第33話 ブルースカイ
夏休み初日。
高々と蹴り上げられたサッカーボールを視線で追って、手で太陽を隠しながら見上げる。
「…あっつ…」
グラウンドと隣接してある、芝生のフィールドは仕切りすら無くすぐ目の前。
瑠衣がゴールを決めると、応援に来ている女子サッカー部から黄色い歓声が響き渡る。
真剣な顔してる時は、男でも惚れるだろうなってくらい本当に格好いいと思う。
いつもこうなら俺も何も言わないんだけどな。
高校のサッカーグラウンドで行われている練習試合。
別にわざわざこれを見に来たわけでは無い。
他に用事があったら来ただけで、そう言えばこんなのあったなと思って用事よりも一足先に来て見ていただけだ。
待ち合わせまでまだあるし、もう少し見てるか。
そう思って芝生に座りなおすと…。
「んっ!?」
「あっ…」
突然頬に冷たい感覚が走って自分の体を後ろに倒した。
仰向けに倒れたので青空を見上げた筈なのに、目の前には少し汗ばんだ艶めかしい
ミニスカートを真下から覗いたような光景だ。
……あ、いやこれ…まさにミニスカートを真下から覗いてるのか…。
…顔を蹴られても仕方無い所業だな。
覚悟を決めて目を瞑ると、意外なことに頬に残る冷たい感覚が額に移っただけだった。
「…堂々と人のスカートの中を覗かないで貰える?」
そんな声から恥じらいは感じられ無かった。不可抗力だった気がしなくもないけどな。
「白雪かよ。案外セクシーなの着てるんだな、彼氏と待ち合わせでもしてるのか?」
「アンタと待ち合わせしてんの。あと私が何着てても良いでしょ」
軽口を言い合いながら上体を起こして、膝上に置かれた冷たいスポーツドリンクで喉を潤す。
「…涼し気で季節感あって良いと思う」
高校に来る時は制服だが夏服のせいか妙に色っぽい。
隣にしゃがみ込んだ少女は鞄を俺の膝上に置いた。
「感想は求めてない」
ふふっ…と微笑む白雪に、こつんと軽く頭を小突かれる。
これがパンツを覗かれた女子高生の反応だろうか。どこまで意識されてないんだ俺は。
…いや、意識されてない事はないんだっけ。
という事はこの程度では揺るがない関係性になってるって事か。
「…で、俺なんで朝っぱらから呼び出されたの?」
「これ」
白雪は人の膝に置いた鞄から一枚の紙を取り出して見せてきた。
文化祭に関係する書類の様だ。
白雪も一応学級委員の一人なので、クラスの出し物に関しては主導者の一人である。
夏休み中は図書委員の仕事は一切ないのでこっちに専念してる。
「あぁ、出し物演劇で通ったって話か。ん?本番で体育館使って良いんだ……ってこれ何で俺に?」
「色々やることあるから手伝って」
「えっ俺?他の学級委員が居るだろ」
「些細な内申点目的の飾りね」
成績優秀者で部活不参加だから参加させれてる白雪は苛々を隠すこと無くそう吐き捨てた。
奥村さんは真面目だからちゃんとやってるんだけどな。
「手伝って、パンツ見たんだから」
「…はいはい、仰せのままに」
それダシにするんじゃないよ。眼福だったから頑張るけど。
そう思ってふと、白雪のスカートに目を向けた。
…白雪って普段からこんな紐パン履いてるのかな。それとも勝負下着なのか?いや、だとしたら俺との用を済ませた後に一体何処に行く気なん…
「人の股間見ながら何考えてるのか知らないけど、らしくない事は考えない方が身のためじゃない?」
白雪がそう言うので、俺は視線はそのままにしながら丁寧に言い訳を並べた。
「いや、演劇でさ…白雪姫とか提案しておけばメインヒロイン即決だったのにとか今更になって気付いてさ」
「なら顔を見なさい、なんでスカート見てるの」
どの事なので視線をゆっくりと上げていく。
途中でボタンを弾き飛ばしそうなくらいにワイシャツを押し膨らませていた山脈があったものの、無事に視線は白雪の整った顔に辿り着いた。
…てか、ちょっと空色のブラジャー透けてますよ。
上下セットなんですねそれ、夏らしい色合いで良いと思いますよ。
「白雪って丸眼鏡似合いそうだよな」
「今度は突然何を言ってるの?それと大分胸で視線が止まってたけど」
「仕方無いだろ、透けてて気になったんだから」
「嘘…?」
立ち上がって自分の胸元を確認する白雪に、ずっと感じていた疑問をぶつけてみた。
「白雪ってさ、真っすぐ立ってる時につま先見えるの?」
立ったまま少しだけ胸を見下ろすと…
「見えない」
と呟いた。
…あれ?俺さっきからセクハラしまくってる気がする。
これ相手が白雪以外だったら絶対にやってない。
遥香でも雫でも祢音でも如月でもやってない。
白雪だからできる。やっていい事ではない気がするけど。
「まあ良いや。夏休み中はいつでも呼んでくれれば手伝うよ。どうせ暇だし…。因みに、奥村さんはもうシナリオ書いてるのか?」
「話が通ってすぐから書き始めたとは言ってた。ミュージカル風とか一切無しでガチ演技だって」
「おぉ、監督がやる気なのは良いことだな…。てことはキャスト選びも奥村さんがやりそうだな」
「それ以外は皆は裏方って事になるかも。本番が体育館だからチラシとかも考えないと」
上映時間やタイミングはシナリオが出来てかつ話の流れが一通り完成しないと図れない。
アレンジはでいいから、取り敢えずはクラス全員にシンデレラの物語について復習しておく様に連絡してある。
「なんせアレンジは先生向けに…だからな。ちょっとハードル高い感じする」
「素人に書かせる物じゃないとは私も思う。でもこればっかりは奥村のセンスに任せるしかない、他にできそうな人もいないし」
白雪の言う通り、他にできそうな人が居ないからアシスタントとか付けようがない。
唯一、時間はたっぷりとあるので台本さえ出来上がればキャストに関しては後は練習あるのみとなる。
文化祭の事情があるのなら部活参加は辞退してもいい様だから、瑠衣の様に部活に打ち込んでる生徒も交流を楽しめるはずだ。
「…ま、次までは台本待ちか。奥村さんに期待だな。おっ、試合勝ったか…。流石“王子様”役は違うね」
「……王子様役決まってるの?」
「99%揺るがないだろ」
何となくそんな気がするだけだが、奥村さんに瑠衣への偏見やシンデレラという物語への異様な感情が無ければそうなる筈だ。
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