第五章 君は凛と、華やかに
第101話 静かな時間
「…雫、良かったのか?」
「なんのこと?」
「初詣、行かなくて…。一年、お前以外揃って行ったんだろ?俺は昨日の夜いつもの三人で行ったけど…」
ソファに横になり、俺の太ももに頭を置いてウトウトしていた雫。
正月早々、実家に帰ることもせず寝正月を過ごす彼女は冬休みが始まってから雫の家にいることが多い俺に、今日もべったりと張り付いている。
「今年する予定だったお願いは、去年の内に叶っちゃったから。今年もなにか…っていうのは贅沢じゃない?」
「…あ、そう…」
体を起こしても、やっぱり肩を寄せてピッタリとくっついたまま。これが夏場だったら流石に突き放すところだ。
「二人でいる時の雫って、猫みたいだよな」
「かわいいってこと…」
「それなら猫なんて例え出さねえよ。気まぐれで、他に人が居ると寄ってこないのに二人になるとペタペタ張り付いてくるところだよ」
「嫌?」
「別に、嫌とは言ってないだろ…」
不意に顔を近付けて来た雫にフレンチキスをする。少し眉を上げて目を丸くした彼女に、俺はいたずら成功と言わんばかりに笑いかけた。
「そうやってくっついてくると、俺もちょっと行動を考えるってだけ」
「……凛華って…こんなことするタイプだった…?」
「んー?思わせぶりな事をしても本気にし過ぎない、祢音とかには割といたずらとかもしてたかな」
「割と、ね…。私は本気にするけど」
「本気にしてくれて結構。君にまで見離されたら本格的に人間不信になる」
「それはそれで見てみたい…」
「なんだその、嗜虐心…?マジで止めてくれよ?俺そうなったら白雪に泣きつくぞ?」
「…二回目なら話しやすいね」
……なんで一回目があることを知ってるんだろうな。
口には出さず疑問だけ胸に抱いたまま、雫の白い頬に再度口付けをした。
「勝手に近づいて勝手に離れんのは本当にやめてくれ」
「離れないから、安心して」
「……本当だな?一応、本気で将来のことも考えてくれよ。具体的には、大学出たあとのこととかさ」
「学生婚は嫌ですか」
口調が変わったのは、何かの照れ隠しだろうか。
「……もしそうするとして、その上で考えなきゃ行けないことは多いだろって話だよ。だから、あんまり俺の心を揺さぶってると、俺が明後日の方向に行くぞ」
「将来的に結婚するってことについては、何も言わないんですね。そういうことなら、今日のところは素直に甘えるだけにしておきます」
嬉しそうな表情を隠すこともせずに、身を寄せてくる彼女はスマホで学生婚に関して検索しているようだった。
なんとも気が早いと思う反面、どうにかして俺の身を固めておきたいんだろうなと容易に想像がつく。
雫の話によると、俺が雫と一緒になることについては小夜さんはあまり気にした様子はないらしい。
そうなるとやっぱり不安が残るのは雫の姉、俺の幼馴染のこと。
彼女は今のところ、実家でかなり大人しくしている様だが、雫と白雪の監視があるので大々的に俺の所に来るようなことはしないだろうとの話だ。
それでも、やっぱり雫にとっては不安が残るんだろう。
表向き、俺が雫の部屋に居ることが多い理由は「白雪が後輩達に懐かれ始めたこと」と「瑠衣が彼女に夢中になってきたこと」、それと「遥香が妹たちにかなり懐かれていること」ついでに「如月が遥香に熱視線を向けていること」なんかがある。
要するに、俺が雫と二人でハブられてる状況が割と自然になりつつあるということだ。
雫にとってはこれ以上ない程に好都合だろう。俺としても遥香が篠原家と仲良くしてくれてるお陰で、精神的な苦労が激減した。
…まあ、遥香にそんなつもりが無さそうなのが、これまた珍しい状況ではあるんだけどさ。
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