第39話 人見知り
館内にある休憩スペースで木下さんの妹さんと軽く戯れていた。
日頃小さい子供と関わる機会というのは滅多に無いのだが、これ正直悪くないな。
六歳だというこの子は木下千春。彼女は木下小春さんの妹、自分は自分が思ってるよりも子どもとの触れ合いが好きな様だ。
俺も割と小さい子に懐かれやすいのかな。
木下さんの隣りに座って話をする古山さんは、いつもとは違うどこかフワフワした様子。
そもそもそんな慌てるような状況でも無いと思うんだけどな。
「なあ千春ちゃん」
「おにーちゃんなあに?」
「小春さんっていつもは家だと何やってるの?遊んだりしてくれる?」
「あんまり遊んでくれないけど、マジメだからジャマしちゃだめなんだってお母さんが」
お母さんが…ね。
「小春さんは家だと勉強ばかりしてるのか」
「うん、わたしも同じくらいがんばんないとだめなんだって」
「…そっか…。じゃあ今日は二人で出掛けるの楽しみだったのか」
「そうなの!」
ボクという一人称のせいか、身長の割にボーイッシュな印象を受けるお姉ちゃんに影響されていたりはしないらしい。
真面目なのは好印象だが、勉強ばかりしてるのはなんかイメージと少し違う。それが悪いとは言わない…というか大事だとは思うけど。
単純に外見や話してる印象だけでいくとアウトドアなイメージなんだが、実際は図書委員を真面目にやってたり白雪と仲良かったり家では勉強漬けだったり…らしい。
今日みたいに息抜きしてる日に遭遇したのはちょっと申し訳ない。
「古山さん、そろそろ話終わったか?」
千春ちゃんを抱っこして、ベンチに居る二人の所に戻る。
ある程度話は終わったらしい二人はこっちを見ると、どことなく表情を曇らせた。
「……千春…凛華先輩は大丈夫なんだ…」
おっと、なんだその反応は?
そう思って聞くと…
「…大丈夫って?」
…意外な答えが古山さんから返って来た。
「人見知りすぎて私も殆ど声聞いたことないし」
「えっ…人見知り?どこが?」
「……千春は、家族以外だと誰にも懐いた事無かったから、本当なら預けるのちょっと心配だったんですけど…」
どうなんだろう、実際人見知りが周りにいないからあまり分からない。
「…まあ、それは良いよ。二人は何話してたんだ?俺に言えないこと?」
急に二人だけで話したいとか言われてこうなってるからな。
「えっと……」
「…ごめんなさい凛華先輩、正直先輩には言えないです。秘密にしなきゃいけない話なので」
「そっか…。なら良いよ。ならどうする?」
「どうって…?」
千春ちゃんを木下さんの膝の上に下ろして、ベンチに座る木下さんに目線の高さを合わせてしゃがむ。
「この後二人ずつに戻るのか、四人で歩くのか」
「えっと…」
古山さんはなんとなく木下さんを睨んだ気がした。多分二人だけで歩きたいんだろうけど。
木下さんは少し考えてから千春ちゃんの頭を撫でながら…
「…あの、もう少し…ご一緒させて貰っていいですか」
…と。
そうでしょうねえ、だから聞いたんです。
古山さんと二人だけで歩きたくないわけではないが、取り敢えず千春ちゃんがどことなく寂しそうな雰囲気を出したのでそう聞いた。
多分木下さんもそれに気付いたから言ったんだろうな。
流石に古山さんも小さい子の気持ちを優先するだろう。
小さくため息をついてから立ち上がって、千春ちゃんに手を出した。
「じゃ、もう少し水族館見てこ」
「…うん」
あ、うんさっきよりも雰囲気暗いわ。
人見知りってこういうことか。
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