第119話 罪と罰

「………へぇ……つまり…。白雪先輩泣かせたと思ったら、翌日今度は自分が泣いてしまって…挙句の果てには白雪先輩と椿に終電ギリギリまで鳴かされたと…。そういう事ですか」


「……………兄さん…」


 ベッドに座って足を組み、呆れたようにため息を吐く雫。まるで最愛の人に裏切られたかのように椅子にへたり込む…茶番劇みたいな仕草をする遥香。


 そして…黙り込むのは床に正座をしている俺。


 その隣では普通に椅子に座ってお菓子を食べている白雪と椿が居た。


 ここは現在、雫が一人で暮らしている黒崎家のお宅だ。

 時刻は午後二十時半を過ぎた頃。


「…雫、一つ質問したい…」


「なんですか?今の凛華にそんな権利があるとでも?」


「……これ俺が悪いの…?」


 素直に疑問だったのでそう問いかけると、雫はむっと眉をひそめた。


「いや…まあ、8:2で椿と白雪先輩が悪いですよ?彼女持ちの男を逆レイプとか、訴えたら流石に凛華が勝てますからね」


「……だよな…」


 寧ろ2割は何?


「でも、世の男子高校生の95%はそうは思わない訳ですよ」


 それはそれで偏見だろ、もう少し…せめてあと10%くらいは俺と同じ意見のやつが居るはずだ。


「……ま、それは置いておき…」


 置いとくんじゃねえよ、いちばん大事な議論だろうが。


「白雪先輩はまだ良いですよ、私も色々言いましたから。そっちに関しては何も言うつもりは無いです。でも椿は別でしょう、なんでよりによって一番ダメなヤツと心も体も和解してるんですか」


「いや……。だから、片方は説明しただろ?もう片方は白雪が助けてくれなかったのが良くない」


「そもそもなんで私に何も言わないで椿に会いに行ったんですか?」


「…言ったら今度はお前が来るだろうが…」


「当たり前でしょう、ついでに連れ帰りますよ」


「そうされる訳には行かなかったから連絡しなかったんだよ」


「結果がこの有り様じゃないですか」


「その通りだよ」


「別に雫に話してたとしても、凛君が寝室に来てたらヤッてたけど?」


 椿が割り込んでそう言い放った。

 普通になんで?俺は今までお前の部屋に近寄らなかったの大正解だったってこと?


 色々と事が終わったあとには少し申し訳無さそうな表情をしていた筈の白雪も、今では椿と一緒になって「仕方無くない?」みたいな開き直ったような顔で雫特製のクッキーに目を輝かせている。


「じゃあ雫と遥香ちゃんの両方に聞くけどさぁ〜…自分の寝室に、泣いて弱り切ってる凛君が居ます。さあどうやって慰める?」


 滅多に起こんねえよそんな状況…。

 と言いたい所なのだが、場所が違うだけで似たような事は結構な回数があったから絶対に無いとは言えない。


「その状況で普通に抱き締めて声かけて慰めるって選択ができるのは白雪先輩だけだと思いますけど…」


「……私も流石に………」


 即答してんじゃねえよ…。

 今回は椿に引っ張られてしまったが、実際、そこで行動を自重してくれそうなのは白雪くらいな物だと、俺も思う。

 でも即答してんじゃねえよ。


 ふと雫が急に目を見開いた。

 何を思ったのか突然、俺の手を取って袖をまくる。


「……何時間捕まってたんですか…」


 手首より少し下の辺り、ずっと手錠をかけられていたせいか少し痣が残っていた。どうにかして逃げようとした結果だが、結局逃げられませんでしたとさ。

 自分がフリーなのであれば、仕方ないな、別に良いか…って受け入れられる相手と状況ではあったが…流石に雫が居るのに大人しく受け入れました…は、俺の精神的に良くない。


 それはそうと、俺はまず何時頃に椿と出会ったのか、どれくらい気絶してたのかも分かってないし、なにより…。


「俺ずっと目隠しされてたから分かんないけど」


「「はあ!?」」


 雫と遥香が一斉に椿に目を向けた。


「拘束した挙げ句目隠しとか何考えてるんですか!?」


「人の兄さん性処理道具に使うとか何考えてんの!?」


 本当に止めてくれよ、居た堪れない。


「仕方無いじゃん、美咲ちゃんが見られるの恥ずかしいって脱ぐの渋るんだもん。二回も一緒にお風呂入ったくせに…」


「それは…!凛華がこっち見ない様にしてたのわかってるし…。ってそもそもカーテンも閉めずに明るい部屋で始めようとする方が問題でしょ!」


「は〜…これだから中途半端に初体験に夢見てる女共は…」


 どうしよう、すっげえ帰りたい。こんな話聞いていたくないんだけど…でも当事者だから帰りづれえし…。


「とか言いつつ、椿だってどうせ目隠ししてる凛華の事見て盛大に興奮してたんですよね」


「当たり前じゃん、目の前にあんなエッチな幼馴染みがいて我慢しろはもはや拷問でしょ」


 寧ろ拷問みたいなことされてたのは俺なんだよ。

 途中から「耳も塞ごっかな」とか言ってたの聞こえてんだからな。


「兄さんの性癖歪んだらどうしてくれるの?」


「ゼロが一になったって事じゃん、良かったね」


 まるで俺に性癖が無いみたいな言い方するのは止めてくんねえかな…。思い付かないけど何かはあるだろ、多分。


 と言うかもう、帰らせて欲しいし帰って欲しいんだけど…。

 あ、いや…椿は雫の家に泊まってくのか。

 白雪の事は送って行かないとだよな…。


「……あのさ…雫」


「なんですか」


「………いつまで手首掴んでんの…?あと、俺は許してもらえるの?」


 雫は少し手首の痣を指てなでたあと…パッと手を離してため息を吐いた。


「……まあ、色々あって仕方無い部分もあったとは思いますけど…。なんとなく気に入らないから妥協案で…。遥香、何か良い罰とかありますか?」


 あぁ…罰は受けなきゃいけないだ…。

 何の罪があってだよ…。


「女装」


「嫌だよ!なんで寄りによって無理矢理された事への罰が女装なんだよ!」


「ほら、嫌がってるし効果てきめんでしょ」


「…らしいですね……。じゃあ…あ、そうだ。確か、遥香って…祢音からアレ預かってますよね」


 …祢音?アレ?

 遥香もいぶかしげな表情をしたあと…あっ、と何かを思い出した。

 そして、珍しく楽しそうに笑みを浮かべた。


「祢音の制服?」


「そうです。明日から一週間、それ着て登校しますか」


 ……………えっ…?

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