第54話 微妙な空気

 頼んだステーキが来る間、隣で肩の荷が降りたようにスッキリした顔の白雪がうつむいていた俺の顔を覗き込んで来た。


「浮かない顔してるね」

「誰のせいだと…」

「私のせい」


 分かってるならそんな事実確認みたいなことしなくて良いんだよ。


「……ねえ凛華、僕実は…ちょっと前に如月さんに相談されたんだよね」

「…如月と面識あったのか?」

「あったけど、話したことは無かったかな。それまでは。でもどうしても…って言われて、相談乗ったんだよ」

「なんの相談?」

「『どうしたらリン先輩と付き合えますか?』だってさ」

「……ごめん、なんか本当に、知らないうちに迷惑かけてるみたいで」

「凛華が謝ることじゃないよ、可愛い子しか寄って来ない様になる秘訣とか教えてくれれば良いから」


 知らねえよそんな事。


「…それ私も知りたい、今のところ東雲君にその気無いんだから、どうすれば良い?」

「おいそれ本人居るところで話すなよ」

「既成事実でも作っちゃえば?」

「瑠衣お前ふざけんなって!そういう話するな」

「東雲君、この後二人だけで私の家来る?親居ないけど…」


 二人の話は無視して、俺は店員さんを呼んだ。男性の店員さんと少し話をしてから、一礼して離れて行くのを見送り、二人に向き直る。


「…急に何?」

「いや別に、注文追加しただけ」

「なんで急に」

「気にすんなって、それよ……り…」


 話と視線を反らした時、隣の列の席に見知った顔が座った。

 眼鏡を外してこちらを見ると、驚きながらも会釈してくる。


「あっ…どうも…凛華先輩」

「…朝比奈さん、どうも」

「あ…えっと…」


 瑠衣たちにも挨拶しようと、立ち上がろうとしたので、手で静止する。

 流石に他のお客さんとか居るし、家族で来てる様だからそんな事はしなくていい。


 ふと、朝比奈さんの奥に座った穏やかそうな女性が朝比奈さんに声をかけた。


「唯、知り合い?」

「うん、高校の先輩。仲良くしてもらってて…」


 あのさ、その言い方止めない?なんかまるで俺が仕方なく仲良くしてあげてる…みたいな印象持たれそうで嫌なんだけど。


 朝比奈さんが家族に俺達のことを話している内に、こっちは注文してたステーキが来た。


「…まさかこんな所で家族連れの知り合いに会うとは…」

「まあ、今日本当に学校も何も無い日だからね。こんなこともあるって」

「絶対、東雲君が居るからだと思うけど」

「まるで人の事をトラブルメーカーみたいに言うな…」

「トラブルメーカーじゃなくて、美少女ホイホイだよね」

「止めて、隣に聞かれんの恥ずかしいから」


 なんでそんな単語聞かれなきゃ行けないんだよ。

 こっそりと横を見ると、変な会話を聞かれてる様子はない。


「……朝比奈唯さんだっけ、あの子も如月さんの友達?」

「そ、確か吹奏楽部でパーカッションやってた。野球部の夏大会でもちょっと紹介されてたよ」

「そうなの?高校野球見てないから知らない」

「…鍋島先輩居なかったっけ…よく見る気になったね凛華」

「いや、寧ろ居たから見てたんだけど…。次の試合とか見に行こうかなって思ってるくらいだし」


 意外に見てると、野球というスポーツが面白いことを知った。


「…吹奏楽部か…。よく部活やろうって思えるよ」

「眼の前にサッカー部のエース張ってる奴居るだろ」

「金村君はサッカーじゃなくても行けたでしょ、スポーツならなんでも」

「まあね」

「否定しろよ」


 なにが「まあね」だよ、その通りなのが余計に腹立つ。


「……ここ初めて入ったけど美味しいね」

「俺も思ったそれ、ここ良いな。金村の誕生日にも来るか」

「そうだね、覚えてたらまた来よう」


 多分その頃には忘れてるんだろうけど。

 俺は、微妙に気まずい空気が漂う隣の朝比奈さん家族をチラチラと気にかけながら……ステーキを満喫した後、白雪にはサプライズケーキも楽しんで貰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る