エピソード5 モノクロームな憂い
「…ねえ、良いでしょ?」
そう言って迫る白髪の美少女は、女の子みたいな顔立ちをした少年の前髪をそっと撫でてからズボンに手をかけた。
「ダメだって…」
「……なにをしてんの、君たち?」
「「うわぁっ!?」…って、瑠衣かよ…びっくりしたぁ…」
「私も居る…。で、なにやってんの?」
若干引き攣った笑みを浮かべて、遥香は二人問い詰める。
ここは凛華の寝室。
娯楽の類が全くと言って良いくらいにない、面白みにかけらもない病室みたいな部屋だが、どことなく甘い匂いが漂っている。
僕は凛華の妹である遥香に連れられて、クリスマスケーキの材料を買いに行っていた。
遥香達は元々クラス内で集まりをやろうとしていたそうだが、なにやら騒ぎがあったらしくそれが中止になったとか。
僕達は僕達で、温泉にでも行こうという話をしていたのだが、これまた白雪美咲と僕の彼女の天海葉月が参加できなくなった。
結局、集まれそうなのは僕と凛華、遥香、雫の四人と、篠原さん家の双子ちゃんだけだった。
特にお菓子つくりが得意な雫と凛華には、キッチンで出来そうな準備だけしてもらって、双子ちゃんが来たら作り始めようとしていた。
キッチンの方は準備出来ていたが肝心の二人が居なかったので部屋に来てみたら、雫が凛華のズボンを脱がせようとする寸前であった。
「…なにって…見れば分かりますよね、凛華にこれを着せようとしてたんです」
白と黒を基調としたフリフリの可愛らしいゴスロリメイド服を片手に、自慢気な表情の雫は堂々とそう宣言した。
呆れるようにため息を吐いた凛華は、脱がされる寸前だったズボンを直してからメイド服を指さした。
「まずお前、何処から持って来たんだよそれ!」
「服を通販で買おうとしていたら、偶然凛華に似合いそうなメイド服があったから思わず購入したんです、結構高かったんですから着てください」
「俺に似合いそうなメイド服の意味が分かんねえし、その服装でケーキ作らせようとするのもなんか嫌だし、なにより乃愛と雛の前でそんな格好したくない!」
「…兄さん、早く着なよ。もう二人来るから」
「……えっ、『早く着なよ』って何!?着ないって選択肢がないの?」
「ないよ」
「ありません」
「…まあ、着たら良いんじゃない?似合うでしょ」
本気で言ってんのかこいつら…という表情を隠すこともせずに愕然とする凛華、彼の服を勝手に脱がせ始める遥香と雫。
傍から見ているとこれからやましいことが始まりそうにしか見えないので、僕は一度リビングに戻った。
すると、遥香の母親である千隼さんがゆったりとコーヒーを飲みながらノートパソコンを眺めていた。
さっきまでは居なかったことから、今来たばかりなのだろう。
「あら、来てたの。凛華は?」
「遥香ちゃんと雫ちゃんに脱がされて、また女装させられてますよ」
「私も似合うとは思うわよ?でも、強要しすぎるのもねぇ…」
「凛華は大人しく着たほうが良いと思うんですよね、どうせ口でも力尽くでも負けるんだから」
「いつも凛華の意思は無視なのよね…」
「あの二人も嫌われたくは無いだろうから、凛華が本気で嫌がることはしませんよ」
言いながら振り返り、部屋から戻って来た凛華達を見る。
ホクホク顔の雫と遥香、瞳が死んでる凛華。
凛華はゴスロリメイド服をバッチリと着せられている。
フリフリとした丈の短いスカートや黒のニーハイソックス、リボンの付いたヘッドドレス。
若干地雷系に仕立て上げられたメイク。
………正直、想像以上に可愛いよね。
SNSに写真なんかを投稿していたら絶対にフォローする。
「……そうかしら…?」
千隼さんは「かなり嫌がってるんじゃ…?」と疑問符を浮かべているが、確かにその通りだ。
ここまでされたら流石の凛華でも何か言うはずだ。言わないということは、実力行使されたのだろう…遥香に喧嘩では敵わないだろうし。
「猫耳カチューシャにしなかっただけ良いじゃないですか」
「……ちょっと待てそんなのもあったのか…?」
「一応、今からでも取ってこれますけど…?」
「いらねえよ!!」
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