アフター3 過去の誤ち友情の形

エピソード1 ボレーシュートとサッカーボールキック 前編

「決めろ!!!」


 グラウンドに響き渡る大きな声と共に仲間から送られてきたパスをダイレクトにゴールへ決める。


「…やっと入っ…」


「よっしゃー!!」


「キャアアァ〜!!瑠衣君!!!」


「王子〜!」


 しばらく続いた歓声に仲間の声をかき消されながらも足は止めずに、五分と経たない内に試合終了の合図が鳴った。


 群がって来る仲間達に辛うじて笑みは向けたものの、それ以上に監督への殺意しか沸かなかった。


 いくら他にマトモにシュート決められるメンバーが居ないからって、人の事を酷使し過ぎなんだよあのハゲ野郎。


 こっちは最近スランプ気味で苛ついてるってのに。


 そんな本音はさておいて、僕はグラウンドの外。観客席の方に軽く手を振った。

 僕としては、今日は姉と母の二人が応援に来てるからその席の辺りに手を振っただけなのだが、その周辺に集まっていた色んな高校の女子生徒達が黄色い歓声を上げ始めた。


「……うるさ…」


「そういう事ばっかしてるから徹底マーク食らうんじゃねえの?」


 つまらんと言わんばかりにグラウンドを去って行く仲間達とこちらを睨む相手チームの人達を交互に見てから、一人ため息を吐いた。


 …僕がマークされるのは皆が下手なだけなんだけど。口に出したらどうなるか、予想する限り面倒なのでさっさと現地解散の用意をした。


 家に帰ってからは、姉や両親に褒められ撫でられなんやかんや。

 疲れた体を余計に疲れさせるのは本当に勘弁してほしくて、お風呂から上がったらさっさとベッドに飛び込んで泥のように眠った。




 その翌朝、登校してすぐに見かけたのは校内でよく話を聞くカップルの姿。


 恋人同士と言うには、まるで友達の様な距離感で笑い合うその姿に違和感を覚えながらも、その直ぐ側を通って下駄箱に向かう。


「あ、瑠衣君おっはよ〜」


 カップルの片割れが話しかけて来ると、男の方はこちらに見向きもしないで下駄箱を去った。


「おはよう椿ちゃん。彼氏さん放っといていいの?」


「凛華なら先に出てった妹ちゃんがお弁当忘れたから届けに行くって」


「…あんなのの何が良いの?」


「全部…って言いたい所だけど、割と欠点多いんだよね〜。喧嘩っ早いところとか、嘘つけない所とか」


 喧嘩っ早いのは知っている。狂犬みたいに扱われている姿をよく目にするし噂されている。

 それはともかく。


「…嘘つけないのって欠点なの?」


「私は嘘つくのが悪いとは思わないし。虚言癖は良くないと思うけどね、限度ってあるじゃん」


 彼女の教室へ向かう足取りは軽く、ただ廊下を歩いているだけでも画になるようだ。僕は体が重いから、彼女より半歩後ろを歩く。


「でも嘘って、『自分を守る嘘』と『他人を守る嘘』があるの。どちらにせよ、結果として他の誰かを傷付けたり、後々自分を追い込んだりするだけで、その為の嘘ってあんまり無いんだよね」


「…人を騙すための言葉じゃなくて?」


「嘘じゃ人は騙せないよ、ちゃんと本当だって信じ込ませないと。嘘はただの手段、自分を正当化する守る為のね」


 どこか曖昧な、一方で核心をついている様な不思議な言い方をする彼女は、一つ向かいの教室を見ながら呟いた。


「…嘘つけないって結構大変なんだよ?すぐ自分のことを追い込むから」


「……そんな奴には見えなかったけど」


「凛華はかなりのだからさ〜。私にもわっかんないんだよね〜…。でも偶にボロを出すからそういう時、私が支えてあげるんだよ」


「君が居ないとダメな時点でどうかと思うね」


「誰も彼も、君みたいに一人で抱え込める程強くないんだよ」


「……僕が何か抱え込んでるって?」


「気持ちは分かるよ、興味の無いものに囲まれてもため息しか出て来ないよね。だからそういう時、嘘を使って自分を守るんだよ」


 …彼女の言うように、興味の無いものに振り回されて疲れることは多い。


「…じゃあ、君も嘘付いてるんだ?」


「私?どうだろ、嘘はついてないと思うけど……」


 その興味の無いものの筆頭が「恋愛」と「女の子」何だけど…。


「…ヒミツは、抱えてるかもね」


 ……彼女にだけは以前から惹かれていた。

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