衣に対しては微笑みとほんの一言だけを返した。


「ないしょ」


 珍しい事に、白雪のそんな仕草に見惚れた挙げ句、顔を赤くして照れる瑠衣の姿が見れた。

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