エピソード6 如月友梨奈は患う 前編
「…明日から12月…」
昼休み。いつもなら皆、空き教室に集まるところだが…。今は唯と小春のクラスがインフルエンザで学級閉鎖しており、昼食は教室及び食堂から出ないように…と全学年で言われているので集まれない。
「…クリスマス…か」
呟くと、隣の席で遥香が反応した。
「クリスマスに、クラスの皆で集まるんだって。今のうちに色々話してるよ」
そう言ってる彼女の声色はどんよりとしている。
理由は単純で、彼女も大好きな兄がインフルエンザで寝込んでいるからだ。
今週、彼女は嫌だ嫌だと言いながら篠原家から登下校をしている。
「……なんでもう来月の月末の話してんのかな」
「いいでしょ、皆期末テストの事は考えたくないんだって」
「…クリスマスは凛君とお母さんと3人で過ごすつもりだったのに…」
「ハル、その呼び方恥ずかしいから止めてって言われてなかった?」
「…何回も言われた」
遥香は大きなため息と共に立ち上がり、お弁当を片付ける。
その姿を横目に、私も何となく好きな人の姿を思い浮かべた。
「大人しく『兄さん』って呼べば良いじゃないですか。そうしてる内が一番愛されてるんですから」
「……シズも『凛華兄さん』って呼ぶのはちょっと…って言われてたね」
「双子ちゃんの前でそう呼んだら、『そろそろ止めてくれ』って若干怒られましたから、頃合いですね」
そう言う雫の表情は言葉とは裏腹に柔らかかった。
「…シズは最近ずっと機嫌いいね」
「遥香と違って、普通に構ってもらえてますから。余計な事せずに妹やってれば良かったのに。そろそろ本格的に愛想つかされますよ」
「ハルはハルで、双子ちゃんに居場所を献上しちゃったからね〜。リン先輩は気にしないだろうけど。でも篠原さんの方には絡みづらいんだって…」
「あぁ…それは、アッチもですね」
雫は言いながら教卓の方に視線を移す。釣られるように私もそっちを見た。
教卓に寄り掛かって別のクラスメイトに「彼氏と居る所を見た」と噂されて囲まれている穂香が居た。
「そろそろ…穂香にも絡みづらくなりますね」
「まあ、リン先輩のアドバイスのお陰で見事に告白成功しちゃったもんね…」
穂香が彼氏と居た、というのは間違いでもなんでも無くて、親の再婚相手が連れて来た義兄と本当に付き合い始めた。
具体的なアドバイスの話は「ちょっとプライベートだから、聞くなら本人からにしてくれ」と言われているので、まだ聞けてない。
それはともかく、お家デートが何とかって話をしているのをチラッと聞いた記憶もある。
「…ここで『私も彼氏欲しいなぁ…』とか言ったらハルはどんな反応するかな」
「さあ、なんとも。本人どこか行っちゃったし」
「……私もリン先輩は諦めるしかないかなぁ…」
「当人に気持ちを知られてはいますけど、実際告白したりした訳じゃありませんよね。それでいいんですか?」
「うーん……。瑠衣先輩にも『凛華のことは諦めなよ、流石に無理』って言われてるしな〜…うぅ〜…」
実際のところ、どうなんだろう。結局彼の本命は祢音か椿のどちらか…という所に落ち着いたという事で合っているのか。
誰に聞いても答えは出ないので、私は再度ため息を吐いた。
ふと、遥香が隣の席に戻って来た。
「…遥香、どこ行ってたの?」
「兄さんから電話。お母さんが遅くなるから帰りに色々買って来て欲しいものあるって」
「あぁ、手伝おっか?」
「ユリは良い、病気移すと悪いから。雫は手伝って」
「そうですか、私には移しても良いと」
「雫は家近いでしょ。玄関までで良いから」
「分かりました、そう言うことなら」
二人のやり取りを苦笑いしながら聞いていると、不意に穂香と目が合った。
でもなにか言うことはせずに、寧ろ若干不自然に目を逸らして他の子との会話を続けた。
「……私なにかしたっけ」
呟いた時、どこからか聞こえてきた話し声の中に「東雲先輩しばらく休みかぁ…」という嘆きの様な台詞を耳にして、思わず教室を見回した。
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