第47話 ブラコンじゃん

「へえ、あの子今実家帰ってるんだ」

「高校入ってすぐに転校して、苦労顧みずに一人暮らしやってるわけだし、偶には雫にも帰って来て欲しいんだろ」

「変な影響受けて来ないと良いけど…」

「何だかんだ姉妹なんだし、そこは大丈夫じゃないか?」

「……それより、珍しいね。東雲君が二人で勉強したいとか言うの。学期始めのテストが厳しい訳でもないのに」

「マジで気まぐれだ。家で課題捗らないから頭良い奴に頼っただけ」


 馴染の公民図書館の一角で、白雪と二人。

 ちらほらと一般の人やスタッフを見かける程度で人は少ない。


「ほぼ毎日学校で会ってるから、私服って結構新鮮に感じるな」

「着太りして見えるって?」

「……俺はそれ言ってねえし、まあまあ根に持ってるんだな…」

「ノンデリカシーも良いところ、あんなだから未だに彼女いないんだよ」

「彼女は作ってないだけでいくらでもできるだろアイツは…」


 告白されても全部断ってるらしい、何故か俺の名前を出して。

 あれマジで意味不明なんだけど。


 俺の知る限りでは五回くらい。


「…まあそんなのはどうでも良くて。私も少し東雲君に話したいことあって」

「ん、なんだよ?」

「私の兄の話なんだけど…」

「あぁ、椿と浮気してた人」

「そうなんだけど、そう言われると自分の兄として恥だからやめて」

「恥とまで言うか…」

「その恥が、知らない女の人の家に入ってったのを見つけて…」


 …どっかで既視感のある話を聞いた気がする、なんて…気のせいだろうか?


「…白雪の事だし写真かなんかあるだろ?」

「あるけど…顔見てわかる?」


 言いながら彼女が見せてくれた写真に写る女性にはどこか見覚えがあった。


「……誰だっけな…」

「見覚えあるの?」

「美人な人はだいたい覚えてるんだけど…」

「…どこで見た人?」

「んー………」


 頑張って記憶を掘り返して、じっくりと考えていくと…ふと答えが出てきた。


「椿と一緒にいたところを見た…かも」

「……私の予想でしか無いけど、この人多分大学生だし」

「…あ、思い出した。朝比奈さんのお姉さんが男癖悪いとかって聞いたんだよ。多分その人の家じゃないか?」

「なにそれ…どういう話?」

「えっと確か…」


 俺は朝比奈さんから暇つぶしとしてされた愚痴を覚えてる限りで白雪に説明した。


「……その人…かなぁ…」

「まあ、なんだ。案外気が合って付き合い出したりするかも知れないぞ?」

「…私、あんまり兄の事好きじゃないんだけど…どうしたら、東雲君のところみたいに兄妹仲くなれるかな」

「……今ちょっとだけひび入りそうだけどな」

「嘘?」


 本当。気にしてるのは俺が一方的な気はするが…それでも少しだけ、これが妹に対しての感情なのか?という違和感がある。


「なあ、白雪…仮に白雪がそのお兄さんに風呂上がりの裸見られたらどう思う?」

「…この年になってそれは…ちょっと絶交考える」

「そこまでかよ…」

「さっきも言ったけど、あまりあの人のこと好きじゃないし…。てか、何?東雲君まさか…」

「……偶然だけどな」

「…私が言うのも変な感じだけど、東雲君は気にしなくて良いんじゃない?」


 中々無責任な事を言われてる気がするが、それは白雪が俺と遥香の信頼関係をある程度知っているからだろう。

 それでも、彼女の表情は少しだけ複雑だった。


「こう…何ていうか、あの子ってああ見えてかなりのブラコンでしょ?」

「いや、遥香はブラコンではねえよ」

「何でそこは頑なに否定するわけ?」

「いやまるで事実だと言わんばかりの態度で言うから…」

「事実でしょ?あの子絶対東雲君の貞操狙ってるから」

「何を根拠にそんな事言ってるんだよ…」


 白雪は至極真面目な顔でそんな事を言っている。


「なら聞くけど、遥香ちゃんは裸を東雲君に見られた時…どんな反応した?」

「ちょっとだけ驚いて、後はとくに何も反応なかったけど」

「…因みにどこまで見たわけ?」

「……何処までって?」


 そんな事を聞くんじゃねえよ、色々思い出しちゃったじゃんかよ。


「流石にタオルで隠してたりしたでしょ?」

「……いや全く。生まれたままの姿、そのままに見てしまったけど…」

「…それで反応無しっていくら仲の良い兄妹でもおかしいでしょ…多少なりとも怒るか恥じるか、せめて隠すかするってば」

「俺もそう思うけど、凄え普通だったぞ」


 セクハラ気味の軽口に平然と返せるくらいには普通だった。


「…ブラコンじゃん」

「違うってば…」


 …多分。

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