第53話 告白

 俺が瑠衣と白雪の二人と仲良くなったのは、俺と瑠衣が殴り合いの喧嘩をしてから一週間ほどした後の事。


 あの日は喧嘩をしたときと同様の公民館…ではなく、偶然学校の体育館に三人で集まった。


 俺達三人は放課後、部活をサボってそこに居たのだ。そこには誰の意図もなく、本当にただ偶然で。


 どうしてかは知らないが多分理由は無いんだろう…体育館に入ってきた俺に、白雪が話しかけてきた。


「…君さ、黒崎椿の彼氏だよね」

「そうだけど、それがなんだよ?」


 中学ではかなり有名だったから、俺は否定せずに聞き返した。

 すると、瑠衣がこっちにバスケットボールを投げ渡してきながら…


「随分と不釣り合いだね。暇なら付き合って」


 …と言った。

 仕方なく、俺も前に出た。


「…金村君って、サッカー部じゃなかった?」

「よく知ってるね」

「そりゃあね」


 白雪と瑠衣はそれまで同じクラスに居たようで、話をすることも少なくは無かったそうだ。


「不釣り合いなのは知ってる、幼馴染だから偶々そこに居られるだけだからな」

「幼馴染ねえ…」

「なんだよ?」

「別に」


 それから一時間近く、俺と瑠衣は1on1に向き合った。まあ、俺ごときが瑠衣のスタミナと身体能力についていける訳もなく。


 ただ俺は瑠衣の態度がなんとなく気に入らなくて、苛立ちから意地だけで無理矢理について行った…そのせいで疲れ果ててゴール下に座り込んだ。


 すると、白雪が俺にスポーツドリンクを投げ渡してくれた。

 中学校の近くにコンビニがあるので、わざわざそこに行って買って戻ってきた事に気付いて顔を上げると、その時に初めて白雪美咲がかなりの美少女だと知った。


「…意外に熱い性格してんだ、君」


 そう言われた時、俺は思わず目を逸らした。


「……意外で悪かったな」

「本当だよ、ちょっと僕もびっくりした。思ったより動けるんだね」

「なんだ?煽ってんのか?」

「……その喧嘩っ早いのどうにかなんないの君」

「前はお前が喧嘩売ってきたんだろうが…」


 結局やり返したのは俺だけど。


「…偶には、またやろうよ。今度はサッカーで」

「やんねえよ、何気にサッカーに持ち込んでんじゃねえ」


 汗が落ち着いてきた後、立ち上がって白雪と目を合わせた時に…何故か少し顔を背けられた。


「…今更だけど、俺お前らの名前知らないんだけど…」

「白雪美咲、昼休みとかはほぼ毎日図書室に居るから」

「…お前は?」

「僕は金村瑠衣。あ、君の自己紹介要らないから」

「……あっそう」


 自己紹介要らないとか、俺じゃなくて椿が無駄に有名なだけで。


「で、東雲君…」

「マジで要らないのかよ…」


 学校自体かなり広いしクラス数も多い、俺は二人がどのクラスの人なのかも知らなかったがそれ以来はかなりの頻度で会うようになっていた。


 それこそ、学校では椿と話す機会が減ったくらいには。


 あまり友人との関係が続かない俺にとって、この二人はどうしてか長続きした大切な存在になった。


 誰かが間に居るから、とかじゃなくて。

 白雪と瑠衣も二人で居るときに普通に友人として接するようになったし、俺も三人だけでなく二人でいる時も関係は変わらず友人だった。




「……こっち来たのいつぶりだっけ」

「それこそ二年ぶりだろ、中学校なんて来る機会ねえし」

「確かにそれもそっか」


 温泉旅行から帰って来た翌日、白雪が突然俺と瑠衣を中学校に呼び出してきた。


 というのも、その日は白雪の誕生日だった。元々三人で外食に行く予定ではあったのだが…17歳になる誕生日に何故こんな所に…。


 なんでか知らないけど、学校に許可は取ってあるらしい。


「…で、なんでここなの?」

「別に理由は無くて、昨日久しぶりに校門の前通ったから三人で来たいなって思っただけ」

「ふーん」


 そんなに大きな理由は無いらしい。


「って言うつもりだったんだけど…。実はちゃんと用があって来た」

「…ん?」


 前と身長は違うが、変わらない高さに感じるゴールの下に立つと、白雪はまっすぐに俺の目を見た。


「私は…ここで座って、汗だくのまま項垂れてた東雲君に一目惚れしたの」

「「………は?」」


 突然の告白に俺と金村は思わず声を漏らした。

 まさかここでそんな事を言われるなんて思ってなかった。

 それ以上に、白雪にそんな気持ちがあることに驚いたけど。


「…返事はしなくて良い、今の東雲君がそういう事考えてないのは知ってるから」

「……ならなんで今…そんな事を」

「いい加減我慢ならないでしょ、東雲君モテすぎなんだよ」

「えっ、なんかごめん…」


 急に睨まれたんだけど、俺悪くないよねそれ。

 思わず謝ってしまったけども。


「今年に入るまで私と椿ちゃんの他に話す女の子なんて居なかったくせに…」

「…なあ瑠衣、俺なんでキレられてんの…?」

「どう考えても君が浮気性だからじゃない?」

「俺かなり椿に一途だったろ…」

「それ以外に話してたの私だけでしょ」


 そうだけど、他に友達なんて居なかったんだから仕方ないだろ。

 後輩がなんでか懐いてくれたからこうなってるだけで…。


「…とにかく、頭に入れておいて」

「あ…うん…」


 ……あれ…?俺なんでこんな事になってんの…?

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