浮気してる筈の彼女が強気すぎる件について〜彼女の浮気について相談してたら後輩女子に懐かれた〜

雨夜いくら

第一章 椿の花が落ちる時

第1話 浮気現場

 俺、東雲凛華しののめりんかには幼馴染みの黒崎椿くろさきつばきが居る。


 彼女はとても聡明で、クラス内に限らず校内全体で人気のある美少女だ。

 文句の付け所のない完璧超人の様な存在で、俺はそんな彼女をとても誇らしいと思っていた。


 それに、俺は椿と恋人関係にあった。

 とは言っても深い理由やキッカケは無く、小さい頃からそうなると決まっていたかの様に…いつの間にか「私達付き合ってるよね?」という一言だけで、そういう関係だったと知ったのだが。


 …釣り合わないのは分かりきってたくせにな。



 放課後、彼女である椿が、なにやら先輩らしき人と屋上でキスしている現場を発見した。

 二年に進級してかはおおよそ一ヶ月が経過した、GW直前のことだった。


 何となく、最近の彼女の雰囲気から…そんか予感はあった。

 それが確信に変わっただけ。


 頭でそう思っても、分かっていても。

 悲しい物は悲しいし、辛いものは辛い。


 俺は屋上に呼び出して来たクラスメイトに、場所を変えるように連絡してから──自分でも名残惜しかったのかは分からない。

 何となくチラッと屋上を確認すると…男の手が椿のスカートの中に入っていくのが見えた。


「…っ…!」


 俺は逃げる様にその場を離れた。



 ◇◇◇



「…ウチの高校なんで緑茶無いんだろ…」

「分かる、けど今はその話じゃないよね?」

「っと、ごめん。ホームルーム長引いたんだ」

「いいよ俺達も今来たから」


 今度こそ俺含めて三人が集まったのは謎の秘密基地感あふれる、誰もいない図書室。


 一人は白雪美咲、クラスメイトの女の子で中学からの付き合い。

 栗毛のポニーテールと赤縁眼鏡。

 あらゆる方面の男女から、主に外見的な人気のある、ポニテの巨乳眼鏡っ娘という属性もりの美少女。


 本人はインドア派で積極的に外に出るタイプでは無いし、突然バッと見せてきたスマホの画面も室内の物。


 もう一人はホームルームを理由に遅れてきた、当然のように金髪を揺らすイケメンこと金村瑠衣。こちらも中学からの付き合いで、咎められない辺り緩い校則をいかんなく発揮している。


 そんな二人と、白雪が見せてきたスマホに視線を落とした。


「取り敢えず、これ見て」


 写っていたのは黒崎椿と…白雪美咲の兄。


 どうやら彼女の自宅の様子。

 恐らくは白雪兄の部屋、ベッドの上。当然のように裸体で体を重ねる椿と白雪兄が居る。


 それを理解した瞬間、緑茶の代わりに買ってきた麦茶を思いっ切り吹き出した。


「ブフォッ…げふぉっ!?…ゲホッゲホッ…!」

「ちょっ!?大丈…な訳ないか、ちょっ、雑巾雑巾…」


 衝撃写真を見せられてしばらく取り乱したが、少し落ち着いてから確認しなきゃ行けないことを聞いていく。


「…なあ白雪、これいつ撮った?」

「…先週、日曜日。信じられないかもしれないけど…」

「三股してんのかあいつ…一気に怖くなって来たんだけど……」

「…えっと…?どう言う事だい?」


 それから二人に、ついさっき見た光景を懇切丁寧に説明していった。

 顔色が悪くなる二人と、言ってて悲しくなってくる俺。


 白雪の兄は、大学生だ。

 この学校には居ない…つまり

 三股している…という事になるのだろう。


「えっと…それなんだけどさ、僕も一枚見つけちゃってるんだよね…」


 瑠衣がそう言って白雪と同様に写真を見せてきた。


 高校からは程遠いホテル街、年齢にそぐわないラブホテルへ向かうのは当然黒崎椿……と、とあるクラスメイト。


 俺は思わず呟いた。


「ヤバい…ちょっと面白い…。放置したら何人まで増えるんだろ」

「…そんな事言ってる場合?絶対別れるべきでしょ!」


 馬鹿言ってないで、とポニテを揺らす白雪に苦笑しつつ俺もスマホを取り出した。


「まあ…そうだな。…いま連絡したらどうなるかな…」


 何かする前に連絡が来た。


『ゴメンなんだけど、ちょっとだけ用事あるから先帰って』

『分かった、俺は白雪と帰るよ』

『白雪さんはだめ。最近仲良いでしょ、良くないよそういうの』


「だってさ、どう思う?」


 二人に聴くと、呆れた声が返ってきた。


「…どうって言われても…どの口が言うんだろう、としか…」

「知られたくない…とは思ってるみたいだね」

「んーどうしよう…な?」


 俺は取り敢えず返信を始めた。


『瑠衣も居るし、白雪とはそんなじゃないって』

『本当?絶対に違うんだよね?私浮気とか絶対に許さないよ?』

『大丈夫だってば』


「…なんだか、様子が変…じゃない?」

「確かに変だな。さっき見た様子と合わなすぎる」

「凛華だけは『彼氏』ってことじゃないですかな?女の子の心理なんて、僕には分からないけど」

「……なんか、言ってることというか、言いたいことは分かるけど…。理解はできないな」

「返信も早いし、早ろ…「おいバカ辞めろ」」

「………」

「…ごめん、ふざけ過ぎた」


 一度咳払いをしてから取り敢えず一言。


「…ともかく、俺は一旦椿とは距離を置きたい」

「「だろうね」」


 二人は声を揃えて当然だろうと言うように頷いた。

 しかし今のやり取りの状況からして、彼女がそれを許してくれるとも思えない。


「でもどうする?割りと付き合いの長い美咲ちゃんですら浮気扱いされるとなると…」

「椿と白雪って割と仲良かったよな?」

「他の子が間に入ってればね」

「二人だと仲悪いの?」

「仲悪いというか…ちょっと嫌われてるって節はあったかな…」

「てことは、凛華の関連かな」

「……分かんないもんだな…」


 ため息をつこうとした瞬間、ガラッ!っと勢い良く図書室のドアが開いた。

 三人でビクッと体を震わせて部屋の入り口へと視線を向けた。


「…あ、えっと…?用事終わったのか?」


 図書室に入って来たのは黒崎椿。

 急いできたのか事後だからなのかは分からないが、少し息を切らしてこっちに歩いて来た。


「凛くんが…帰って無かったから来たんだよ」

「……ちょっ、凛華、なんでバレてるの?」


 小声で聞いて来た瑠衣、俺は小さくスマホを指さした。

 GPSで居場所は常に把握されている。

 それを察したのか瑠衣は一瞬だけ苦虫を噛み潰したように眉をしかめた。


「そういや椿、用事って何だったんだ?」


 平静を装って質問すると、椿は普通に答えた。


「先輩に呼ばれてちょっと話してただけだよ」

「先輩って?」

「バスケ部の人、名前言っても分かんないでしょ?」

「確かに」


 名前を言われても相手の顔を見てないから分からないし、名前と顔が一致するのかも分からない。


「まあ良いか…。瑠衣達も、帰ろう」


 特に意識せずにそういったのだが、椿から袖を引っ張られた。


「…二人で帰ろうよ…」

「……」


 …駄目だ、マジで女の考えてることは分からん…。

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