第10話 後輩女子に懐かれた

 暖かい風が入ってきて夢心地の授業中、冷たい指先で目を擦る。


 次が昼休みなのを良いことにチャイムが鳴ってからも少しだけ続いた授業。

 号令の後、席に座り直す。


 すると当然のように瑠衣と白雪が寄ってきた。


「…ふぁ…眠い…」

「これだとお腹も空かないね」

「そうかな、普通にお腹空くよ」

「…あー…そうだ、俺如月のとこ行って来る」

「あれ、大丈夫なの?」

「大丈夫だろ」


 無責任に呟いてから、弁当持って教室を出る。


 朝と同様に不人気者の気分をぞんぶんに味わいながらいつもの空き教室に入ると……。


 なにやら如月が女子に囲まれてるじゃないか。

 リンチにでもあってるのかと思ったが、どうも違うらしい。


「友梨奈、この人に脅されてんの?」

「えっ…違うけど…」

「そう言わされてたりしない?」

「えぇ…?」


 何があったんだこれは?

 どうも見た感じ、彼女達は如月の友人。

 一応話はしたが、誤解は解けなかったと言ったところだろうか。


 案外、友人じゃなくてただのファンな可能性も高いが。

 取り敢えず俺は、ちびっ子に指差されても気にしないで机と椅子を準備する。


「何で平然とお昼楽しもうとしてるんですか!」

「いや、だって実際お昼だし…。てかさ、君たち誰?」

「わ、私は…「あ、やっぱいい」はあ!?」


 ずっと如月の肩に手を乗っけてる眼鏡っ子をちょっとからかってやると、予想通りの反応で少し嬉しかった。


 俺は笑いながら、自分以外の四人の女子生徒達にも椅子を用意してあげた。


「ほら、立っててもあれだろ。座って」

「…あ、どうも…」

「ありがとう、ございます…?」


 返事を返してくれたのは俺と同じくらいの、高身長な美人さんと着崩しのせいか雰囲気だけはギャルの子。


 なんだ素直じゃんか。


「えっと、リン先輩?」

「ん?なんだ」

「このまま行くんですか?」

「別にやましい話するわけじゃ無いし…。てか、君たちはお昼良いのか?持ってきたら?」

「あ、はい。持ってきます」

「えっ?」


 困惑しっぱなしの如月と、思ってた以上に素直な女子4人組。


 その後、取り敢えず4人の顔と名前を把握して、丁寧に誤解を解いていった。


「…てことは、東雲先輩と友梨奈は仲良しですか」

「な…んー…なんか言い方に当たり障りがあるけど、そう、仲良し」

「私、自分から脅されてるとか仲悪いとか一言も言ってないから」

「そ、そうだけど…言わされてるかも知れないじゃん!」


 おぉ…なんか、珍しく如月が怒ってる。

 それはそうと如月は流石に遥香以外にも友達居たんだな。なんか良かったです。


「そもそも弱み握ってるって何?握られる様な弱み無いし!」

「素行良いもんな如月は。うちに居るとき以外では」

「「ぬぁだ!?」」

「!?」

「ごふっ!?…ゲホッ……」


 眼鏡っ子こと朝日奈唯さんと、ちびっ子こと木下小春さんが突然奇声を上げ、その隣だった如月はビクつき、高身長の中川祢音ねおんさんが咽った。


「な、なに?皆」

「家行ったんですか!?」

「あ?あぁ、如月が妹と仲良いから…。俺が話すようになったのもそれだし」

「あ、そ、そう…ですか」

「ビックリしたぁ〜…友梨奈が連れ込まれたのかと…」


 あらぬ誤解を生む形になりかけたが、大丈夫だった。


「妹って、東雲遥香?」


 聞いてきたのは雰囲気ギャルこと、古山穂香さん。


「そうそう、クラスメイト?」

「…確かに似てる…。けど、話した事ないし」

「だろうね」

「なに『だろうね』って…?」

「いや、遥香はクラスメイトとかと滅多に話さないだろうから」

「ふーん…馬鹿にされた訳じゃ無かった」


 明確に馬鹿な行動してない限り馬鹿にはしない。俺は一体何だと思われてんだよ。

 …てか、この子先輩にタメ口かよ。

 それとも俺だからなのか?

 別に良いけどさ。


「え、でも友梨奈と話してるとこ見た事無いし」

「君らって如月とは中学から?」

「私と唯はそうです」


 肯定したのは中川さんと朝日奈さんの二人。


「アタシ小学生から」

「ボクも小学校で…」


 …このちびっ子ボクっ子でもあったのか…。

 成程、ファンというよりは普通に友達。

 古山さんと木下さんに関しては10年近く付き合いがあると。


 遥香と親友みたいな事言ってたし、相当気が合うんだろうか。


「…成程ね」

「難しい顔してますね、おかしなこと言いました?」


 聞いてきた中川さん、俺は首を振って否定した。


「いや、おかしなことは無いけど、疑問はあった」


 俺は弁当を片付けながら如月に目を向けた。


「前のアレ、大事になる前に如月はこの四人相談とかした?」

「…してません」

「なんで?」


 真面目に問い詰めると、そーっと視線をそらした。

 すると、古山さんが助け舟を出して来た。


「友梨奈アタシたちに相談してきたことないし」

「そうなんですよ、この子そういうの絶対に言ってくれないんです。先輩もなんとか言ってください」

「思い詰めた顔してるから話しかけるのに、すぐ逃げるし」

「昔からこう、ボク達にくらいちょっとは話してくれて良いと思うんですけどね〜」


 全く助け舟じゃなかった。

 確かに、遥香にも相談はしてなかったな。目逸らすわけだよ。


「だ、だって!心配かけたくなぃ……」


 あら可愛い。

 なんかし徐々に聞き取れなくなったけど。


「あーもー友梨奈は可愛いなぁ〜」


 古山さんがぎゅーっと如月に抱き着いた。

 それに続いて中川さん、木下さんと抱き着きに行った。

 そして朝日奈さんも如月の手を握った。


 少し前の如月の事を見て、同性の友人なんて殆ど居ないんだと思ってた。


 けど、流石にそうだよな。


 表に名前が出る前からの知り合いや友人だったら、仲良しな人が居ても不思議じゃないし、名前が出てからも遥香という親友ができたくらいだ。


 如月自身は決して悪い子じゃないし、嫉妬される事は多くても、ちゃんと見てくれる子は居る。


 身を寄せ合う5人を見てホッコリする反面、とても思うことがある。


「……あのさ、俺の前ではそういうの辞めてくんね?」


 ダメ元で言ってみると、案の定木下がニタァと口角を上げた。


「あれ、友梨奈に抱き着けるのが羨ましいんですか〜?」


 そこに朝日奈さんと中川さんが続いた。


「てっきり“リン先輩”とか呼ばれてるからそのくらい普通だと…」

「そうね、私達も“リン先輩”って呼びますか?」


 くっそ、好き勝手言いやがって。


「女みたいな名前してて悪かったな!」

「誰もそんな事言ってませんけど」

「気にしてるんだそれ…」

凛華りんかですもんね、妹が遥香はるかだからほぼ姉妹ですね」

「身長以外はそっくりだし」

「あ、あの…良い名前だと思いますよ…?」


 フォローしてくれんのは如月だけか。

 本当に良い子だな。


「てか、リン先輩面白いね。明日からアタシもここ来るから、よろ」

「ん、まあ良いけど」

「私も来ます。教室だと孤立するので」

「ああ、中川さんは如月と同じたちだよな、そんな気する」

「どういう意味ですかそれ?」

「美人さんって意味」

「そうですか」


 欠片も靡かないじゃん。

 やっぱ俺じゃ駄目か。 


 その後は「如月料理できなら、今度は教えるよ…」とか、そんな話をしながら昼休みを終えた。


 そんな感じで、後輩の友達が四人ほど、お昼のメンバーが二人ほど増えたのだった。

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