エピソード6 足が止まるのは君の心

「…あの、遥香…さん?あんまり、お兄ちゃんに悪ふざけ押し付けすぎるのは…」


「…似合わない?」


「に、似合うとは思いますけど…!」


「…乃愛、いい?兄さんは寛容だからこれくらいの悪ふざけは笑って見逃してくれる」


 遥香はそんな適当なことを乃愛に話している。一方雫はもう気持ちを切り替えた様で、双子の片割れである雛と二人で凛華の説明を聞きながらケーキ作りに励んでいる。


「……ま、まあ…。確かに、案外馴染んでる……?」


「凛華は、スカートには慣れてるからね」


「ほっとけ!」


「文化祭では羨ましい役やってたね、瑠衣君…」


「それもう忘れろよ遥香、いつまでも言われるあいつの身にもなれって…」


「えっ、いい経験だったよ?」


「お前はちょっとでも良いから俺に有利な言葉を出せよ、そろそろ親友辞めんぞ!」


「それやるとダメージ大きいのって、友達少ない凛華の方だよね」


 手を動かしながらも口ではキッチリとこっちに突っ込みを入れてくれる凛華は愉快だな。

 少し前にはこんなやり取りをする余裕すら無かった訳だから。


「雛、ペティナイフ置きっぱなしですよ。気を付けて下さい」


「あ、うん。ありがとう雫お姉ちゃん」


 かなり大人びた双子姉妹ではあるが、その中でも乃愛と比べて雛はかなり大人しい。

 そんな性格もあってか、凛華が関わらなければ大人しい性格をしている雫とは相性が良いようだ。


「それで凛華が怪我して私が治療に回るイベントがあれば良いんですけどね」


「それ、怪我するの雛だよ」


「そうなるんですよね、この家だと…。それはそうと、遥香も私のことをお姉ちゃんって呼んで良いんですよ」


「……雫、それどういう意味?」


「そのままです」


 ………え、そんな急に煽る?喧嘩するの?


「…最近気付いたけど、お兄ちゃんって凄くモテるんですね…。前に学校に迎えに来てくれた時も、なんか…凄く話題になってました」


 乃愛が僕の隣に座って、そんな事を呟いた。


「一応、普通にしてたら、大人しいから案外目立たないんだけどね」


「…瑠衣さんと居たらそれは…大体の人がそうですよね」


「僕はまた別枠だよ。凜華みたいに執着されるタイプじゃないからね。凜華は…なんだろ、沼って言うのかな」


「それは…なんとなくわかります。一緒に居ると、もっとずっと一緒に居たくなるというか…」


「ま、それは僕も同意かな」


 凜華は関われば関わるほど惹きつけられる不思議な魅力がある。

 敢えていうなら、凄く危なっかしい。自分が近くに居ないと、見ておかないと二度と目の前に現れなくなるんじゃないかと錯覚するような、言葉通りの危なかっしい性格をしている。


「君とか雛ちゃんみたいに美人な子のお兄さんだからね…表に顔出したら、そりゃ話題になるよ。大人しいって、逆を言えばクールな美男子だからね……。あれで、結構色々考えてるし、君達のために色々苦労してるから、気にかけてあげなよ」


「……瑠衣さんも、さり気なくそういう事…」


「僕は意識的に言ってるけど、凛華は無意識に言うよね」


「…意識的に言ってるんですか?」


「凛華と関わりある子は勘違いしないから、思ったことをそのまま言っても良いんだよね。僕が普通に関わり少ない女の子と話してるときに可愛いなって思ったとして、それをそのまま口に出すと色々と勘違いを生むからさ」


 凛華と関わる前には、思った事が無意識の内に口から溢れる癖があった。

 実際、それで凛華とケンカになった訳で…そのケンカがなかったら凛華と仲良くなることもなかった。そう思うと、一概に悪いとも言い切れないのかも知れない。


「…瑠衣さんも、なんか苦労してるんですね」


「君と雛ちゃんも、そのうち苦労すると思うよ」


「そうなんですか?」


「美人なのはさておき、凛華の妹だからね…。そのくらいは覚悟しておきなよ。あと、ブラコン拗らせ過ぎないようにね」


「…あたしは大丈夫です。雛は……ちょっと怪しいけど」


 確かに、こうしてキッチンを見ると、雛と凛華の距離感はかなり近い。

 彼女の凛華を見る視線も、若干怪しい気はする。


「……いや、若干じゃないかも…」






☆あとがき


アフター3、金村瑠衣視点の話はおしまいです。


次章からは本編(凛華の視点)に戻ります。

つまり第五章になります。

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